眼帯姫と魔王の婚活事情
チェレステのざっくりとした説明に魔王が補足する。理性的に話す青年魔王の言葉をヴィオランテは素直に受け止めた。だが、腹芸の出来る者の話し口ではない。魔族以上の精神的魑魅魍魎が跋扈する王宮で生き抜いて来たヴィオランテにはよく分かる。彼は誠実な青年だ、と。
彼の話によると、ヴィオランテのいる世界が異世界で物語になっているようだった。物語の存在自体は知っていたが内容を知らないので、家臣団と父、祖父の言うままにこちらの世界に来たらしい。目的は〝嫁探し〟。最低でも一人、最高で百人単位の女性を連れ帰ることが目標らしい。魔族の住む世界__魔界は男しか生まれない。魔族はそれぞれの特徴はあれど人型が多い。生物としての繁殖方法は人類と同じ。よって、こちらから女性、それもチェレステのような力の強い女性が望ましい。故に、戦闘を起こしてそこに参加する聖女を拐かしている。青年魔王はそんなやり方に反対していた。大体の女性が精神を病み、産んで一人、二人。その後は余り良い人生とは言えないからだ。
魔族は神々が各々の世界で生態系を崩すような力を持ち過ぎた存在で、魔界ではそれらを廃棄する処分場だと伝えられている。こちらの世界では十把一絡げに魔族と呼んでいるが、実際は全く違う生物なのである。
時折開く次元の歪みを利用して、こちらの世界へ嫁探しに来ていた。血の気が多いのは確かだが、魔王の知る限り前世の人類の戦争史を考えるとそこまで残虐ではないと言う。魔族同士の理念の違いによる対立はあれど、代表選出戦以外は争いをしてはならぬという法律がある。
「代表選出戦……。」
「まずそれぞれの部族から代表を決めるんです。推薦制のところもあるし、指名制のところもあるし。ウチは一家総出で予選やるんです。選出戦と同じやり方、眷属を出して、模擬戦みたいな感じで、戦争の真似事するんです。初めて見たときは運動会の騎馬戦思い出しました。戦略とか考えなきゃいけないからもっと複雑ですけど。」
魔王は前世ミリオタの気があったので、そういったことも上手く作用して今回の代表選出戦の勝者となった。ちなみに代表選出戦のルールとして、眷属は殺してもいいが魔族は殺してはならない、眷属が一人もいなくなるか、降参したら負け。つまり大将首を取るのはNG。魔族同士で争えば、嫁探しどころの騒ぎではなくなるからだ。
「それ以外は割と平和ですよ。先祖が頑張って開拓してくれたお陰で色々ありますし。こっちで暮らしてみて思いましたけど、もしかしたら魔界の方が豊かで安全で平和かもしれません。」
何もない空間に大地を作り、木々を植え、水を流し、光で照らした。まるで前世の創世神話のような話だ。
「ただ、魔力が一定量以上の人でないと耐えられない環境なので……対処法はありますけど、非現実的と言うか……。いわゆる聖女が必要なんです。魔力酔いとでも言うんでしょうか、そういうので、衰弱しちゃうんで。そのために、魔力に対して反作用がある力がいるんですよ。だったら聖女に来てもらった方がいいんです。歴代代表がこっちに置いて来た魔力を多く取り込んでる人なら大丈夫なんですけどね。部族によっては、力の弱い女性をまとめて拐って来るところもあるんで、聖女がいると安心なんです。まあ、男の人でもいいんですけどね。聖女は美人が多いから、ついでに奥さんにしちゃえって考えてるとこが大半なんですよ。だからこっちで交渉じゃなくて戦争を起こすんですけど。聖女なんてこっちでも貴重なのに、そんな人、魔界に派遣してもらえないじゃないですか。今回、この国以外の軍も丸ごとカプセル化したので、今頃チェンが魔界に連れてってると思います。でも、あっちの聖女、チェレステ殿下ほどの力がなくて……。殿下の力はおじじが言うには歴代最強って話でした。だから絶対に口説いて、あ、紳士的に、いや、その、えと、はい……。」
チェレステの口元が弛んでいるのをエリザベッタは見逃さなかった。この二人、もう結婚しちゃっていいのでは?けれどそうするとチェレステは魔界へ行くことになる。会えなくなるのは寂しい。結局、エリザベッタは相変わらず神妙な顔で話を聞くに徹した。
「最終的に、歪みを固定してこちらと魔界をつなぎたいと長老会は考えています。技術は既に確立してます。今も開きっぱなしだし。それで今回が一回目なんですよ。まあ、そんなことしても受け入れられないと思うので、征服前提なんですけど。でも、魔界の人口考えると、いくらそれぞれが強いからってこっちとの全面戦争に勝利って難しいんですよ。寿命がやたら長いもんで、みんな気長に考えてるんですけどね。とりあえず、俺は斥候みたいな感じだと思ってもらえれば。」
「そんなこと、マンガにはなかったわ……。」
チェレステは深刻な顔でつぶやく。ヴィオランテが発言の許可を求め、尋ねた。
「チェレステ殿下の先見は前世の知識ということでよろしいのですか?」
「ええ、そうよ。今まで外したことはないわ。」
チェレステが言うには、出来事が物語の時系列から逸脱せずに進んでいるとのことだ。
「ストーリー通り、このまま貴方を滅しても、結局開いたままの穴を通って他の魔族がすぐに来るってことよね?」
「準備があるんですぐにとはならないでしょうけど、そうなりますね。」
物語はエリザベッタとランベルトの結婚で終わる。ハッピーエンドの先に阿鼻叫喚の地獄が待っていたなんて、誰が想像するだろうか。
しかし、エリザベッタは考えた。出入口が固定されているのならば、姉と完全なお別れとはならないだろう。融和政策を取ればいいのでは?けれど、そんなお花畑思考、この世界の人々が受け入れるだろうか。今まで一方的に蹂躙されて来たのだから。
「今回拐った人たちはみな無事なの?」
「ええ。他国の人たちも含めて。父がカプセル解除して聖女を口説いてる最中なんじゃないかな?男性はそのままかもしれませんが、交渉に使えるはずだから人質として残しといてくれと伝えてあります。俺が戻らない限りは代表者の作戦に従うのが掟なので、俺の指示がなければ何もしないはずです。」
「なるほどね。政治的交渉の代表も貴方でいいのかしら。」
「そうなります。ここまで来たらもう話をまとめて平和的解決に結びつけたいです。これまでの賠償も考えてます。こっちで価値のある物を輸出することも出来ますし、魔道具の技術提供も考えてます。その代わり、空間の固定を認めてもらって、魔族の嫁探しの邪魔をしないでもらえたら、と。」
嫁探しの対価としては大き過ぎるのではないかとチェレステが呆れながら言うと、それくらい魔界では価値のあることなのだと苦笑した。魔族は不老長寿。彼の父や祖父もまだまだ現役で子作りが出来る。しかも彼の部族は皆こぞって美しいそうだ。
(この人も俳優とかになったら人気出そうだな〜。)
とエリザベッタは明後日な感想を抱いた。
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