眼帯姫とお姉さまは前世を語る決意をする
魔王も日本からの転生者。
『貴方、魔王クワン・チュンイェンよね?』
「はい!やはりお分かりになりましたか!」
「ちょ、興奮しないで!!」
ずすいと顔を近付けて来たのでチェレステは思わず仰け反った。顔が熱い。自分の頬は紅潮しているだろう。自覚はあった。この声と顔に弱いのだ。全身が心臓になったようにバクバクと脈の音が響く。
視界の端で侍女が動こうとしたがチェレステはそれを制した。騎士が入れないため、近接格闘の訓練を受けた侍女が配置されている。ちなみにこの世界に女性の騎士はいない。
魔王は話を続けようとしたが、馬車が迎えに来てしまった。このまま王宮に連れ帰って保護したいところではあるが、それも難しい。というか、説明が難しい。魔王が眷属から逃げて来たなんてそんなアホな話を誰が信じるというのだ。きっとエリザベッタしか信じないだろう。
「また明日、ここで落ち合いましょう。同じ時間に来られる?」
「あ、明日は頼まれごとがあるので……今の時間くらいに来るような感じになりますけど、大丈夫ですか?」
「分かったわ。待ってる。」
「あの!貴女も、〝日本からの転生者〟で、合ってますよ、ね?」
「そうよ。他にも仲間はいるわ。詳しい話はまた明日。ではね。失礼するわ。」
「はい、はい!また明日!」
魔王が聖女を拝み倒している姿に、なんだかなぁ、と思うチェレステなのであった。
『失恋した。』
厳密に言えば失恋ではない。解釈違いが発生したと言えるかもしれない。いや、ジャンルが違う?チェレステにしても何とも形容し難い状況であった。
『まさか、魔王と会ったんですか?』
いつもの姉妹会議。もちろん会議場はベッドの上だ。
『会った。中身日本人だったわ。』
『わ、マジですか。』
ひどい。いや、ひどくない。これで世界の平和は保たれる。そうは思うのだが、世話焼きオカン体質の眷属とのイチャイチャだったり、見た目子どもの人工無邪気キャラ眷属がSっ気出し始めたり、崇拝が行き過ぎた眷属が思い余って下克上したり、本心としてはそういうのを希望していたチェレステにとって、魔王が転生者というのは悲劇以外の何物でもなかった。まだワンチャンあるかもしれないと心の片隅で考えてはいるが、眷属から逃げて来た時点でもう詰んでいる。魔王軍のわちゃわちゃが楽しいのになぁ、と少し涙目だ。
(いや、無理矢理引き戻されて魔王総受け……?ダメダメ!中身日本人の仲間だし!もうそんな目で見れないし!)
魔王は早急に聖女から逃げた方がいい。存在を消されるよりも尊厳を消される可能性が高い。
『はあ。とりあえず、今後の方針決めないと。彼の身柄は保護するとして……。』
『どのような名目で保護をするんですか?』
『名目……囚われた騎士の救出のために協力を仰ぐ、じゃダメ?』
『魔王が味方に、とか、信じます?』
『どうかしらね……いざとなれば前世の話を、とは思ってるけど。』
『お姉さまのこともお話になるんですか?』
『そうね。その方が説得しやすいと思うんだけど。エリザベッタはどうする?』
前世の話を打ち明けるのは別にいい。ただ、人というものは異質なものに対して過剰反応する。もしかしたら、魔王と同類判定の上、チェレステとエリザベッタも攻撃対象になるかもしれない。自分は以前と変わりないが、チェレステは大丈夫だろうか。姉は暴露によるリスクを考えてないように見える。
『私も言ってしまおうと思います。』
チェレステを一人にはしない。そんな気持ちだった。己は人と違うことに慣れている。最悪の場合、チェレステとエリザベッタ、ついでにその人の良さそうな魔王と逃げてしまえばいい。国王が何らかの恥をかくだろうが、あの父王はたまには痛い目を見ればいいと思うエリザベッタなのであった。
ふと、親しい人の顔が過ぎる。ヴィオランテは事情を話せばついて来てくれる気がする。彼女はエリザベッタの境遇の原因の一端を担ったと思っているから、何があろうとも残りの人生はエリザベッタに尽くして終わるのだと公言している。ピエトロは気にしないと思う。あの人はそういう人だ。先生は?まだそこまで親しくない。一線を置かれるかもしれない。怖がられるかもしれないし、憎まれるかもしれない。弟子としては認めてくれているけど、それとこれとは違うのだと思う。
なら、ランベルトは?
エリザベッタは想像が出来なかった。初対面でエリザベッタを全否定したランベルト。謝罪以降、エリザベッタを全肯定するランベルト。どっちもランベルトだが、極端過ぎてどちらを選ぶかが分からない。彼は魔王や魔族に対して並々ならぬ怒りと憎しみを抱いていた。何の関係もないエリザベッタに八つ当たりする程度には。
魔王を受け入れろと言っても、ハイ喜んでとはならない。それはこの世界の人間ならば誰しもそうだろう。
(そしたらサヨナラだな。私たち三人で逃げれば、誰も敵わない。)
寂しくも思うし、それで正しいとも思う。
チェレステ以上にエリザベッタはこの世界で異物だ。チェレステは馴染みきっているとは言えないが、己で居場所を作っている。
(魔王さんはどうするのかな。精神的なこと考えると、人間の世界で暮らした方がいいと思うんだけど。)
それが叶うかは分からない。逃亡するにも、地の果まで人々は追って来るだろう。
(お姉さま、どうするつもりなのかな。)
『ねえ、エリザベッタは……エリザベッタ?』
『あ、ごめんなさい、聞いてませんでした。』
『ううん、私も考え事してたから。でね、明日神殿に行くとき、エリザベッタにも来て欲しいのよ。』
『私が神殿に入って嫌がられませんか?魔の色ですし。』
『それを言ったら魔王が神殿にいること自体おかしいわよ。大丈夫。』
(そりゃそうだ。)
『クワンさんと話せるように、神殿の私の部屋で。神殿の中は元々騎士服を着た護衛は入れない。出来れば侍女も遠ざけたい。だけど、絶対にヴィオランテは許さないと思うのよね。』
エリザベッタは頷いた。ヴィオランテは出来る限りエリザベッタを視界に入れておきたいと考えている節がある。
『ヴィオランテに、話を聞かせてもいいと思う?そうすれば他の侍女を下げても問題ないのよ。どう?』
エリザベッタが悩んだのは数秒だった。
『はい。むしろヴィオランテには聞いてもらった方がいいと思います。あの人が私を裏切るとは考えにくいので。』
『確かに。』
チェレステの同意も素早かった。安心安全信頼のヴィオランテなのである。
『問題はその他なのよね〜。』
『いざとなったら三人で逃げましょう。』
『いいの?』
『結界張って籠城でもいいですよ。』
『私とエリザベッタの結界なら誰も突破出来ないからね。』
『魔王さんが加われば百人力です!』
そんなことをしたら何の娯楽もないけれど。そう思いつつも嬉しそうなエリザベッタの頭を撫でるチェレステであった。
『あ、でも、そしたら眷属さんたちが襲って来ますかね?』
新たな問題が浮上した。
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