眼帯姫のお姉さまは推しを語る
「南西区九番街四。このアパルトメントで本当に合ってるのか?」
「はい。」
「ほぼ貧民街じゃん。」
「治安は悪いが貧民街ってほどじゃないだろ。」
「家に辿り着くまでにもその辺の破落戸に絡まれてました。」
「金巻き上げられてたなあ。」
「なんだそれ、弱ッ!」
「ピエトロ、本当に魔王なのか?」
ピエトロは真剣な顔で肯首した。身長、体格、髭から上の顔、声。全てが魔王と酷似する。あの男が魔王に違いないと彼は確信している。そして騎士たちは仲間の言は信用する。そういう決まりだ。
「はあ。しかし、魔の色を変えているとはな。」
「第五王女殿下も出来るのですから、魔王も出来るのでは?」
「なら、今の目の色は元の色ということか?」
「チェレステ殿下が仰るには、魔の色の眼は高魔力者の証だそうだからそうなんだろ。」
エリザベッタの左目が魔の色に変化したことは騎士団長にも報告が上がっている。ちなみに国王であるチェレステとエリザベッタの父は未だに教えられていない。これは騎士団内の秘匿事項である。但し、ヴィオランテは除く。
「しかし……相変わらず金の月が昇らんな。」
騎士団長は窓の外に目を向ける。青き月は新円を描いて煌々と輝いているが、魔王の存在を示す金の月の姿はない。
「金の月が昇るのは来年の三月であるとチェレステ殿下が。」
「分かっている。」
「てことは、来年の三月には魔王が完全復活するってことですかね?」
金の月は魔王の魔力の源と言われている。真実は異次元の存在である魔王が創り出した外部魔力機関だ。蓄電池のようなものである。人の力の及ばぬ宇宙空間にそれを置くが、重力の関係で衛星と同じ動きをするため、魔王が活動するのは決まって夜である。
しかし、元々その身に宿す魔力も強大なもの。人智を超えた力を持つ異形の存在。故に、金の月から魔力を補給出来ぬ日中に倒すことが必要となる。残された月は魔王が死ねば霧散する。世界を構成する源として、宇宙と同化していくのだ。
だが、魔王は未だ金の月を作れていないとなれば。狙うなら今。今しかない。
「本日の見張りからの報告は?」
「特に異常なし。食材の買い出しに出かけたようです。こちらを。」
「……魔王が道ゆくお年寄りに親切を?」
「それは私のときも見ましたね。」
「別の日にも似たようなことあったよな。」
「迷子の相手してました。」
「そんな報告あったか?」
「報告するようなことではないと思ったのですが……。」
「混乱するな。本当に魔王なのか?」
「間違いありません。あれは魔王です。」
「それにしたってイメージが……。」
「しかもアレだろ?お祖母さんの買い物の付き添いするようになって、近隣の高齢者の買い物代行したりしてんだろ?」
「そうそう。評判いいんだよ、彼。」
「ますます魔王とつながらないな。」
「警戒されていることに気付いて演技しているのでは?」
「ですが、買い物代行は我々が発見する前から行っているようですよ。」
「分からん。魔王の為人が分からん。」
騎士団長がそう言って頭を抱えると、他の騎士も虚空を見つめたり、俯いたり、目をつぶって考え込んだりして、魔王らしき男へと思いを馳せたが、何の結論も出なかった。
騎士団でそのようなやりとりがあった同時刻。チェレステは相変わらずエリザベッタの寝室へ押しかけていた。
「騎士団の調査で魔王の根城が発見されたそうよ。」
「イヤイヤデスカ?」
「いよいよね。」
まだ侍女がいるので日本語はNG。大陸語での会話だ。
「それでは、わたくしは失礼いたします。おやすみなさいませ。」
「オヤスミナサイマセ。」
「ありがとう。おやすみ。……ふう。〝気を遣うわね。〟」
『そうですね。堂々と日本語で話したいものですが。』
『仕方ないわ。で、エリザベッタは魔王に関する報告は聞いた?』
『いえ、全然。』
『スラムにいて、一人暮らし。一日一回買い物に行って、自炊もしてるみたい。それに街のお年寄りや子どもに親切なんですって。』
『……それ、本当に魔王なんですか?』
『ギャップ萌えよね!』
(あ、コレ話聞かないヤツだ。)
チェレステはオタク特有の熱意ある早口になって来た。
『神殿まで私に会いに来てたらしいんだけど、全然気付かなかったわ。魔の気配もしなかったし。そのときはもう目の色は焦げ茶っぽかったんだって。髪は鬘だったみたいだけど、目の色は魔力を抑え込んでるのかもしれないわ。でも、焦げ茶の目で黒髪って、日本人ぽいわよね。顔は確かにアジア人ぽい顔立ちではあったけど。あ、でも顔立ちはハッキリしてるの。鼻筋はしっかり通ってるし、目はアーモンドアイっていうの?それにはっきりした二重で、薄い唇が色っぽいの!眉毛はね、太すぎず細過ぎずで綺麗な弧を描いててね?女装したら絶対傾国の美女よ、アレは絶対そう!そういう薄い本はなかったのよね〜。あー、探せばあったのかなぁ。読みたかった悔しい!』
(薄い本……同人誌か。そういうの興味なかったからなぁ。)
チェレステの推し語りはまだまだ続く。
『魔王の名乗ってる名前がね、中国語っぽいのよねぇ。やっぱり海向こうから来たって言ってるみたいだし。』
『何て名前なんですか?』
『クワン・チュンイェンっていうの。漢字だとどうなるのかしら。エリザベッタは分かる?』
エリザベッタは首を横に振った。さすがに中国語は知識の範囲外だ。
『お姉さまは会いに行かれないのですか?せっかく居場所が分かったのに。』
『行きたいんだけど、騎士が見張ってるでしょ?それに押しかけるのはイヤなの。どこかで運命的な出会いをしたいんだけど、神殿でまだやることあるし、時間がないのよね。あ、エリザベッタは街に降りちゃダメよ?』
『はい。もちろん。』
『ピエトロとウンベルトに絡まれてから神殿に来てないのよね。ホント、余計なことしてくれたわ。』
彼らは単に職務に忠実なだけなのであるが、それをチェレステに言ったところで無意味なのでエリザベッタは頷いておいた。
姉の恋路は、まだまだ前途多難のようだ。恋というには、視点がたまにおかしいけれど。
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