表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/79

眼帯姫はありのままの自分がいい

「ふう。出来ました。」


「よくやったわ、エリザベッタ!」


「はい。ハナビハウツクシイデスカ?」


「ええ、とても綺麗だったわ!」


 真昼の空でも金色に輝く大輪の菊の花だった。あれだけ青空に鮮明に映えたのは魔力の焔故だろう。


「あれ?目が戻ってる。」


「今は魔力を高めてないからよ。」


「なるほど。」


「てことは、私たちの訓練を殿下も習得なされば右目も蒼くなるのでは?」


「へ?」


 ピエトロの疑問に間抜けな声を出したのはチェレステだった。そもそも魔力を抑える訓練はエリザベッタの気付きから始まったことだが、それを更に抑えることが出来たなら……もしかして?


 当のエリザベッタはピエトロの言葉の意味が分からなくて困ったポーズをしていた。


「ねえ、エリザベッタ。目の色を変えたい?」


「魔の色?」


「そう。もっと魔力を抑えられるようになれば、右目も色が変わるかも。」


(ああ、そういうことか。えー?)


 ぶっちゃけ、エリザベッタは右目が魔の色であっても困ってはいない。眼帯はなるべく外に出ないようにしてほとんどの時間を着けないで過ごしているし、これからもそれでいいと思っている。何故なら、公務なんて面倒くさいからだ。


「イリマセン。」


 首をふるふると横に振ったエリザベッタを見て、チェレステとヴィオランテ以外は残念に思った。その差がエリザベッタからの信頼度の違いであることに気付かなければならないランベルトだが、全く分かっていない。

 ありのままのエリザベッタを認めてくれる。それがチェレステとヴィオランテの二人であることをエリザベッタは無意識に理解している。


 それから一か月経っても魔王は見つからなかった。魔王の眷属も見当たらない。騎士たちは焦っていた。


「見間違いだったんじゃないの?」


「あの顔を見間違えるわけがねえ。」


「まあ、なかなかないよなぁ、あのレベルの美形。」


 ランベルトは町民に変装して、共に第一次討伐に参加していたウンベルトと王都を巡回していた。とはいえ、ウンベルトは間近で魔王を見たわけではない。威圧に耐えられず、前線から外れ、後方支援をしていた。魔王とランベルトたちが居城から外へ戦いの場を移した際、この世のものでない美しさと言われる魔王の顔を双眼鏡で確認したくらいか。その度胸をチェレステに買われているが、彼女にはランベルト、ピエトロ、ウンベルトで〝三バカトリオ〟という不名誉な名前を付けられている。

 周囲に目を光らせながら歩いているとチェーロ大神殿が見えて来た。王家の馬車が停まっている。チェレステが勤めを終えて帰るところなのだろう。相変わらず神官と嫌味の応酬をしながら挨拶しているようだ。お互いに笑顔が引き攣っている。それを柱の陰から見守る長身の男が一人。


「あの男……こないだもここで見たな。」


「本当か?」


「殿下のファンかな?」


「あの女の性格を国民に教えてやりたいね。崇められるような女じゃないって。」


「おい、不敬だぞ。」


「誰も聞いてねえって。しっかし、聖女ってだけでありがたがられるってのはいい商売だな。」


「それ、お前が言う?」


 英雄ってだけでありがたがられてるだろ?とウンベルトは思ったが、彼がいなければどうにもならなかったことも理解しているので皆までは言わなかった。

 ランベルトの性分は民の求める清廉潔白な英雄には相応しくない。度々、過去の恋愛がゴシップ誌に掲載されているので、民がランベルトを清廉潔白な英雄と思っているとは考えられないのだが。


「花束持ってるよ。」


「渡してもエリザベッタ行きだろ。」


「もらった花を挿し木で増やしてるってマジなの?」


「マジマジ。ウチの奥さん、緑の手持ってるから。」


「まだ結婚してないだろ?」


「いーんだよ!俺の嫁なの!」


 人というものは変わるものだなぁ。ウンベルトは呑気な感想を先程のように呑み込み、チェレステが立ち去るのを眺めていた。


「あーあ。渡せなかった。」


「意気地がねえな、あの男。」


「いやいや、王女で聖女に気軽に声をかけられないだろ。」


「ま、そりゃそうか。」


 それにしてもあの男は背が高い。己より高いのではないか。顔も隠すような前髪。魔の色ではないが、毛量が多そうな茶髪に、顔半分を覆う同色の髭。目の色は黒に近い茶だ。


「身体的特徴は似てるんだけどな。」


「さすがに目の色は変えられないだろ。」


「そうだよな。アレは違うだろ。」


「あんな髭面でも姫さまは笑顔で花束受け取るんだろうなぁ。」


「外面はいいからな、アイツ。」


「義姉になるのにそんなんでいいのかよ?」


「あ゙?」


 ランベルトが常に思考回避していること。それはチェレステが義理の姉になること。エリザベッタの姉であることを盾にランベルトが拝領した土地の領主館の敷地に新築で小さな家を建設中だ。チェレステからエリザベッタへのプレゼントという体で、チェレステの自宅を。小姑はいらない。あのままだとエリザベッタはチェレステの家に入り浸るに決まっている。それだけは何とか回避したいランベルトなのであった。


 数日後。ウンベルトはまた同じように同じ区域を巡回していた。今日の相棒はランベルトではなく、ピエトロだった。前回よりも少し遅く神殿前へ到着すると、通り過ぎて行くチェレステの馬車とすれ違う。神殿の方へ視線を向ければ、今日も男は切なげに馬車を見送っていた。

 男は肩を落としガッカリした様子で、すごすごと花束を持ったまま二人の方へ歩いて来た。


「よう。聖女さまに捧げ物出来なかったのか?」


 知り合いかというくらいの気軽さでウンベルトが男に話しかけた。


「あ、ああ。」


 ピエトロが男の声を聞いて、スッと男の行く手を阻むような位置に移動し、腰に利き手を当てた。ウンベルトは視界の端でそれを捉えながら〝長引かせろ〟という合図を確認する。どうやら引っかかるものがあったらしい。腰にある手は仕込み武器に手をかけているのだ。


「お前さん、この前も見かけたけど、毎日来てんのか?」


「き、君たちに教える筋合いはないよ。その通りだけど。」


「花束くらい渡しちまえよ。男らしくねえな!」


「神官さまに預けて渡してもらえばいいんじゃねえか?」


「花も可哀想だろ。花屋は喜ぶかもしれねえけどな!」


「だはは!」


 男は花束をギュッと胸元で抱きしめて、キッと二人を睨んだ。ピエトロとウンベルトの身長差は頭ひとつ分。ピエトロが大き過ぎるだけなのだが、この男の身長は目測でランベルトとピエトロの中間。捜索対象と同身長だ。


「まずは身なりを整えて来いよ。男も身だしなみが大事だぜ?」


「よく言うよ。お前だってボサボサ頭なクセに。」


「いやいや、この髭面見ろよ。清潔感のかけらもない。せめて髭面を剃って前髪を切れば見れるようになるぜ?なあ?」


 不躾にもピエトロは手を伸ばして男の前髪を払う。男はビクリと体を揺らしたが、抵抗はしなかった。眼の色は先日と同じ濃い茶色。問題はない。それでもピエトロは警戒を解かない。髪を払った手に違和感があったのか、触れた人差し指を一瞬目に留め、その行為を誤魔化すため、まるで汚いものに触れた後のようにフッと息を吐きかけた。


「通してくれよ。帰るんだから。」


「まあ、いいじゃねえか。」


「どいてくれ。」


「お前さん、いい声してんなぁ。」


「聖女さまは声フェチらしいからな。ワンチャンあるぞ?」


 チェレステが声フェチなのは本当だ。前世では趣味の範囲を声優にも広げていた。この世界を描いたマンガはアニメにもなったので、コイツは誰々の声、アイツは誰々の声、とブツブツ呟いたり、他のアニメのセリフを同じ声の人物に言わせたりとおかしな行動をしていた。実際に話している言語が違うが、そこは脳内変換で妄想を補っていた。

 騎士たちが王女で聖女なチェレステと距離が近いのは、彼女のそんな奇怪な行動のせいもあるかもしれない。


「うるさいな!もういいだろ!」


「おおっと、からかいすぎたかな?」


「悪かったな。じゃあ、またな!」


「もう会わないよ!」


 鼻息荒く足を踏み鳴らして男は去って行った。


「付けるぞ。」


 ピエトロは人混みから飛び出たもっさりした茶髪を目で追っていた。

お読みいただきありがとうございました!

評価、ブクマ、感想、お待ちしています!

励みになりますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ