眼帯姫、ラスボスに出会う
《謝罪》
更新時間八時でなくてすみません。
あ、やべ、予約投稿にしてないなと思って結局そのまま投稿してしまいました。
あんまり時間が変わらないのでこのままにしときます。
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
エリザベッタの魔弓の指導にステファノが当たるようになって一か月。
「教えることがなくなりました……。」
「完全に使いこなしてるものね。」
「わたくしはこの魔弓とアイショーガイイ。」
「確かに。」
その場の一同が頷いた。エリザベッタはとにかく連射速度が半端ない。師であるステファノを超える。普通の弓士が一撃離脱する時間で三回攻撃が出来る。魔力を込め過ぎて放たれる矢が二本になるというハプニングから出来た技だ。連続三射は訓練の賜物であるが、射角が変わらないのが難点だとエリザベッタとステファノは考えている。
騎士団長とも面会し、エリザベッタも作戦に組み込まれることとなった。さすが騎士団長なだけあり、魔の色を持つエリザベッタへ不躾な視線も、侮蔑の言葉も、不遜な態度もない紳士であった。その様子を見てランベルトとステファノは己を恥じたのだった。ちなみにピエトロは驚きはしたが最初から全く気にしていない。
「エリザベッタ殿下の魔力、今測っても前と変わんないのおかしいですよね?」
昨日、久しぶりに水晶に手を翳してみたが、光の加減に変化はなかった。何が問題なのか皆分からない。だが、エリザベッタは少し思い当たる節があった。
「わたくしが魔力を使うときダケ。わたくしが魔力を出せる。多分。」
「それって、いつもはどこかにしまってるみたいな?」
「わたくしはシューチュースル。わたくしの魔力がタカ……フエル?静かなとき。フツー。わたくしは魔力がいらないから。」
「戦闘力……?」
エリザベッタはチェレステを見て頷いた。かつての国で生まれた世界的大ヒットしたマンガ。そういえば、そのマンガでも違う星では戦闘力は常に同じで自在に変えられる地球人に敵は驚いていた。
「なんだよ、戦闘力って。」
「なんだっていいじゃない。例えばの話よ。」
「何の例えだよ!」
エリザベッタとチェレステだけで通じ合うのに疎外感を覚えるランベルトであったが、そんな後輩をよそにステファノは考え込んでいる。
「魔族は気配を読むのに聡いが、実態として魔力を察知しているといっても過言ではない。魔力を抑え、尚且つ攻撃の時のみに瞬発的に魔力を高めて攻撃することが出来たなら……?」
どっかで、いや、例のマンガで聞いたような話だな、とエリザベッタとチェレステは思った。
「闇討ち騙し討ちに持ってこいですね!」
ピエトロがいい笑顔で言い放った。その結論は果たして王国騎士としてアリなのか。近くで聞いていたヴィオランテは内心嘆息した。だが、対魔王戦で綺麗事は言っていられないのである。
「訓練、してみるか。」
「そうですね。」
騎士団長に相談したところ、全員が魔力を抑える訓練をすることになった。抑えるのに慣れてしまって本来の力を発揮出来ないのでは意味がない。その中から見込みのある者を選び、隠し玉としておくこととなる。
「ところで、次はいつデートしよう?」
「デートをしてる場合ではありません。」
「しゃべるのが上手になったね。辿々しいのも可愛いけれど。」
「子どものようで?」
「違うよ。なんていうのかな、異国の者のようで。」
ちょっとドキッとしたエリザベッタだが、エリザベッタは正真正銘チェレステ人なので問題はない。中身は異国どころか異世界人だけれど。
あっという間に夏も過ぎ、秋になった。婚礼の準備も着々と進んでいる。ランベルトはエリザベッタとの婚約が決まってからは女性関係を綺麗に清算した。時折外出したと思えば頬が赤くなったり、引っかき傷があった。雨にでも濡れたのかと思うくらいずぶ濡れになって帰って来たこともあった。何故かそれをいちいちエリザベッタに報告しに来るのを彼女が面倒臭いと思っていたことをランベルトは知らない。
遊びの恋人とは手を切った。娼館にも通ってない。性病検査もした。ランベルトはこれでオールクリアと思ってる節があるが、未だエリザベッタからいい反応がない。英雄は頑なな姫に対して少々焦っていた。
「ホラ、これなんかどう?」
「いりません。」
「こっちは?これも似合うよ。」
「いりません。」
何かにつけて贈り物をしたがるランベルトの拙い求愛にもエリザベッタはうんざりしていた。ランベルトの選ぶものは〝今のエリザベッタ〟に似合うもの。買うなら長く使えるシンプルなもの、という前世からの考えの抜けないエリザベッタと、まだ少女として咲き始めたばかりのエリザベッタを飾りたいランベルトとはセンスの方向性が違う。
ついでに言うとエリザベッタが思い浮かべるようなデザインの装飾品はこの世界に存在していないことを記載しておこう。そして、それが王女には相応しくないと捉えられるということも。
その点、チェレステは王女で聖女を満喫していると言える。王女のときはこれでもかというほど美しく豪奢に装い、聖女のときは神聖性を重視して質素に、戦いのときは合理的な服装を選ぶ。最後の点については神殿においてのチェレステの上長とよく揉める原因になっている。聖女はどんなときも聖女らしく、が神殿のモットーだ。
「ランベルト。」
「な、なに?」
いつになく真剣な表情のエリザベッタにランベルトは一瞬息を詰まらせた。まるで魔王と初めて対峙したときのようだ。
「ランベルトはムリシテイル。」
「してないよ?」
「ランベルトのデート。夜。会う。花はプレゼント。ご飯。お酒。ツレコミヤド。ピエトロは言った。」
(ピエトロのヤツ!)
お決まりのデートプランである。相手の女性も食傷気味になっても、顔の良さでゴリ押し出来るのがヒーローたる所以と言えるだろうか。
「わたくしは楽しくない。」
「なら、どうすればエリザベッタは楽しい?」
エリザベッタは考えた。とりあえずランベルトと結婚しなくてはならないということは何となく理解している。余りタイプではないけれど、王女に生まれた以上政略結婚は避けられないとチェレステやヴィオランテに言われている。ランベルトとの婚姻が流れたとしても、エリザベッタのその先に待っているのは新たな政略結婚かもしれない。
チェレステがそれを回避しようとしてくれるかもしれないが、いつまでもそれが可能なわけではない。そもチェレステこそが、聖女であるのに王女であるが故に、父王からは一番大きな政略のカードだと思われている。国外へやることはないだろうが、国内だって有力な婚約者候補はいるのだとヴィオランテが言っていた。あの無策な姉が上手いこと魔王を籠絡出来るとも思えない。いつかは政治の駒になるのだと、エリザベッタも、そしてチェレステ本人も、薄々感じている。
今はただ、その事実から目を背けて現実逃避しているだけだ。
「わたくしは狩りが楽しい。料理が楽しい。食事が楽しい。みんなイッショ。」
みんなで一緒に。ランベルトはガクッと来た。やはりエリザベッタの情緒は未だ育ち切っていない。恋愛感情を解するまでに至ってないのだと思う。まあ、そんなことは全くないのだが。
「みんなって?」
エリザベッタの考える〝みんな〟とは、チェレステ、ランベルト、ヴィオランテ。そこにピエトロと先生がいてもいい。正直にそう答えた。恋愛感情はなくとも、ランベルトも身近な人物であることには変わりないのだと彼は少しだけホッとした。
「ひとつだけ、言っておく。」
「はい。なんですか?」
「俺はエリザベッタが好きだよ。」
「わたくしはランベルトが好き。でも、トモダチ。」
「今はそれでいいよ。だけどいつかは恋を知って。俺を好きになって。」
恋ならば知っている。朧げながら知っている。
それをランベルトに伝えたところで、ランベルトへ向かう気持ちがなければ意味がないことも。
愛し愛されることはどういうことか、何となく覚えている。
同じ気持ちを、目の前の男に対して持てるだろうか。夫婦になれば、チェレステの求めるような激しく求め合う関係でなくても、穏やかな家庭を築けるだろうか。
それにはお互いの歩み寄りが必要なことを、エリザベッタは理解していた。今、それを拒んでいるのは自分自身だと言うことも。
「あの……」
何を伝えたいのかも分からないまま声が出た。だが、言葉を続ける前に背中に衝撃を受けた。
「うっ!」
「おい!」
「あ、すんません……げ!」
「お、まえ……?」
「すんません!すんません!ひぃぃ〜〜〜!!!」
「ちょっと待て!」
「ヤメテ!」
ランベルトが乱暴にエリザベッタにぶつかった男の肩を掴むので腕を引っ張った。反動で、簾のようにかかっていた黒い前髪からその相貌を覗かせる。背の高いランベルトより長身だし、なかなかの色男のようだ。自信なさげな態度とは相反している。
ランベルトが反射的に手を離したその隙に男はまんまと逃げおおせてしまった。ここは王都。人混みの中、相手の素性を叫ぶわけにはいかないし、捕物をするとなると何も知らぬ民がただでは済まない。
「チィッ!クソッ!逃した!」
ランベルトの悔しそうな様子を見て、エリザベッタは不安になった。
(指名手配犯とかだったらどうしよう!?邪魔した!?)
「モシカシテハンザイシャダッタ?ゴメンナサイ。」
「あれは犯罪者とかそんな可愛いモンじゃない。」
「ワルイヒトジャナイ?」
「いや、極悪人だよ。あの男の顔、忘れるもんか。アレは魔王だ。」
ランベルトが耳元で囁いた。いちいち近いと顔を押し返そうとしていたエリザベッタは、告げられた言葉にヒュッと息を吸い込んだ。アレが魔王。そういえば、僅かに覗かせた眼の色は己と同様の金色をしていた。自分の顔で見慣れているせいか、エリザベッタはその違和感に気付かなかった。
「聖女の先見もアテにならないな。王宮に戻ろう。」
ランベルトはひとつ嘆息すると、再び何事もなかったかのようにエリザベッタの手を取り、初々しい恋人同士を演じるのであった。
ヘタレ確定のラスボス登場です。
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