眼帯姫は魔弓士になる
お楽しみいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
「ご紹介に与りましたステファノと申します。魔弓術の指導を担当させて頂きます。」
「ヨロスクお願いします。」
(あ、噛んじゃった。笑って誤魔化せ!)
エリザベッタがニコリと笑うと小さくビクッと肩を揺らした騎士ステファノ。どうやらエリザベッタの右目の秘密を知っているようだ。
魔弓術というのは弓術と魔法を組み合わせたもので魔法で作り出した矢を放つものである。魔弓を扱える騎士は魔剣を与えられる騎士と同様、騎士団長に指名される以上の誉れと言われている。
ステファノは弓兵隊のトップであり、国王直々に魔弓を与えられし選ばれた者である。歴代一との呼び声も高い。魔力、技能、人柄が優れた者しか選ばれない魔弓士だ。王国内には二人しかいないが、一人は魔弓ごと魔王に囚われてしまった。
ちなみにランベルトは初め騎士の一般的な剣しか持たされていなかったが、道中魔王の眷属に捕獲された一番の剣士、英雄候補であった、が落とした初代国王が使用した聖剣を回り回って待つことになった。魔を祓う聖貴石が装飾に施されており、そこに聖力を込めることで魔の者へ致命傷を与えることができる。というより、通常の物理攻撃と違って聖力は魔の者の体を焼いてしまい、それは闇の力では回復出来ないものなのだ。通常の物理攻撃が効かないわけではないが、完全に沈黙させるためには聖魔法が不可欠なのである。
その魔弓をチェレステが褒賞として残りの一つを父王から分捕ってきたのであった。国宝級武具なのは理解しているので譲渡ではなく、存命中の貸与という形である。騎士団内では新たな魔弓の使い手を聖女が任命するのでは、とソワソワしている騎士が多いことをチェレステは知らない。
「この国に魔弓は三張です。一流の魔弓士の条件は複合魔法を使える魔力量とコントロール、射手としての技。どちらが欠けてもなりません。」
「技量に関しては言うことなしですよ。」
「それがどの程度なのかを今日は確認する。お手数ですが、彼らが投げた板に向かって矢を放っていただけますか?」
テストとしてクレー射撃のようなことをするらしい。
「投げるのは私ではなくピエトロとランベルトですよ?」
エリザベッタは短弓に矢をつがえると、森を背にしていたステファノの右頬を掠めるように矢を放ち、後ろの木に止まっていたキジバトを射抜いた。
(はっ!やってしまった!お肉が見えたからつい!)
「ごめんなさい!わたくしはお肉をトッテクル!」
獲物が見えたので条件反射で射ってしまったエリザベッタなのであった。貴重な命を頂くので、美味しく食べられるようにすぐに首を絞めた。
「た、躊躇いがないな……。」
「すごいでしょう?」
「すごいが、すごいと言ってしまっていいのか分からないな。」
物干し竿にハトを吊るしてから小走りで戻って来たエリザベッタはステファノに頭を下げた。
「先生、ごめんなさい。オマタセシマシタ。」
「あ、ああ。いえ。獲物は見えてらっしゃったのですか?」
エリザベッタが困ったポーズをするとチェレステが近付いて来てすかさず通訳をする。翻訳を聞いてエリザベッタはしっかりと頷いた。
「そうですか。馬には乗ることは?」
「レンシュー、今。」
「まだ手綱を持ってないと無理ね。」
「左様でございますか。そうなると、敵に狙われやすくなりますね。」
「馬術も毎日やった方がいいわね。」
「それよりも誰かと同乗してもらった方が良いんじゃないか?戦場での見極めなんか今から出来るか?」
「騎手が射手の邪魔にならないか?」
「戦車はどうだ?」
戦車というのは馬で引くものだ。エリザベッタたちの前世の世界でも古代の戦争に使われたチャリオットと同様のものである。
「戦車が通れないような場所で戦闘になったらどうすんだよ。」
「どれも一長一短だな。それはもう少し時間が経ってからでいいだろう。とりあえずまずは先程申し上げた通り、動く的への命中率が見たいのです。お願い致します。」
エリザベッタはステファノの指示通り空中に投げ出された板に向かって矢を放った。鳥よりも動きは単純なのでエリザベッタにとっては朝飯前であった。
「お前たちが褒めるだけあるな。」
「でしょう?」
「何でお前が得意げなんだよ。」
「俺の妻は可愛くて賢くて強いんです。しかも料理上手。マジでいい嫁さん見つけられて俺、果報者ですよ。」
「それ自分で言う?」
後輩たちの掛け合いはともかくとして、なるほど、エリザベッタの腕前は確かなものだった。だが、魔弓士となるには魔力コントロールも重要だ。
ステファノが歴代の魔弓士で最も優れていると言われるのは、他の魔弓士が矢に一属性の魔法しか乗せられないところを火と風の属性を同時に扱える点である。火の矢を風の魔法でスピードを上げた上にその火の威力を上げることが出来る。既婚者故に討伐には選ばれなかったが、ランベルトたちは遠征中、何度も「ステファノ先輩がいてくれれば」と考えたことだろう。家督を継がぬ独身者のみという縛りは元々チェレステ王国の伝統で、何故か各国もそれに倣っている。故にベテランのいない集団になり、討伐へも時間がかかったりするのだ。それすらもこの世界の様式美である。
「殿下は何属性の魔法が得意でらっしゃいますか?」
「ゼンブ同じ。」
「まだ始めたばかりだからどの属性も威力は似たようなものよ。」
「全ての属性が使えるのですか?」
「そうね。でも、実際に戦場に立たせるのなら、わたくしの聖力を入れた聖貴石を嵌め直せるようにしておくつもりよ。貴方の魔弓にもね。」
それを使えば聖剣と同じように魔を祓える。もはや魔弓でなく聖弓であるなぁとステファノは思った。チェレステは貴重な聖貴石ですら乾電池くらいにしか考えてない。自分の聖力で充電出来るので、ありがたみがないのかもしれない。
「とりあえず水の矢でいいんじゃないですか?」
「うぉーたーあろー。」
バシュッ!という音の後に、ドサッ!という音がした。エリザベッタがいるはずの方を向くと、そこに本人はおらず、既に森の方へ駆け出していた。
「今、誰か、見た?」
「見ていない。」
「え、あのシカ、矢、刺さったの?」
「刺さってるようには見えないわね。」
「おそれながら。」
ヴィオランテが咳払いをして解説を申し出た。
エリザベッタは水の矢と聞くなり、文字通り水の矢を具現化してつがえさせ、弦を弾いたらしい。
「魔弓じゃないのに?」
「お手持ちの弓でございますね。」
魔弓は弓と矢が一体化した作りになっており、魔力で具現化した力を増幅させて撃ち放す仕組みになっている。水や火などの固体でない物を放つのだ。矢そのものを放つわけではない。見た目は白いカシュー漆と金で豪華な装飾が施されており、実践用というより観賞用にも思える。大きさはエリザベッタが普段使用している弓を一回り程度小さくしたくらいで案外小ぶりである。
初めて魔弓を見たチェレステが、
(DX〇〇って名前でおもちゃ売り場で売られてそうね。)
と思う程度にはおもちゃ感が強い。大人向けの豪華本格仕様だが。チェレステは恐らく仮面を被ったバイク乗りや超戦隊の武器を想像したのだろう。
呆気に取られた騎士たちを完全に置き去りにして、エリザベッタは意気揚々とシカを捌き出した。
(まさか……エリザベッタ、もしかしてもう覚醒してる?)
今夜はエリザベッタの寝所に潜り込もう。チェレステはそう決めたのであった。
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