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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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28/79

眼帯姫のお姉さまは考える

チェレステ回です。

 いつものメンバーで離宮に来ている。山狩りだ。狩りから戻るとエリザベッタは相変わらず華麗に鳥や獣を捌いて、厨房に篭ってしまった。チェレステとランベルトを始めとする騎士たちは果物を収穫している。


「矢を射るとき、無意識に魔力を使ってたんだな。力のコントロールが上手い。そもそも十歳くらいの女の子が小ぶりとはいえ大人用の弓や(おおゆみ)を扱えるなんておかしいだろ?」


「確かにねぇ。」


 エリザベッタはあまり使わなかったが、対大型獣用に弩も離宮に残されていた。弓の方が性に合っていると思ったからだ。それが前世の経験から来るものであると未だに気付かないエリザベッタである。


 魔を嫌う割に、人々は己の身の内にある超常的な力を魔力と呼び、聖者や聖女の持つ癒しの力を聖力と呼んだ。聖力がなければ使えない魔法は聖魔法と呼び、チェレステは名実共に世界で一番な聖魔法の使い手である。

 火、水、風、土の四大元素に沿う属性と聖魔法とあり、魔王を始めとする魔族も同じように魔法が使える。ただし、聖魔法は使えず、闇魔法を使用するが、その性質はとても似通っている。例えば治癒であれば聖魔法は早送りだが、闇魔法は巻き戻しだが結果は同じ。ただし巻き戻しの闇魔法の方が元の状態を再現出来るため、治療の意味では圧倒的に闇魔法の方が質が良い。魔族の寿命が長いのはこの為でもあるし、討伐に苦戦する理由でもある。

 だが、聖魔法と同様、魔族でも使える者は限られる。魔王に至っては全ての魔族の祖。性格や能力の違い、つまり個性はあれど、元々は魔王の力である。異次元である魔界に住む彼らの事情はもっと複雑だが、人間界の生物は次元の狭間―――魔界へは行けないので知る由もない。


「どの魔法もすぐに発現したわよね。」


「元からの才能だろ?すごいよ。もっと早くから教育されてれば、遠征メンバーに選ばれていたかもな。」


 エリザベッタの強みは四歳からのサバイバル生活によって培われた認識範囲の広さだ。空間認識能力も関わってくるが、世界に満ち溢れる魔力の源である魔素を取り込むのが上手い。


 そもそもの話であるが、エリザベッタがマンガのエリザベッタとここまで相違が出たのはやはり前世の記憶が理由である。本来ならばもっと幼い頃に瀕死の状態で発見され、女官が総入れ替えになり、必要最低限だが使用人もつけられるはずだったからだ。前世の知識とサバイバルを受け入れる呑気故に十四歳になるまでほったらかしにされていた。


「これなら即戦力になるんじゃないか?チェレステ殿下の先見通りなら来年の三月には魔王が復活する。それまでに戦闘訓練をしておけば……」


「は?エリザベッタを連れてくわけないだろ。何考えてんだ、お前。」


 ランベルトに「何考えてんだ、お前」と言われたのは近衛騎士の中で魔王討伐隊に選ばれたピエトロだ。生還した兵の中ではランベルトの次に功績を上げ、チェレステ付きの護衛につい最近召し上げられた。国王はチェレステの婚約者候補として考えている。婚約者の為に討伐遠征中も操を守っていたのに、帰って来たら婚約者は他の男の子を孕っていた不憫な男だ。道中、チェレステとランベルトのケンカの仲裁役でもあったので確かに適任といえるが、お互いに恋愛感情はない。あと、ゴリゴリに男臭い見た目がチェレステの好みから外れている。


「でも、前回の討伐で主力がかなり削られたんだぞ。陛下は呑気に構えておられるが、次回の編成に騎士団長がかなり頭を悩ませてる。」


「んなもん知るか!おい、どうしたよ。お前もなんとか言えよ。」


「ん?あ、ええ、ごめんなさい。何の話?」


 チェレステはぼんやりして話を聞いていなかったようだ。


「コイツが次の遠征にエリザベッタを連れて行こうって言うんだよ。ありえないだろ?」


「ああ、そうね……。」


 正に今、チェレステがぼんやりしながら考えていたことだった。


(みんなは次も()()だと思ってる。何処まで話すべきなのか、どうしたらいいんだろ。エリザベッタにだってまだ全て打ち明けてない。)


「どうしました?歯切れが悪いですね。」


「歯になんか挟まったか?」


「死ね。」


(エリザベッタが原作のこと知ってれば良かったけど、そうじゃない以上、下手に情報を明かして不安にさせるのも良くない。だけど、いずれは分かる。だって、次に戦場になるのは……王都(ココ)。金の月が昇って、急造の遠征軍で魔王の居城に向かう間、魔王本人はこの国の王都に入り込む。英雄も聖女も不在のところを狙われるのよ。私たちを絶望させるために。そしてそれに気付いた討伐軍が戻る頃には王都は壊滅。王族はエリザベッタ以外血祭りに上げられ、エリザベッタを魔王の妃として無理矢理娶ろうとする。何の力も持たないのに、魔王が何をしても己を貫き通す真っ直ぐなエリザベッタに惹かれるのよ。本当は心が欲しいのに、自分の恋心に気付かなくて自分の中の相反する感情に苦悩する魔王がとってもとってもとっても萌えるのよ!)


「殿下らしくもない。本当にどうしたのですか?」


「最近、よく神殿に行ってるよな。働き過ぎで疲れてんじゃないか?」


 めずらしくチェレステを気遣う言葉をランベルトが発したが、チェレステはそれに気付かなかった。


(それに最後は……でも、そうするとエリザベッタが……なら、やっぱり今から少しでも訓練させておくべき?それと、金の月が昇っても私たちが遠征に行かずに済む方法はやっぱりみんなに真実を告げること?一応、今は神殿長に協力を仰いでるけど……。お父様は信用ならない。あのスットコドッコイは自分に都合が悪い話はキレて怒鳴り散らすだけ。何の解決にもなりゃしないってのに。自分の命がかかってても、見栄を張り続けるに決まってる。ま、あんな小物いなくなっても問題はないんだけど。悪いけど、お母様に対しても、姉にも妹にも弟にも、家族の情もないのよね。私は飽くまで道具だから。政治の駒だから。アクセサリーだから。そんな家族のために苦労して来たわけじゃない。)


「おい、本当に大丈夫か?」


「え?ええ。そろそろご飯出来るかしらね。」


「エリザベッタ殿下と親しくなられてから食べることばかりですね。太りますよ?」


「うるさいわね!そういうデリカシーがないから婚約者を寝取られるのよ!!」


「ぐはっ!」


「おい、ピエトロ!大丈夫か!?」


 ピエトロはダメージを受けて胸を押さえて蹲った。三文芝居に付き合ってる暇はない。チェレステには考えることが山積みだ。


(でも、エリザベッタは違う。エリザベッタだけが本当の家族。遠征メンバーのことは信頼してる。この下半身脳みそ男も、デリカシーまるでナシ男も。騎士団長だって。それに王都の民だって、何にもしてないのに皆殺しになるのよ。そんなの、耐えられない。それを目の当たりにするエリザベッタのことも……。エリザベッタと魔王が出会う前に、私が魔王を見つけなきゃ。だけど、予防線は張っておく。犠牲者は出したくない。あんなの、もう懲り懲りよ。アテにならないお父様はこの際、蚊帳の外でいい。王家に伝えず、騎士団だけに伝える?神殿の聖職者たちとの合同訓練も予定を組む手筈になってる。その前に、王都決戦を大前提にして……。)


「ご飯がデキマシタ!」


「はーい!ほら、行きましょう。」


「ええ、そうね。」


(魔王を落として、人間界の侵略をやめさせる。それが最善。それでも結局、魔王を倒すしかなくなったら。原作通り、エリザベッタを好きになったら。私、どうしたらいいんだろう。)


 聖女の使命と前世からの憧れ。その狭間で、稀代の聖女は心を揺らしている。

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