眼帯姫の街デート
おおう、サブタイトルが途中までになってました!何故!
修正いたしました。失礼いたしました。
何をするわけでもない午後。と思っていたのだが、どうやら出かけなければならないらしい。
「たまにはデートしよう。」
「デエト。」
チェレステが神殿に呼び出された隙に二人きりの時間を堪能したい。ランベルトのそんな下心で街へ連れ出された。
「わたくしたちはシンデンニお姉さまをムカエニイク?」
「違うよ。婚約者との親睦を深めるんだ。」
ランベルトの女性との付き合い方は基本的に軽い。簡単に謙るし、それで相手が気分良くなってガードが緩むところを付け入る。顔の良さがそれを大いに助け、恋愛に発展するまで時間はかからない。父親からは商家でも貴族でも金持ちの女を捕まえて来いと言われていたので、たくさんいる恋人の中から相手を厳選している頃、魔王討伐軍への召集がかかった。
一応、騎士団に所属してはいるが、ランベルトは騎士としてそんなに強い方ではない。礼節を重んじる王国騎士団ではあるが、そんなもの形骸化しているのだが、戦い方に関してはとても前時代的だ。戦闘を始まるまでの無駄が多い。その点、ランベルトは下町のチンピラ予備軍だった経験があるので、とても実践的だ。騎士としては禁じられるような美しくない戦い方であっても平気でやってのける。そこがチェレステと合った。
チェレステも案外泥臭い戦い方をする。聖女の仕事は治癒だけではない。魔を祓う浄化に防御。常に最前線にいるため、足手まといにならないだけの戦闘スキルもある。何処で習ったのかは知らないが、見たこともない剣の振るい方をする。とても強いわけではないが弱いわけでもない。それに結構ズルい手も使う。
(意外と戦えんだな、コイツ。神殿育ちの王女さまって割には気も強けりゃ口も悪いしな。)
長きに渡る魔族との戦いで、二人は戦果を上げ続けた。ランベルトとチェレステの関係性は良いとは言えないが、戦闘となると息が合う。思考回路が似てるのかもしれない。
遠征期間二年の間に急成長したランベルトは魔王を退けることに成功したが止めは刺せなかった。そもそも魔王撃退の功績のメインはチェレステ。魔の力を祓い弱体化させ、致命傷を与える。それが魔王の倒し方である。魔王は強かった。魔王なんだから強くて当たり前だが、想像以上に強い。しかしチェレステの能力はそれを上回った。浄化でかなり力が弱まっていたというのに、討ち取れなかったことをランベルトは責められるべきことだと思っている。ランベルトにもそれなりに騎士としての矜持はあるのだ。
なのに、国王はランベルトが魔王を斃したと報告を捏造して世界へ発表した。英雄としての褒賞を分けることで、実父への義理は果たしたと思っている。そろそろ縁を切るべきか悩ましいところだ。
ちなみにチェレステがランベルトを毛嫌いする理由は前世の記憶によるものと、初対面の気障ったらしい挨拶、遠征中の娼館通いだ。しかも娼婦にも好かれて、「こちらが金を払ってでも抱いて欲しい」とまで言われていると他の騎士が噂しているのを耳にして以来、「下半身しか取り柄がない男」だと思っている。
しかし、他の騎士だって娼館のお世話にはなる。常に生命の危機に晒されている騎士たちにとっては慰安の意味もある。一つの娼館を丸ごと借り上げることもあった。
ならば共に戦闘している自分は何なのだ?慰安なんてないんですけど?とチェレステは常々思っていた。なのでチェレステはランベルトだけでなく、娼館に行った騎士全員に対して「キモい」と思っている。若さ故の潔癖があるのだ。遠征軍は未婚の騎士を中心に編成されていたので、既婚者ならもっと「キモい」と思ったのだろうが、貴族である騎士は大体婚約者がいるのでやっぱり「キモい」とチェレステは思うのであった。
まあ、そんなランベルトもエリザベッタにはその手練手管が利かない。暖簾に腕押し、普通の女ならば頬を染めるものをと思うような甘い言葉も、男らしい仕草も、何故かスン……となる。ランベルトだって分かっている。アレは照れて真顔になっているのではない。本気で引いてるのだ。つい慣れと癖でそういうことを言ったりしたりしてしまうのだが、今までランベルトがしたことでエリザベッタがときめいたのは呼び捨てにしたことと求婚くらいだろう。その呼び捨ても今では慣れきってしまって効果がない。
何でこんなに必死になっているのか、自分でも謎だと思っている。国に決められた婚約者に媚を売る必要もないはずだ。これは英雄となった自分をこの国につなぎ止める為の契約。栄誉という名の押し付けであることを知っている。エリザベッタを指名した話し合いの際、国王にもはっきり言われている。「あの不良債権を娶ってくれれば、他に愛人をいくら囲おうとも王家は咎めはしない」と。王女の降嫁先に求められる清廉さなど期待されてなかった。その時には既にエリザベッタの真実を知っていたのでその発言は腹立たしくて仕方なかった。
初めはランベルトも王女降嫁など嫌だった。ありがた迷惑だった。一の姫、二の姫はもう人妻だが、三の姫のチェレステはまずソリが合わないし、四の姫だろうが五の姫だろうが興味はない。ランベルトは気位が高いだけの苦労を知らぬお姫さまなどお断りだ思っていた。
だが蓋を開けてみれば、今ではランベルトがエリザベッタを追う形になっている。何も知らない純真無垢なところと、賢さと逞しさが同居している。少なくともランベルトにはそう見えている。自分へ秋波を向けぬという点も大きいのかもしれない。
(男ってのは狩人だからな。)
ランベルトが好むのは追われる恋より追う恋だ。誰から見ても上等な女を落とすのは楽しかった。けれど、エリザベッタはこれまでの彼女たちとは趣が異なる。高級ディナーに豪華な宝飾になど見向きもしない。
「いい匂い。お肉の匂い。」
「あの屋台かな?食べる?」
「ヨロシイノデスカ?」
「もちろんさ。」
串焼き肉を一人一本、塩とタレをそれぞれ買い、途中で串を交換して食べる。何故かそういうことには抵抗のないエリザベッタであった。
「ガキの頃は屋台の串焼き一本だって贅沢だったのになぁ。」
(お袋にも食わしてやりたかったな。)
貴族の男に弄ばれて、女手一つでランベルトを育ててくれた母親はいつも自分の食費を真っ先に削っていた。それよりも長生きして欲しかったとランベルトは食べかけの肉を見て思う。彼は母親とエリザベッタを少しだけ重ねていたことに気がついた。
「たらふく食べられる、今。ランベルトハシアワセ?」
「幸せ……かな。」
曖昧に微笑むとエリザベッタは困惑ポーズを取った。
「ランベルトはシアワセジャナサソウニ見える。本当にシアワセ?」
ドキリとした。軽薄さで上塗りした仮面を引き剥がされるような気持ちになった。
「今はエリザベッタがそばにいるから幸せだよ。」
エリザベッタは顔を顰めてこう言った。
「カンタンに言ってはいけない。カンチガイ?する。」
「本心だよ。」
いつもと違う声色にエリザベッタは驚いてランベルトを見上げた。空色の左目にランベルトの顔が映る。金色の右目に映したら自分はどんな顔をしているだろうか。違うかもしれないし、変わらないかもしれない。
「本心だから。」
口をパクパクと池の魚のようにして、ジワジワとその頬が薔薇色に染まっていくのが分かる。エリザベッタにはストレートな口説き方の方が利くらしい。
だけどもランベルトは、その日それ以上は踏み込んで来ることはなかった。ただ、エリザベッタの手を離すことはなかった。
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