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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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26/79

眼帯姫のおうち

一日空いてすみません。

今後の更新を日、水、金で考えています。

微熱が続いたりでなかなか執筆進まず。

コロナなどではないのですが……歳かな。

どうぞよろしくお付き合いくださいませ。

 すっかり引きこもった弟のファウスト。彼のことなどどうでもいいエリザベッタは、今日も離宮へ来ていた。


「ふっ!」


 エリザベッタは鴨を矢で射抜いた。「おおー!」と騎士たちから感嘆の声と拍手が起きる。小川の水を引き込んだ池に訪れる鴨、山を根城にする雉、そういった鳥はエリザベッタにとって貴重な蛋白源だった。

 弓をまともに引けるようになったのは十歳を過ぎる頃だった。そこからは毎日訓練だ。山狩り用の小さい弓、コンジットボウのような形状だ、とはいえ、子どもが引くには弦は強い。日々、訓練に励んでようやくまともに矢を飛ばせるようになったのが十歳だった。だが、エリザベッタのこの命中率の高さは前世の経験から来るものだ。経験がなければ、素人の子どもが弦を張り直すことだって出来ない。ちなみに本人に自覚はない。


「我々の矢のつがえ方と違いますね?」


「右、ヤリヤスイ。」


「自分で考えたの?」


 エリザベッタは首を傾げた。騎士の訓練で皆が洋弓のつがえ方をしているのは分かったが、その違いをいまいち理解していないのである。


「しかし、命中率がえげつないな。」


「確実に殺りに行ってるわね。」


 ランベルトとチェレステも感心している。エリザベッタは矢につけた麻紐を引っ張り、射殺した鴨を引き上げた。テキパキと血抜きを始める。エリザベッタは首を落とす方法ではなく、首の関節を外して〆る方法を取っている。命を奪うのに躊躇いがない。物干し竿に逆さに吊るし、真剣な顔をして羽根をむしっていった。むしり終わると首と足を切断し、水洗いして庭の作業台でそのまま捌き出した。内臓を取り出し、バケツにポイ。これはいつも土に埋めていた。

 ここで一旦作業は終了。その間にお茶をすることになった。


「首を落とさないのは何故です?」


 騎士の一人が尋ねたが、エリザベッタの語彙では説明が難しい。チェレステに耳打ちして通訳をお願いした。


「あれだと血が飛び散らないんですって。首の周りに溜まった血がゼリー上になるからだそうよ。」


「確かにそうでしたね。」


「あれ、遠征の時にいいな。」


「な。」


 その後の解体も手慣れていた。騎士たちはひたすら感心していた。


「エリザベッタ殿下が遠征に来てくだされば、野営の時も満足な食事が取れそうですよね。」


「はあ?エリザベッタを戦場に連れて行くわけがないだろ。」


「まあ、相手が魔族だと話が違うからなぁ。」


「殿下は魔法はどれほど?」


「マホー訓練。ゼンゼン。」


「魔法の訓練は後回しよ。そもそも教科書だってまだ読めないもの。」


「ああ〜、そうですよね。」


 魔法の教科書どころか他の教科書も知らない単語ばかりで理解が出来ない。ヴィオランテの教育はまず他者とのコミニュケーションを取れるよう、会話に重きを置いている。八割会話、二割マナーといったところだろうか。

 単純に語彙を増やすだけでなく、文法、発音、全てが日本語と全く違うため、四歳以降日本語で思考して来たエリザベッタの言語能力は低下し切っていた。


(言葉の壁が高過ぎる。)


 エリザベッタの心のぼやきは止まらない。


(男性名詞と女性名詞があるっていうのは分かってるんだけど、冠詞間違うし、複数形になるとまた違うし、どっちだか分かんない単語もあるし、複雑なんだもん。覚えられる気がしないわ。お姉さまも小さい頃から記憶があったって言ってたから思考は日本語のはず。なのにちゃんと喋れてるのすごいよ。)


 お姉さまがネイティブに喋れてるのがとても羨ましいエリザベッタである。


「それで、今日はあの鴨で何を作るの?」


「わたくしはカモナベを作ります。」


「鴨鍋。」


「鍋ね!ステキ!シメは?」


「ソバ。」


「蕎麦?蕎麦粉の団子でも入れるのですか?」


「作るは麺。」


「麺?」


 この国でも蕎麦粉は使われるが、麺にはしない。モロモロのボロボロになるのが定説だ。エリザベッタも敢えての十割蕎麦に挑もうとは考えていない。小麦粉もあるのだから二八蕎麦で行く。

 要は鴨鍋ではなく鴨南蛮を作るつもりなのだ。


「そういえばヤポンの謎の板を持って来ていたけど、あれは何に使うの?」


「あれは〝昆布〟です。〝出汁〟……スープ。」


「コンブ?」


「海藻よ、海藻。ラミナーリア。そういえば手に入ったんだものね!」


「はい。チェレステお姉さま、ウレシイ?」


「嬉しいわ!」


 昆布と捌いた鴨を骨つきのまま寸胴鍋に入れ、出汁を取る。沸騰直前に昆布を抜いて、弱火にしてじっくりと煮込んだ。

 その間に蕎麦打ちだ。専用の鉢がないので作業台に直接粉を出す。前世で見たイタリアのマンマがパスタ生地を大理石の作業台でそのまま練っているのを覚えていたので、それに倣っている。

 蕎麦粉とつなぎの小麦粉を混ぜたら少しずつ水を加えてダマを作り、まとめていく。一塊になれば次は練り作業だ。生地を温めてはいけないので時間との勝負。一心不乱に練っていき、三角錐にまとめた後は上からつぶして空気を抜く。


(よし、生地の端に割れがない。いつもより粉の量多いから不安だったけど、うまく行ったぞ。)


 打粉をして麺棒で生地を伸ばして行き、なるべく細くなるように包丁で切って行く。


(うーん、ちょっとバラバラだな。)


 まあ、所詮は素人なので。そこは気にしないことにした。


「ダレか、お湯。麺。ユデル。鍋、コレ。」


 もう一つの寸胴鍋に湯を沸かしてもらっている間につけ汁作りだ。

 鴨のもも肉を一口大に切って鉄鍋で皮目から焦げ目をつけるため焼いて行く。日本のねぎと比べるとちょっと太めなねぎをぶつ切りにし、鉄鍋から鴨肉を取り出し、その脂でねぎにも焼き目をつけ、バットに置いておく。

 スープの味見をして、鉄鍋に必要量を移し、少し甘味のある酒と魚醤を入れる。


(こんなもんか。醤油欲しいなぁ。)


 そして蕎麦を茹でて氷水で〆る。鴨を獲りついでに摘んできたクレソンを洗って、器に一緒に盛り付けた。


(なんちゃって鴨南蛮!どうだ!!)


「出来ました。どうぞ。」


 異世界で初めての鴨南蛮。いや、エリザベッタは幾度か食べているのだが、こちらの人間が初めて食べるという意味だ。何故か庭に植っているパッションフルーツを半割にしたものをデザートとして配った。


「美味しいわ!」


「チョット違う。」


「それは仕方ないわよ。」


「違うってどういうこと?」


「理想と違うってことよ。ヤポンに行ってみたいわね。もしかしたら、ヤポンにならエリザベッタの求めるものがあるかも。」


「ヤポンの食べ物って最近入ってきたばかりだろ?どうして二人が知ってるんだ?」


 ヤポンはこの国のある大陸から船で二日行ったところにある島だ。国という体裁が取られるようになったのは最近のこと。海を隔てているためか、魔王討伐に兵を出さないめずらしい国である。


「ヤポン。わたくしは興味があります。」


「新婚旅行で行ってみる?」


(何旅行?よく分かんなかったけど、行けるなら行きたい。乾燥させた昆布があるってことはきっと日本と近い食生活をしているはず!)


「ヤポンに行くならわたくしも行くからね。」


「新婚旅行だぞ?何で他人が来るんだよ。」


「他人じゃないですけど?義弟になるんだから義理の姉であるわたくしに敬意を払ってくださる?」


「ああん!?」


「いやだわ、下町のチンピラみたい!エリザベッタ、やっぱり結婚はやめた方がいいわ。お父様に相談しに行きましょ。」


「敬意を払われるような義姉になってくださいますかぁ?それに陛下が承諾するわけねえだろ!あの方は俺の味方だ!!」


 ランベルトの味方というよりはエリザベッタの敵なのだが、それは置いといて。いつまでも終わらない口喧嘩に慣れっこの騎士たち。そろそろヴィオランテの雷が落ちて終わるだろう。皆それを待って黙ってひたすら食事を続けている。出来れば和気藹々とした雰囲気で食べたかったと騎士たちは思った。

 当のエリザベッタは二人のやりとりなど全く聞いていない。


(住み慣れたここで暮らせたら一番いいのになぁ。)


 新クリザンテーモ領から帰って来て、未だ廃墟のような離宮がやはりエリザベッタにとっての我が家なのだと再認識するエリザベッタなのであった。

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