眼帯姫は面接官
わあ!すみません!
更新八時に間に合いませんでした!
明日は間に合うと思います。
王都に戻ったエリザベッタは侍女との面接に挑んでいる。いや、雇用主側なので挑まれているのだが。
「ペオーニア子爵家から参りました、ルフィナと申します。」
「ジプソフィーラ男爵家から参りました、アイーダと申します。」
「プルーニャ男爵家から参りました、カローラと申します。」
(最後の人、車の名前だった。)
前世で聞いたCMソングを思い出したエリザベッタ。チェレステはその曲以前にその車種を知らないので、チェレステよりエリザベッタの方が日本では先に産まれていたことが分かるが、その事実に二人は気付かない。
アイーダはマニョリア伯爵家からの紹介、ルフィナはヴィオランテの友人の娘、カローラはルフィナの友人である。皆、夫は魔王討伐軍に参加し、囚われの身のまま。そういった寡婦は家督を継がぬ騎士爵の妻がほとんどで、夫の実家ではなく自分達の実家に身を寄せている。子どもたちは騎士になって騎士爵を得るか、官僚になって出世して叙爵されぬ限りは平民となる。
子どもを貴族であり続けさせるためにはまず教育だ。この教育が金がかかる。どちらかの実家が支援してくれるならば良いが、魔王討伐に税の臨時徴収が幾度もあり、はっきり言って今は何処も困窮している。
今は実家に籍を移し、出戻り令嬢扱いになっているので彼女たちはギリギリ貴族だが、このままでは子どもたちの今後は保証出来ない。女児であれば結婚相手が貴族ならばそのまま貴族でいられるが、正直に言って余り旨味のない存在である。子どもたちの価値を高めるには教養が第一。それには金。金である。異世界であっても世の中は世知辛いのであった。
(なんか……みんなギラギラしてるなぁ。)
と言っても、彼女たちの視線は同席しているランベルトにはない。何故かいるチェレステにもない。仕える相手であるエリザベッタにもない。彼女たちは理解している。この場の最終決定権はヴィオランテにあるのだと。
「不合格。」
それを悟ったヴィオランテは開口一番にこう言い放った。仕える相手を見誤るような相手はいらないのだ。
「そんな!」
「女官長さま!」
「お待ちください!」
ヴィオランテが席を立とうとするのをエリザベッタは袖を引いて止めた。
「キメル、ハヤイ。ヴィオランテは聞く。帰ってはイケナイ。」
ヴィオランテの嘆息と三人の嘆息は同時であった。
「確かに貴女方の上司は女官長殿であるが、主人となるのは我が妻、エリザベッタだ。彼女を尊重してもらわねば困る。」
「まだ妻じゃないでしょ。」
「確定してるんだからいいだろ。」
正妃の子である第三王女と英雄が気安く会話をしているのに三人は目を剥いた。聖女と英雄であっても、ランベルトの話し方は余りに軽過ぎる。と同時にエリザベッタの肩に手を置いて引き寄せるランベルトにも、それをペイッと払ったエリザベッタにも驚いた。
「失礼致しました。」
最初に頭を下げたのはルフィナだった。他の二人もそれに倣う。それを見て口を開いたのはチェレステだ。
「貴女方、エリザベッタに一生仕える気はある?」
「は……一生でございますか?」
「そうよ。子がひとり立ちして、例えば同居しようと言われても断ってエリザベッタに侍る覚悟はあるのかしら?まずは貴女、カローラから。」
「は、はいっ!ございますっ!」
「エリザベッタを絶対裏切らないと確約出来る?」
「う、裏切りでございますか?」
「ええ。その場合は問答無用で死罪だけど、いい?」
「し、死罪!?」
「そうよ?エリザベッタはね、王族籍は離れるけど、王女の称号は保持したままになるの。これはね、今まで冷遇され、そしてそれに気付くことが出来なかったお父様からのお詫びなのよ。だから、エリザベッタへの不敬は伯爵夫人への不敬ではない。王族への不敬となるわ。それを受け入れられるかしら?」
この発言は半分真実で半分は嘘である。父王からの詫びではなく、チェレステの脅しによって承諾させた条件だ。降嫁するが同時に王女のまま。これを父王が渋々ながらも承諾したのには訳がある。それはもちろんエリザベッタの眼帯をし続けなければいけない原因である金の瞳を隠す為だ。王家の姫に魔の色が生まれたなどという醜聞はどうしても避けたかった。
身支度の手伝いをする侍女に対して金の瞳を晒さずにいるのは難しい。かといって、侍女を置かないというわけにはいかはい。その為、チェレステは終身雇用をヴィオランテに提案した。もちろん、老齢になれば解雇することになるだろうが、その頃までにはもう少し周囲が受け入れられるように導くつもりである。
(これって圧迫面接じゃない?三人とも顔が真っ青どころか血の気引き過ぎて真っ白だよ。)
確かにそうなのだが、こればっかりは仕方ない。魔の色への忌避はエリザベッタの想像以上。侍女たちのエリザベッタへの忠誠は必要不可欠なのだ。
「その分、お子さんたちへの教育は王家に準じるものを受けられるように手配いたします。領地を持たせることは叶いませんが、文官でも騎士でも、その道に進んで困らない程度にはマナーも勉学も剣も教えることをお約束致しましょう。」
「騎士を目指すならば何だったら私が稽古をつけてもいい。英雄の弟子だ。箔がつくんじゃないかと思うが?」
「別に取って食おうとしているわけじゃないの。貴女方の夫はわたくしたちの仲間だった者。ただ、エリザベッタにはどうしても秘さねばならないことがある。それが露見するのは王家にとってよろしくないことなのよ。そこさえ守ってくれれば、お子さんたちの将来は確約されたと思ってくれていいわ。」
「わ、わたくしはエリザベッタ第五王女殿下に忠誠を誓います!」
そう最初に声を上げたのはアイーダだった。
「そ、そうすれば、文官でも騎士でも、相応しく教育して下さるのですよね!?」
「ええ。もちろん、たまの里帰りもしてくださって結構。但し、エリザベッタ殿下の秘め事を明かした場合には貴女だけでなくそれを知った者、そして貴女の子も犠牲になるのだと思いなさい。」
「は、はい!そのようなことにならぬよう、誠心誠意お仕えさせて頂きます!」
ランベルト、チェレステ、ヴィオランテはアイコンタクトを取ったのちに頷き、「アイーダは採用と致します」とヴィオランテが告げた。
それを皮切りに立て続けにルフィナとカローラも声を上げる。結果、三人は採用となった。誓いを破れば処分あるのみ。非人道的ではあるが、簡潔である。
「それでは、殿下の秘め事、いえ、王家の秘め事をお教えします。」
「エリザベッタ、眼帯を取って。」
「はい、お姉さま。」
「ああ、ここで無様を晒せば同じく不敬となるから、よく覚悟をしてくれ。」
どの口が!とチェレステは思ったが、睨め付けるだけに留めた。しゅるりと後頭部のリボンをランベルトが外すのもイラッとしたチェレステであった。
「ひッ!」
声に出たのはアイーダだ。他の二人はといえば、ルフィナは呆然とし、カローラはガタガタと震え出している。
「アイーダ。貴女の覚悟はその程度なの?」
「もっ、申し訳ございません!」
「お姉さま。怒るはイケナイ。」
「ああ、ごめんなさいね、エリザベッタ。でも、大切なことなのよ。」
「でも、コワイはワルイ。」
「ね?貴女方、分かる?エリザベッタはとても優しい子なの。わたくしの大事な妹なのよ。」
「エリザベッタ殿下は生まれつき右目に魔の色を宿していたことで冷遇され、これまでずっと離宮でおひとりで暮らして来られました。」
「一人というのは言葉通りだ。女官もおらず、使用人すらいない。四歳からたった一人で、粗末な食事を与えられるだけで自身で狩りをしたり、服をカーテンで拵えたりしながら生きて来られた。そんな彼女にこれからは私が何不自由ない暮らしを与えてやりたいと思っている。おかしなことをすれば即刻処断するからな。子どもとて容赦はしない。」
「魔の色と言っても何があるわけじゃないの。突然変異よ。色素欠乏だとわたくしは考えています。聖魔法でも治せなかったからね。先天性のものなのよ。だから、魔の色があるからといって必要以上に怖がったりしないで。金の瞳だからといって、不幸を呼ぶわけではありません。これは聖女としての言葉です。分かったわね?」
三人はコクコクと頷くだけで言葉を発することが出来なかった。エリザベッタの金の瞳と目が合うたびに肩を揺らす様を見て、さすがのエリザベッタも嘆息した。
(大丈夫かなあ、この人たち。先行き不安。)
そう思わずにはいられないのであった。
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