眼帯姫の労働改革
下記のルールを前提にお読みください。
★主人公のセリフの見分け方
「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)
「〝 〟」異世界言語のセリフの中にまざる日本語
『 』日本語のセリフ
※たまにチェレステのセリフの場合があります
いずれクリザンテーモ伯爵夫人として、この館の女主人として、ここで采配を振るわなければならないエリザベッタ。ヴィオランテは家庭教師兼秘書としてついて来てくれるが、家政婦長は別に雇っている。ヴィオランテのような女官は決して女中ではない。
「トスカと申します。」
と名乗った女性が王家より派遣された家政婦長である。
本日のスケジュールは貴族夫人の家政について学ぶ。大まかなことは教わってはいるが、実際にこれから人を雇って生活の場を整えなければならない。
募集に飛び付く女性たちはおこぼれ狙いだ。見目麗しく、生まれ(性格もだが)はともかく、地位と名誉と財産を手にした英雄ランベルトのお手つきになり、愛人の座を狙うものばかり。これにはトスカも頭を悩ませていた。
「雇用がなかなか進みませんで、第五王女殿下には大変申し訳なく……。」
執事長のリベリオも豊かな白眉を八の字にする。これは困った。
エリザベッタはこちらに来る前、姉チェレステとした会話を思い出す。
『雇用形態を変えたいんですよね。』
『慣例破りはなかなか受け入れられないわよ?』
『でも、王宮もですけど、この世界ってどの職業も基本的に超絶ブラックじゃないですか。』
『確かにね〜。休みっていう休みがないからね。』
『休日はしっかり作った方がいいに決まってます。なんなら、有給休暇制度も取り入れようと思います。』
この世界の雇用は冠婚葬祭と夏季と年末年始の休暇以外休みがない。一番まともに休みが取れる職業が騎士であるというのはいかがなものか。あんな適当な父親である国王さえ、ほぼ年中無休だという。女主人の仕事だって案外多い。一日の内の休息時間などあってないようなものだ。
『社交なんかも、するか分かんないですけど、最初から年間スケジュールを決めて、季節ごとに企画を立てていけばそう面倒なことにはならないと思うんですよ。』
『だけど、お茶会の企画なんかは基本的には一人でやるものよ?それが女主人の腕の見せ所なんだから。』
『結果として成功すれば別に私の案じゃなくても良くないですか?働いてくれてる館の女性を集めて、企画会議をしようと思ってます。なんなら、プレゼンしてもらって、使用人全員での投票でもいいかなって。企画を出すのは別に女性じゃなくてもいいんですけど。ていうか、いっそ外注したいくらいです。お茶会のプロデュースとか、仕事になりそうですよね。』
『面白いけど、どうなのかしらね。』
『ウエディングプランナーみたいなもんですよ。需要はあると思います。ま、そもそも私はまずお茶会に出たことないし、呼ぶ相手なんていないんですけど。』
『私がいるじゃない!』
『お姉さまとはお茶会でなくても、普段から会えますから。』
『確かにギスギスしたマウント合戦するよりはエリザベッタの手料理が食べたいわ。』
『ですよね。はあ。気が重いです。本当に結婚しなくちゃいけないんですかね。』
『あきらめなさい。ランベルトはする気満々よ。』
『何考えてんですかね、あの人。最近やたらとまとわりついてくるし、おかしな宣言はするしで困ってるんですけど。英雄で婚約者だから無下にも扱えないし。』
『なんとも思ってないの?』
『顔はいいですけどね。』
『好み?』
『好み……うーん、好きか嫌いかって言われれば割と好きですけど。』
『なら、なんでダメなの?』
『ダメっていうか、美形は観賞用で充分なんです。気後れしかしないし。』
『エリザベッタだって可愛いわよ?』
『それを言ったらお姉さまは可愛い上に美人じゃないですか。ザ・プリンセスって感じで。金髪碧眼だし。』
『でも悪役令嬢なのよ?理不尽よね〜。』
全くである。こんなに優しい姉なのに。それはチェレステの中の人が転生した日本人であるからなのはエリザベッタも重々承知しているが、だからこそ、尚のこと、物語の強制力などなければいいなぁ、と思うのであった。
あの晩、ベッドの中で会話しながらチェレステにスペルを教わって書いた提案書。手書きで何枚も書かなければならないのは面倒だったが、翌朝から清書に励んだ。文字の練習と思うことにしてがんばったエリザベッタの力作である。
ランベルトはランベルトで領主としての仕事を始めているが、内向きの仕事は基本的に女主人に決定権がある。しかし、今回は雇用改革に関してなので同席してもらっている。
「週休二日制?」
「はい。」
エリザベッタが最初に提案したのは週休二日制だった。この世界でも日曜日のような安息日はあるが、王侯貴族の使用人には余り関係のないシステムであった。平民も同様である。
文官だろうが食堂の給仕であろうが、休日出勤しているかそもそも休日がないかの違いで、安息日とは程遠い生活をしている。ちなみに肉体労働な職業に関してはそこそこ休みを取れているようである。他の職業は自己裁量制と言える。冠婚葬祭くらいは休めるが。
「休みを与えることで仕事のパフォーマンスを上げるのよ。」
「騎士団はそうだけど?」
「騎士団はね?他の職業であったっていいじゃない。」
「これでいうと、騎士団はシフト制になるのか?」
「キシダンハこっち。」
「変形労働時間制の方よ。夜勤の人が毎回夜勤なわけじゃないでしょ?」
「あ、そっか。」
エリザベッタは勤務体系を数パターン出して、検討して欲しいと最初にトスカに資料を提出した。
もちろんヴィオランテには事前に目を通してもらっている。「やるだけやってごらんなさい」という言葉は背中を押してくれるものであるとエリザベッタは誤変換していた。いや、わざとそのように捉えたと振る舞っている。
「キュージンハシッパイ。タイグウカイゼンガ大事です。」
伯爵家としては破格の給与を提示しているのだが、そのことをまだ教えてもらっていないエリザベッタは、ミーハーばかり集まるのは待遇が悪い、もしくは普通であるが故だと考えた。何処よりも良い雇用条件、それは福利厚生も含まれる、であれば、能力のある者も働きたいと手を挙げてくれるのではないか。そう考えた。
「メイドはジュウハッサイまで夜勤はいけません。セイチョウキノヨフカシはいけない。」
平民は十を越すと働きに出る。見習いだ。十五になると王侯貴族と同じく成人。そんな子どもが夜勤までやらされるのはよろしくない。
想定される質疑応答をチェレステに翻訳してもらって読み上げるエリザベッタ。リベリオとトスカはエリザベッタの事情を知っているが、〝教育が不十分〟=〝知能は幼児並み〟と考えていた。そんな知能なら一人で生き延びて来られるわけがないのだが、ヴィオランテからの報告書を読んでいたにも関わらず、片言で話す様子を見て大きな子どもと思い込んでいた。
二人は目を丸くしたままエリザベッタから目を離さないでいる。彼女の表情は幼児でもなく、十四歳の少女らしくもない。それなりに経験を積んだ大人と同じ顔をしていた。
熟練の二人は完全に見誤った。エリザベッタは子どもではない。淑女とは言えないかもしれないが、その精神は成熟した大人である。
リベリオとトスカは手元の資料に目を落とす。もう一度エリザベッタの提案書を熟読し始めた。
それからの二人はエリザベッタを侮ることはなかった。
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