眼帯姫のアドバイス
下記のルールを前提にお読みください。
★主人公のセリフの見分け方
「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)
「〝 〟」異世界言語のセリフの中にまざる日本語
『 』日本語のセリフ
※たまにチェレステのセリフの場合があります
「この土地は水気が多くて麦には向かないのです。」
「ムギはダメ。コメは作るがいい。」
「え、と……なんと?」
「麦がダメなら米を作ればいいじゃない。」
「コメって、西海を渡った大陸で栽培してるヤツだろ?」
「そうよ。まあ、実際育てるには灌漑とか色々やらなきゃいけないことあるけど。」
「ムギはカンタン。コメはムツカシー。タイヘン。デモ美味しい。」
ヴィオランテが嘆息したのはまた食べることに関する言葉だけやたらと発音が良かったからだ。自給自足を極めたエリザベッタも主食の栽培には手を出したことがなかった。既に稲作をやる気満々でウキウキとしている。
だって、米は日本人のソウルフードだから。
「一度取り寄せてみるか。」
「物は試しって言うしね。」
「なんでお前が出しゃばるんだよ。」
「エリザベッタの気持ちを代弁してるだけよ。」
エリザベッタを見ればコクコクと頷いている。今度はランベルトが嘆息した。
「エリザベッタ。チェレステの言うことに何でもかんでも頷いたらいけない。いつか酷い目に遭うよ。」
困ったポーズをするので、ランベルトの発言を理解出来なかったようだ。チェレステに翻訳を促しても、フンと顔を背けられた。しかしながら、チェレステはどうやってエリザベッタと意思疎通しているのか。血のつながりとはそれほど深く固いものなのか。
このままでは本当にチェレステまで一緒に嫁入りして来かねない。夫となるランベルトとのコミュニケーションを優先してほしいと密かに思っている。思っているだけではなく伝えてもいるが、なかなか理解してもらえないのであった。
今もコソコソと姉妹で話し合っている。ランベルトによるエリザベッタと領地で一気に距離を縮めよう作戦は今のところ不発に終わっていた。
『お米が手に入ったら何食べる?』
『梅干しか納豆が欲しいところですけど。あと海苔。』
『お高いけど伝手でスパイスは手に入るわ。カレーはどう?』
『いいですね、カレー。それで行きましょう。』
米が出来たらカレーを作るという結論に達した二人はまた寄り添いながら地元の農家に話を聞いている。ランベルトは完全に蚊帳の外である。
ちなみに現在のエリザベッタの頭の中は、
(普通のカレーもいいけど、バターチキンカレー食べたいな〜)
である。
場所を移動して、視察は続く。林業も盛んなので、山に向かった。
「昨年の土砂災害の影響がありまして……。」
「代官から聞いてる。突然起こったのか?何か変化はないのか?」
「ええ、はい。一昨年から需要が増えまして、伐採の数を増やしているのですが、それ以外は。」
『お姉さま、何の話?』
『木を切り過ぎて山が地滑り起こしたみたいよ。』
『それって植林とかしてるんですかね?』
『してないんじゃない?前時代的な世界だし。』
「恐れながら聖女さまのお力で何とかなりませんでしょうか?」
基本的に聖女の力は魔を祓うもの。答えはNOだ。細々とした分類はあれど、他の特筆すべき能力としては治癒の力くらいのものだろう。
「同じところばっかり切るからよ。木がなくなると山が崩れる原因は……なんだったかしら。エリザベッタ。」
『根っこが絡まり合って山の土を押さえてるんですよ。針葉樹は根が浅いので植林するなら広葉樹がオススメです。成長には時間がかかりますけど。』
「木の根が深く張ってないといけないんですって。針葉樹ではなく広葉樹を植えるといいそうよ。植物の成長を促すことくらいならわたくしでも出来るから、一度だけならやってあげてもよろしくてよ。その後は人の手で。無理にやると植物も疲れてしまうからね。」
「その知識はエリザベッタのものなのか?」
「わたくしも知ってはいたけど、エリザベッタの方が詳しいわね。なんたって、しょっちゅう山に出入りしてたんだもの。よく知っていて当然よ!」
それを言ったら林業に携わっている木こりたちも同じだが、前世の知識とは言えない。エリザベッタは賢いから目の付け所が違うのだと主張するしかなかった。
(ていうか、聖女の名前出すとカンタンに信用するなぁ。プライドないんかい。)
その通りなのだが、英雄と聖女は王家とはまた違う力がその名に付いている。チェレステに至っては王女でもあるので、権力全部乗せのようになっている。侏儒なる民草はへえへえと頭を垂れるのみだ。
「第五王女殿下、お知恵をお貸しくださりありがとうございます。第三王女殿下、植樹が済みましたらどうぞご協力をお願いいたします。」
「ええ、もちろん。」
「ドウイタシマシテ。」
どういたしましてと言いながら、エリザベッタは地べたにしゃがみ込んで何かをブチブチと千切っていた。ヴィオランテも気付かなかったらしい。植林のことを聞いて山に視線を向けた一瞬のうちのことだったからだ。驚いて止めようとしたが、ランベルトに制された。あとで補習をしなければと思うヴィオランテであった。
「何してるの?」
「〝ゼンマイ〟〝ワラビ〟。おかずになる。」
「それは渋くて食べられませんよ?」
(アク抜きって何て言えばいいんだろ?〝シブクテ〟食べられないって言ってたよね。シブクテは渋くてってことかな?)
こうやって文脈から相手の話を推測することもしばしばある。エリザベッタも努力しているのだ。
「わたくしは熱湯にふくらし粉を入れる。これは茹でるあと干す。食べられる。」
へえ〜!と皆一様に感心している。チェレステは、
(もしかしてエリザベッタの前世って私より年上だったんじゃない?おばあちゃんの知恵袋みたい。)
と思ったが、飽くまでお姉さまでいたいので口に出すことはない。
当日に食べられるものでもないので、後日干した物と調理法を渡す約束をしてその場を辞した。
(やっぱり米だな〜。山菜の炊き込みご飯食べたいよ。醤油も欲しいし。あ、たらの芽とふきのとうの天ぷら食べたいなぁ。)
たらの芽とふきのとうは離宮の裏庭と山にあったのでエリザベッタにとっては春のごちそうであった。月に一度の揚げ物デーで作る、春の定番料理なのだ。
他にも成長した蕗できゃらぶきを作りたいところだったが、醤油がないのはかなりネックだった。エリザベッタの料理は本能に従うと全て茶色になりかねない。彩なんてものは二の次だ。
短時間のうちに淑女らしい手袋とハンカチは渋だらけとなり、籐の籠も山菜で山盛りになった。現地の領民は呆気に取られ、後日送られてきた乾燥山菜を見て今度は虚無の顔になった。
何故王女が平民も食さぬような植物の調理法を知っているのか。
「野芹と豚バラの塩レモン炒め、美味しいわね。」
「野蒜とやらのフリッターも美味い。白ワインに合う。」
「それはフリッターではありません。それは〝天ぷら〟です。」
「小麦粉で揚げているからフリッターなのでは?」
「衣がちょっと違うのよ。これ、片栗粉入れてる?」
「はい。あ、これはカタクリコの〝天ぷら〟です。」
「片栗粉じゃなくて片栗の花の天ぷらね。あー!これ!このお団子、蕎麦の味!」
「ソバ。それはソバ団子スープです。」
「こういう味付けもなかなか味わいがあるわね。」
真実は明るみに出ることはあるのだろうか。
恐らく、そんな日は来ない……はずである。
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