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眼帯姫はたくましい  作者: 里和ささみ


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眼帯姫は恥ずかしい

ブックマークしてくださった方、ありがとうございます!


毎日午後八時に予約投稿の予定です。

下記のルールを前提にお読みください。


★主人公のセリフの見分け方

「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)

「〝 〟」異世界言語のセリフの中にまざる日本語

『 』日本語のセリフ

「エリザベッタ第五王女殿下。陛下がお呼びでございます。」


 庭でハーブを摘んでいたエリザベッタが振り向くとすぐに窺うように首を傾げた。見知らぬおばあさんが離宮を訪ねて来たからだ。しかもエリザベッタに話しかけてくるとはめずらしいことあるものだ。


「ヘーカ、ガ、ヨブ?」


 共に連れて来た女官たちは離宮の幽霊屋敷さながらのおんぼろ具合に慄き、エリザベッタの服装に驚き、発言に青褪めた。青褪めたのは老女も同様だった。


「これはどういうことですか、ロジータ第五王女殿下筆頭。」


「ひっ!」


 エリザベッタが聞き取れたのは「これ」「ロジータ」「第五王女殿下」だけだった。「これ」は幼い頃、まだこの離宮に人がいた頃によく聞いた単語だ。「第五王女殿下」も自分のことを指しているのは三歳の時分から分かっていた。「ロジータ」は人の名前であろうという推測である。


「ゴキゲンヨー。アナタ、タチ、ダレ?」


 エリザベッタは記憶を辿って言葉を紡ぐ。かれこれ十年ほどこちらの世界の言葉は使っていない。給仕係の呟きと、たまに来る見張り兵の会話を聞くくらいしかこの国の言語に触れる機会が四歳以降なかったからだ。


「わたくしは王宮の女官長、ヴィオランテでございます。お言葉はお分かりになりますか?」


「チョト。」


 エリザベッタはいかにも身分がありそうな女性がこちらに気を遣ってくれている様子を察し、返答が片言になってしまうのが恥ずかしかった。思わずバツの悪い顔をすると、女官長は嘆息して話を続けた。


「貴女のお父上であらせられる国王陛下がエリザベッタ王女殿下にお会いになりたいと仰っています。身支度はわたくしの監視の下、これからこの者たちが行います。お怒りはごもっともでございますが、本日はどうかご辛抱をくださいますよう、お願い申し上げます。」


 何を言っているのかさっぱり分からないエリザベッタは目をぱちくりとして振り子のように頭を左右に振るばかり。

 離宮の中へ入るようにヴィオランテと名乗った老齢の女性が目で示すので、状況を把握出来ないまま従うしかなかった。だって、威圧感がすごい。拒否の言葉もエリザベッタは「イヤ」と「ダメ」しか知らない。いい歳して口にするような言葉ではない、幼い表現であることを理解していた。


「……こちらでは御身のお支度を整えられませんわね。」


 辛うじて「こちら」とだけ聞き取ったエリザベッタは老女の表情から掃除の行き届かぬ正式な浴室を見てなじられたと思い込み、拙い言葉で「ゴメンナサイ」と俯きながら呟いた。


(は、恥ずかしいぃ!こんな広い浴室掃除すんのめんどくさいから使用人用のシャワールーム使ってたのが仇になった!!)


 エリザベッタとて、一人きりになったばかりは不安であった。どうやって生き延びるか、この離宮サバイバルに必要な物を探すため、離宮中を隈なく探索した。

 その際、母が使っていた浴室からアメニティ類を持ち出しており、それ以降この浴室に足を踏み入れたことはない。人がいなくてもある程度は埃が溜まるもの。むしろ生活の場でないからこそ、初雪のように薄らと積もった埃が長くこの場を整える者がいなかったことの証明となる。そしてそれはこの離宮の主人であるエリザベッタの責任。そう考えたのだった。


「謝罪なさる必要はございません。申し訳ないのですが、先にメインパレスへ移動致しましょう。お召し替えはそちらで行います。」


 「謝罪」と「ございません」の二つだけは聞き取れたエリザベッタは怒られたわけではなさそうだと胸を撫で下ろした。


 人生で初めての馬車に乗りしばらくするとエリザベッタはその振動でウトウトとし始めた。


(馬車なんて前世でも乗ったことないよ。あー、眠い。まだ目的地に着かないのかな。でも寝たらこの人に怒られそう。そういうの、厳しそうだもん。)


 睡魔と戦うこと一時間。離宮は本当に離宮であった。

 初めて見る本宮(メインパレス)は巨大で絢爛豪華な建物で、今度はエリザベッタの方が恐れ慄いた。離宮とて元は美しい建物であったが、さすがにエリザベッタも外観の手入れは出来ないため、十年の間に蔦が絡みついて覆い尽くし、窓から見えるカーテンも外されていたり破れていたりするので廃墟のように見える。エリザベッタ本人は「甲子園球場みたい!」と完全に建物が見えなくなった日は手を叩いてはしゃいだのだった。


(ひええ!こんなとこに通されるなんて!私、マナーなんて習ってないよ!大丈夫かな!?)


 馬車を降りる前に「こちらをお召し下さい」と渡されたローブの着方も分からず戸惑ったが、ヴィオランテという老女が身振りで教えてくれた。頭巾を深く被れと指示をされたので、エリザベッタは言われた通りに頭をすっぽりと隠す。


(悪い人ではなさそう。見た目怖いけど。)


 人と触れ合わぬ期間が長かったためか、エリザベッタはちょっとした優しさにも絆されやすい。自覚はあった。


(陛下って、私の父親だよね。お母様が死んでから一度も会ってないけど。今更何の用事だろ。王妃様には嫌われてるんだけどなー。いないといいなー。)


 本人は心配しているが、エリザベッタは天然故かとても図太かった。図太くないと生きていけないからである。辛いときは前世で暮らした日本という国の歴史にある世界大戦、第二次世界大戦であるが、その残留日本兵のことを思い出して自分を励ましていた。


 浴室ではヴィオランテの宣言通り、女官長による監視付きでエリザベッタは今世初のエステを受けた。湯舟に浸かるのは時々行っているので久々ではなかった。


(うはぁ、気持ち良かったぁ!極楽、極楽!)


 束の間の休息と思いきや、そこからは慌ただしく王女に見えるように仕立てられて行く。


「にょ、女官長。殿下がお召しになってらした服はどういたしましょう。」


「そんなもの捨てておしまいなさい。」


「ダメ!!」


 エリザベッタの着ていた服を持つ女官に対して「捨てて」というヴィオランテの言葉を拾い、支度も中途半端なまま女官から手製の服を奪い返した。


(帰ってから着る服がなくなっちゃう!いや、替えがなくなっちゃうでしょ!捨てるなんてもったいない!もったいないお化けが出るよ!)


 警戒心マックスでガルガルと服を抱きしめるエリザベッタにヴィオランテは再び嘆息した。


(優しい人と思ってたのに!ヴィオランテさんに裏切られた!ヴィオランテ!?怪獣かよ!怪獣だな!!)


 エリザベッタは絆されやすい反面、疑心暗鬼にもなりやすい。長きに渡る一人サバイバルの弊害であった。


「仕方ありませんわね。()()()()()にもなるでしょう。そちらはそのまま陛下にご覧に入れます。いいですね、貴女たち。」


 ロジータ始めとする五人の女官たちはヒュッと息を吸い込んだ。エリザベッタはただただお気に入りの元カーテンを抱きしめるばかり。


「シタギモ、カエシテ!」


 これが王国に咲く一輪の華と謳われた女性の娘か。まるで野生児ではないか。


 ヴィオランテはまた大きく嘆息したのであった。

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