眼帯姫の新居改築計画
一日二投稿は本日で終了いたします。
朝と夜のどちらがいいんでしょうか。
ご意見があればお知らせください。
明日は夜の八時に投稿する予定です。
下記のルールを前提にお読みください。
★主人公のセリフの見分け方
「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)
「〝 〟」異世界言語のセリフの中にまざる日本語
『 』日本語のセリフ
「一度領地に行くことになりました。」
「イテラサイマセ。」
「ご一緒にどうです?いずれ貴女も住むところなのですから。」
「陛下より殿下を王宮外へ出してはならぬとのお達しです。」
「ならば私が陛下に御許可賜りましょう。」
「まだ何の準備も出来てないところにエリザベッタを連れて行く気?」
「だからだよ。館を整えるのに殿下の希望を聞きたいんだ。実際に見て考えた方がいいじゃないか。」
国王からは「行けば?」と雑に許可が出たので、ムゲット公爵家の派閥でエリザベッタの件で巻き込み事故的にお取り潰しになった伯爵領へ向かうことになった。もちろん、ヴィオランテとチェレステも同行する。ヴィオランテはともかくチェレステは来なくていいのにむしろ来るなとランベルトは思っているが、エリザベッタが「おねえさまとリョコー!」と嬉しそうにするので仕方なく許可をした。
とはいえ、聖女チェレステを連れて行く利点はある。聖女の臨幸は領の誉れ。しかも彼女は正統なる王女。もちろんエリザベッタも王女ではあるが、やはり王妃を母に持つチェレステの方が印象は良い。聖女だし。
英雄ランベルトが賜った土地は馬車で丸二日かかる。道中もそれはそれは楽しい旅であった。
「いっせーの、に!貴方なんで上げるのよ!?」
「いやコレそういうゲームなんだろ?」
「イセーノさん!!」
「ああー!エリザベッタずるい!!」
「おねえさまとランベルトがお話しするワルイ。」
「言ったわね〜!このぉ!!」
「キャー!フフフ!」
こんな感じ。他にも指を五本にするマッチという手遊びをしたり、山手線ゲームチェレステ王国版をしたり、まるで遠足か修学旅行のようである。
二日目の午後、領地に入った。ここの領地は王都から近い部類に入る。英雄はなるべくお膝元に置きたい国王によるはからいである。
馭者席から領に入ると告げられ、窓から風景を覗く。緑豊かな土地のようだ。
「ここが俺の領地かぁ。来たの初めてだけどいいところそうだな。」
「領地経営の勉強なんかしてないのに大丈夫なの?」
「まあ、陛下がそういうのが得意な人もつけてくれたから何とかなるだろ。」
ランベルトはモテ一筋、いや、騎士一筋で来たので、領地経営のことなどサッパリだ。ヴィオランテはこのまま婚姻となれば退職してエリザベッタの降嫁についてくると言う。内向きのことはヴィオランテに任せ、その他のことは国王が揃えてくれた人材に丸投げすればいいと考えているランベルトなのであった。
「それでも少しは勉強したんでしょうね?人口は?面積は?主要産業は?特産品は?」
何一つとして答えられないランベルトに、チェレステとエリザベッタは呆れ返る。
(まだ私の方が答えられるよ。この人をアテにしちゃダメだな。お姉さまが脳筋って言うのも仕方ない。)
広大な敷地を持つ領主館の門をくぐり、エントランスへ馬車を寄せると国王から派遣されたランベルトの部下になる者たちが待っていた。当たり前だが皆貴族。子爵家出身である執事を筆頭に、クリザンテーモ伯爵家の使用人になる者たちが恭しく頭を下げて出迎えた。総勢十名。現在は人を集めている最中だと言う。ここにいるのはベテランの者ばかりだ。
執事長となるリベリオは胡麻になった髪を撫で付け、ピシリとした姿勢で挨拶する。エリザベッタが微笑みかけると小さく微笑み返してくれた。いい人そうだ。
領主館は国内でも歴史ある建物だった。伝統ある館があるのに、何故それに恥じぬ生き方をしなかったのか。巻き込み事故とは言ったが、真っ当な貴族とは言ってない。裁かれて然るべきことをして来た者ではあった。
婚姻すればエリザベッタとランベルトの新居となる館は今から見れば多少古臭くはあるが、きちんと整えられたものだった。前任者は脱税もしていたので金目の物は全て国によって引き揚げられているが、必要なものは揃っているように見える。
だがエリザベッタの感想は、
(これじゃヨーロッパの美術館じゃない。デカ過ぎだし、掃除が大変だよ。傷でも付けたらと思うと暮らしやすいとは言えないなぁ。それに石造りって見た目カッコいいけど耐震性とかどうなの?地震が起きて潰れたら怖いんだけど。)
というものであった。日本人らしい発想である。
「どうかな?俺としてはちょっと広過ぎるかなって思うんだけど。」
「わたくしはキライデス。」
「あ、やっぱり。」
やっぱりという言葉が出るくらいなので、ランベルトは予想をしていたということだ。エリザベッタの趣味は何となく理解している。エリザベッタは機能性重視のシンプルな物を好む。美しいモノに興味がないわけではないが、これまでの暮らしのせいなのか、それとも前世の気質を引きずっているのか、西洋的な豪華さに憧れはすれど生活の中に落とし込むことができない。飽くまで観賞用だ。
「ここは執務棟にして、別に家を建てるのもいいんじゃないかと思ってる。」
「ベツニイエ。」
「そう、新婚夫婦が二人で、子どもが出来たら家族だけで過ごす家。」
「それ、貴族として生きていくのにはよろしくないと思うわよ?子どもたちが後から苦労するだけだわ。」
身軽な男爵家三男、しかも人生の大半を平民として暮らしたランベルトと、雨風がしのげればいいという究極のミニマリストであるエリザベッタ。二人が貴族としての体面を保つのは難しそうだ。
「とりあえず、居室の方だけ見てみましょうよ。そちらを自分たちの過ごしやすいように改築した方がいいわ。雇用を生むのも領主の仕事よ。その辺はちゃんとなさい。」
ヴィオランテもウンウンとチェレステに同意して頷いている。二人の言うことは正しい。他に別荘でも作って、週末なんかにそこで家族だけの暮らしをすればいいという提案もヴィオランテがしてくれたので、結局はこの館に住むことになりそうだ。
(新しく建てるのもお金がかかるしなぁ。改装の方が安く済むか。)
贅沢は敵の生活を十年送って来たので、お金を使うことに抵抗があるエリザベッタ。何より、自分で稼いだお金がないことが大きな精神的負担になっているのは間違いない。王女や高位貴族の女というものは労働をしないのが当たり前で、チェレステが特殊なだけなのだが。
「こちらが領主の私室となります。」
プライベートスペースは思ったよりも地味だった。どんなに贅を極めた者でも、寝食の場は落ち着くところがいいのかもしれない。とはいえ、高級品で囲まれているのは間違いない。改装前なので普段立ち入らない部屋にも案内してもらっている。領主の私室は書斎のようになっており、続き部屋に個人の寝室、そのまた続きに夫婦の寝室がある。そしてそこへ続くのは領主夫人の寝室。生々しさに口をあんぐりと開けるエリザベッタだが、ランベルトは不機嫌な顔をしている。
「こんなに部屋をまたぐ必要があるか?」
「構造上の問題がありますので間取りの変更は致しかねます。」
「体調が悪いときとかどうするのよ。」
「まあ、そうか。」
ランベルトの発言「またぐ」と執事長リベリオの発言全部が理解出来なかったエリザベッタは首を傾げて困ったポーズをしてみたが誰にも気付いてもらえなかった。
(何の話だったの!?)
ランベルトがエリザベッタと私室でもずっと一緒にいたいという話である。
結局新築の話はなかったことになり、カーテンとカーペット、壁紙を取り替え、寝台はまるっと入れ替えるという話で落ち着いたのだった。
(ま、寝れれば何でもいいや。)
寝室を分けることに不満のある夫を持ってエリザベッタは落ち着いて寝られるか。それは結婚してみないことには分からない。
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