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眼帯姫はハメられる

一日一投稿にしてましたが、一週間ほどの間は一日二回投稿に変更しようと思います。朝七時と夜八時の二回にいたします。


下記のルールを前提にお読みください。


★主人公のセリフの見分け方

「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)

「〝 〟」異世界言語のセリフの中にまざる日本語

『 』日本語のセリフ


英雄の大暴走。

チェレステほぞを噛むの巻。

「クリザンテーモ男爵、クリザンテーモ男爵夫人、本日はお出席クダサリありがとう存じます。」


「あ、い、いえ。第五王女殿下の降嫁など、この上ない名誉、大変光栄なことでございます。家族としてお迎え出来る日を楽しみにしております。」


 何とか淀みなく言えた。ひとつだけ言い間違いがあったが、エリザベッタは気付いていない。男爵夫人は何も返さない。後で何か言われて何かされるのはこの人自身なのでエリザベッタは気付かない振りをした。


「クリザンテーモ男爵シソクサマ。ご出席クダサリありがとう存じます。」


「第五王女殿下にそう仰って頂き、大変恐縮でございます。弟は独り立ちしましたから家は分かれますが、今後とも親族として何卒よろしくお願い申し上げます。」


 気が弱そうに見えたが如才ない受け答えである。王家と伯爵家が帰ったからだろうか。それにしたってクリザンテーモ男爵よりも子息の方がまだ堂々としているように見えた。クリザンテーモ男爵は早く息子に席を譲った方がいい。


「はい。スエナガーク、ドツキアイお願いいたします。」


 最後の最後でとんでもない言い間違いをしてしまった。クリザンテーモ男爵子息、ランベルトの兄、エルベルトは吹き出した。


「兄上。」


「ああ、失礼。大変可愛らしいと思ってね。殿下。リハビリは大変でしょうが、我々もお支え申し上げますから頼ってくださるとうれしく思います。」


「ありがとう存じます。よろしくお願いいたします。」


 とにかく練習した言葉。「クリザンテーモ男爵」「夫人」「ありがとう存じます」「よろしくお願いいたします」。特に最後の二言で大体の会話を済まそうという計画である。上手くいったとエリザベッタは大変満足であった。結局、夫人はほとんど言葉を発しないままであった。


 さて。王女であるのに省かれた親族食事会。こんなこぢんまりした式ならばこんなゴテゴテに着飾らなくても良かったのではと思う。


「神殿の外に民が集まっております。二階にバルコニーがございますから、そちらからお顔を見せて差し上げてはいかがですかな?」


 チェレステは「神殿長はどうせお布施目当てよ」と言ったが、いつまでも引かない人に神官たちも困っているようだ。王族の婚約式といえど、ここまで大騒ぎすることはほとんどない。否、これは王族の婚約式ではない。英雄の婚約式なのだ。ぶっちゃけていえばエリザベッタはオマケなのだ。主役はランベルトである。

 しかし、エリザベッタはそれを情けないとは思わない。エリザベッタとしての人生は誰かの為でなく自分の為に生きて来た。それは仕方のないことではあったが、自分は飽くまでお飾りであり、つなぎの婚約者だという意識が未だ強い。このまま婚姻になだれ込んだらどうするつもりなのだろうか。ランベルトはしめしめとその時を心待ちにし、チェレステは苦々しく思っている。既成事実が出来てしまえば離婚は難しい。そもそも、父王が英雄との離婚など認めないだろう。


 バルコニーから出ると、目の前の広場を埋め尽くして尚、通りにも人が鮨詰めになっている。「見えねえ!」「押すな!」という叫び声が聞こえる。ドミノ倒しなどになりはしないか心配していると、ランベルトが右手を上げて場を制した。彼を中心に、波を打ったように静寂が広がって行く。これが英雄か。

 エリザベッタは感心してランベルトを見上げた。その視線に気付いたランベルトはエリザベッタに向かって微笑む。エリザベッタは気付いていないが彼女は口を開けてぽかんとした顔をしているので、ヴィオランテから見えてないことに感謝した方がいい。バレたら必ず「補習」が待っている。

 ランベルトがエリザベッタの腰を引いて抱き寄せると下から「きゃあ!」とか「おお!」とかの感嘆の声が聞こえた。民衆は英雄の一挙一動を見逃さない。


「私、ランベルト・クリザンテーモは本日、聖女チェレステの立ち会いのもと、王女エリザベッタと婚姻の約束を交わした!一年後、再びこの大神殿で婚姻の儀を執り行う予定である!」


 まさかの大宣言にエリザベッタは困惑する。なんつー恥ずかしいことをする男だ。こんなところで宣言して他の女に走れば評判を落とすのは自分自身なのに、堂々と言い放って大丈夫なのだろうか?それとも男尊女卑が蔓延っていて、男性の有責であっても女性側につなぎとめる魅力がないと言われて責められるような社会なのだろうか。エリザベッタの心配事は今日も元気に斜め上を突き抜ける。


「私は不遇な人生を送ってきた彼女を必ず幸せにしたい!ハンディキャップはあれど、彼女は真面目で、頑張り屋で、照れ屋で、とても可愛らしい女性だ!」


 ぴゅーうという指笛の音と「そーだそーだぁ!」「いいぞー!」という野次が飛んでくる。いたたまれない。


「余計なことを言う輩もいるが、彼女は決して貶められていい存在ではない!正直に告白するが!私もかつては彼女に対して偏見を持っていた!しかし!彼女の姉、聖女チェレステを通じて交流を持つようになるとその考えは一変した!」


 この辺りからエリザベッタは無心を貫くようになった。ランベルトの叫びの翻訳も頭の中で間に合わず、内容を知ったらどちらに転ぶか分からないがまたスン……となると思ったからだ。聞き流して、微笑んでいるに限る。ヴィオランテにはそう指示されている。


「私が畏れ多くも国王陛下より賜った数ある褒賞の中で、エリザベッタこそが最も大きな褒美である!彼女は私が望んで陛下より婚姻の許可を頂いた!我が姫は私の人生において魔王討伐によって得た勲章よりも価値がある!私をエリザベッタに引き合わせて下さった神と、陛下と、聖女チェレステに感謝を捧げる!私はエリザベッタとここにいる皆に誓う!一生をかけて彼女を愛し、守り抜くと!彼女を貶める者、彼女に牙を向く者あれば、我が剣の贄になると思え!」


 わぁぁぁぁぁ!!!と民衆が湧く。エリザベッタは首を傾げたいところを我慢する。頬に手を添えて首を傾げるしぐさはもう癖になっている。ただの誤魔化しとも言えるのだが。

 ランベルトはエリザベッタを己と向かい合う形に変えて、額に口づけを落とした。後ろで「あ゙!!」というチェレステの王女らしからぬ声が聞こえる。恐らくその横でヴィオランテが「補習」とつぶやいていることだろう。

 ランベルトはエリザベッタの肩に手を置いて寄り添うと、耳元でささやいた。


「手を振って。笑って。」


 ランベルトを見上げながら首を傾げて困惑を示すと、彼はくすりと笑った。


「もう、逃げられない。これが俺の覚悟だから。」


「スミマセン。ワカリマセン。」


 愛用していたスマートフォンの音声検索機能のような一言しか出てこないエリザベッタ。

 後でチェレステにランベルトの宣言を通訳してもらったところ、羞恥で顔から火を吹いた。そして思った。


(ハメられた!!!)


 ランベルトはエリザベッタが自分の求婚を本気にしていないことは重々承知している。外堀から埋めていこう作戦は大成功。チェレステ王国の民の誰もが彼らの婚姻の儀を待ち望んでいる。エリザベッタにはもう逃げ場はない。そして、チェレステにもだ。二人で離宮になどこもらせない。ランベルトは、チェレステに勝った!これでエリザベッタは自分のものだ!と心の中で悪役のような高笑いをしていた。本当はチェレステへの対抗心から来る独占欲なのかもしれない。庇護欲どこ行った。

 民衆は英雄の熱烈な溺愛宣言に大いに盛り上がり、神殿長は「縁結び」のお守りを作り、爆売れして積み上がる硬貨にほくそ笑むのだった。

お読みいただきありがとうございました!

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