表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/79

眼帯姫の婚約式

いいね、★、ブクマしてくださった方、ありがとうございます!


一日一投稿にしてましたが、一週間ほどの間は一日二回投稿に変更しようと思います。朝七時と夜八時の二回にいたします。


下記のルールを前提にお読みください。


★主人公のセリフの見分け方

「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)

「〝 〟」異世界言語のセリフの中にまざる日本語

『 』日本語のセリフ


ヒーローとヒロインが婚約します。

だがしかーし!

ランベルトの戦いはこれからだ!な回です。

 婚約式は正式な儀式であるが私的な行為でもある。


 参加者は親族のみ。エリザベッタ側は父である国王、姉であるチェレステ、そしてもう一人の姉。こちらは本日が初対面だ。それと弟のファウスト。エリザベッタの母は飽くまで公妾ジュリエッタであり、王妃は正式に義母ではないが、参加資格はあるものの、蟄居という名の幽閉をされているので不参加。顔を合わせずに済んでエリザベッタはホッとした。

 そして、初めて会う母方の親戚が参加している。ムゲット公爵家に連なるマニョリア伯爵家の者だ。そう、ジュリエッタは伯爵令嬢だったのだ。エリザベッタにとっての祖父母である伯爵夫妻とその長男で後継であるジュリエッタの兄が参加している。弟もいるが他家に婿養子に出ているので親族枠から外れている。

 ランベルト側は父であるクリザンテーモ男爵、義母のクリザンテーモ夫人、その長男、次男、父方の祖父母である前男爵夫妻。義母に当たる女性はとても苦々しい顔をしていた。王族の前で礼を失しているが当主で夫のクリザンテーモ男爵が諌めないところをみると大した家柄ではないのだなとエリザベッタは認識した。この程度のことで己を取り繕えないなど「お里が知れている」。


「本日は我が妹、エリザベッタの婚約式にお集まりいただきありがとう存じます。」


 仕切りは聖女チェレステだ。本来なら両家の家名を読み上げるところであるが、エリザベッタ贔屓でランベルト憎しのチェレステは勝手に口上を変えたものだからサポート役の神殿長が咳払いをした。さすがにこれは神殿長が正しい。小さく舌打ちしたチェレステは誰もが見惚れる美しい笑みを浮かべて続けた。


「わたくし聖女チェレステが皆さまと共にオルテンシア家とクリザンテーモ家の婚約式の立会人を務めさせていただきます。」


 チェレステは妥協した。最愛の妹となったエリザベッタに恥をかかせない為に、つつがなく儀式を終え、さっさと魔王攻略に動き出す為に。


「これより、エリザベッタ、ランベルト両名による婚約の宣誓を行います。」


 エリザベッタの名前が先に来るのはご愛嬌。形式的には男性の名が先に来るが、一応エリザベッタは王女であるので身分的には間違いでもない。


「私たちランベルトと」

「エリザベッタは」


「「互いに結婚することを約束致しました。」」


「本日皆さまのお立ち会いのもと、」

「婚約の誓いをいたします。」


「互いに慈しみ、」

「思いやり、」

「支え合い、」

「励まし合い、」

「尊重しあい、」


「「より一層の愛を育み、共に人生を歩んでゆくことを誓います。」」


 なんと、この文章はランベルトが考えたのであった。エリザベッタの発音が覚束ないところはランベルトだけが読み、エリザベッタがきちんと発音出来る言葉はエリザベッタが読み上げる。これもランベルトによるエリザベッタへの配慮である。

 宣誓が終わると誓約書にサインだ。ランベルトが慣れた手つきでサラサラと自分の名を記す。差し出されたペンを受け取り、エリザベッタも名を記す。羽ペンは書きづらい。万年筆なども存在するがこういった場では羽ペンを使うらしく、使いこなすにはコツがいる。エリザベッタが苦戦したのも無理はない。


 さあ、指輪の交換だ。わざわざ商会を呼びつけ、超特急で作らせた指輪である。これはただの儀式であるが指輪には法的拘束力がある。これがある限り、不貞は許されず、婚約における取り決めを破れば罰則が発生する。必ずしも指につけている必要はないようだが、持ち歩かなければならない。

 そして指輪は金で出来ていた。金の月。魔の色の眼。禁色。この国では王族以外は使用してはならない貴金属、黄金。ひとつにはアメジストが、もうひとつにはブルートルマリンが嵌まっている。お互いの眼の色に近い貴石を選んだ結果だ。実はアメジストの裏には小さなトパーズが埋まっている。スケコマシな英雄も、一皮剥けば案外ロマンチストなのであった。


 見た目だけは幸せな二人。幸せなのはランベルトだけなのだが。エリザベッタは「先行き不安」と内心では思っている。


「大切にするよ。結婚式が楽しみだ。」


 語彙力の問題でまともな返しが出来ないのでニコリと笑うに留めたが、何故かランベルトは「ゔッ!」と唸って胸を押さえた。心臓の病にでもかかっているのだろうか。エリザベッタは少しだけ心配になった。


 普通なら両家の食事会となるところを、多忙を極める国王は仕事を理由にとっとと王宮へ帰り、第四王女ドロテーアも「貴女のお陰で助かったわ!汚物でも役に立つのね!」とさわやかな笑顔で帰り、弟のファウストも「時間の無駄だった」と言い唾を吐く真似をして帰って行った。

 ここの王家は大丈夫なのか?ランベルトとの婚約よりもこの国の行く末の方が怪しい。国がなくなれば婚約もなくなるだろう。それはそれで良いことのような気がしたエリザベッタなのであった。


「何なんだ、アイツら。」


 ランベルトの発言は不敬であるが、家族であるチェレステも頷いているのでいいのだろう。


「マニョリア伯爵。粛清を免れた良かったですわね。」


 オフモードになったチェレステが嫌味にも聞こえる言葉をかけた。だがマニョリア伯爵はそれがツンデレ故だと分かっている。今日の婚約式に彼らの参加を提案したのは他でもない、チェレステなのだから。

 心の中では祝ってもいない外道な親族しか立ち会わない婚約式など、エリザベッタが可哀想だからという理由だった。もちろん、マニョリア伯爵がエリザベッタの地位と英雄の名声を利用しようというような人物であれば呼ばないつもりだった。


「ええ、まことに。ジュリエッタに声がかかった時点で早々に縁を切れれば良かったのですがね。」


「縁ねぇ。わたくしも早くあの親とは縁を切りたいところなんだけど。」


 随分と明け透けに物を言う王女だ。だが、信用出来る。マニョリア伯爵はそう思った。


「だから神殿に来ればよろしいと何度も言っておりますでしょう。」


「結婚出来ないじゃない。イ・ヤ・よ!」


 神殿長との関係性はここにいる誰にも分からないが、王女であるチェレステは神殿でも態度が大きいのは変わらない。力の搾取に合わぬよう、己を強く大きく見せているのかもしれない。大聖女になれるのに小物感が強いのはそのせいだろう。


「全く、聖女の崇高なお役目がありますのに。」


「馬車馬のように働かされることが崇高なお役目なら神殿長がやればいいんだわ!貴方だって聖者なのだから。」


「やった上で今の地位におるのです。」


 そう言って嘆息した神殿長も馬車馬仲間だった。そんなこと、チェレステも初めて聞いた。神殿はブラック企業のようだ。


「オジーさま。おバーサマ。ホンジツハオコシクダサリ、ありがとう存じます。」


「こちらこそ、お声がけ頂きありがとうございます。まさかこのような場に私どもも立ち会えるとは考えておりませんでした。」


「エリザベッタ殿下にお会い出来て嬉しゅうございました。ほんに、ジュリエッタに生き写しで。もっと早くお顔が見とうございました……!」


 お祖母様は泣き出してしまった。ランベルトはオロオロするエリザベッタの肩を抱き、チェレステが舌打ちする。ここ最近よく見かける三人の様式美である。


「結婚すればエリザベッタも自由に動けます。今までの時間を取り戻せばよろしいではないですか。」


「交流を、続けてもよろしいのですか?」


「お父上のクリザンテーモ卿とは派閥が違いますが。」


 クリザンテーモ男爵一家は王家と伯爵家に囲まれて夫人以外すっかりすくみ上がっている。後できちんと挨拶するつもりであったが、身分的に母方の実家の方が上なので先にこちらへ声をかけたのだった。


「私はすでに家を出ておりますし、自身の爵位もいただいております。それに派閥に属するつもりもございません。中立を貫くつもりです。ですから今後も仲良くしていただけると嬉しいです。私も高位貴族としてのイロハをご教授いただきたいですしね。エリザベッタも、優しいお祖父様とお祖母様にまた会いたいだろう?ね?エリザベッタ?」


 英雄ランベルトが余りにも美しく微笑むので、マニョリア伯爵夫人の涙も引っ込んでしまった。

 スケコマシらしい……ではなかった、貴公子然とした笑みを向けられるとエリザベッタはどうにも弱い。思考がオーバーヒートすると、どうしても、スン……となってしまう。


 もう少し表情筋を鍛えねばと静かに事を見守っていたヴィオランテは考えるのであった。

お読みいただきありがとうございました!

評価、ブクマ、感想、お待ちしています!

励みになりますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ