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眼帯姫は準備万端

一日一投稿にしてましたが、一週間ほどの間は一日二回投稿に変更しようと思います。朝七時と夜八時の二回にいたします。


下記のルールを前提にお読みください。


★主人公のセリフの見分け方

「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)

「〝 〟」異世界言語のセリフの中にまざる日本語

『 』日本語のセリフ

 お膳立ては整った。第五王女エリザベッタの右の眼帯は分娩時の負荷による先天的な失明のせい。言葉が不自由なのは母を失い失語症になったせい。英雄ランベルトに支えられ、現在、リハビリ中であると発表されている。


 さあ、いよいよ婚約式。チェレステが育った王都の大神殿で行われる。


 実はチェレステは神殿に余りいい記憶がない。彼等にとって聖女は道具。どうにかして政治に口出し出来ないか。いつも隙を窺っていた。特に教育係と神殿長には辟易していた。この国もご多聞に漏れず、政治対宗教の構図が出来上がっている。チェレステは王女だが神殿内で元の身分は関係ない。教育係はチェレステをサンドバッグに、神殿長はよく働く奴隷程度にしか思ってなかった。そのお陰で、チェレステは予定より早く教育係の力を超したことを本人は知らない。

 国王もチェレステを神殿に預けることには抵抗があった。そうなることが目に見えていた。しかし、聖なる力を持つ者の訓練は国では行えない。手法などは全て神殿が管理して秘している。聖なる者は女性に限らず男性もいる。それに魔王の周期に合わせて現れるわけでもないし、同時代に複数いる。問題は力の大小なのである。

 今回の魔王討伐にも同行した聖者はチェレステの教育係であったが、チェレステの余りに強大な力があり、戦いというものをよく理解し的確な力の使用をするので、ほとんど後方で負傷者を治療するだけだった。もちろんチェレステは盛大に嫌味を言った。「先生は口先ばかりでらっしゃいますわね!とんだ役立たずですわ!」と。


 しかし、どんなに態度の悪い娘っこといえども魔王討伐に貢献した聖女だ。

 そんなチェレステを神殿が手放したいわけがない。


 神殿は英雄ランベルトとの婚約には大反対だった。チェレステ自身も拒否していた。このまま神殿に留まり、魔王討伐に貢献した大聖女として祀り上げ、他国の神殿より一歩抜きん出たいと考えていた。

 当のチェレステは大聖女なんてものに興味はない。興味があるのは魔王の妻の座だ。まあ、魔王に妻がいたという記録もなければ恋をするなんてことも知られていない。しかしチェレステは知っている。魔王はエリザベッタに恋をするのだと。その恋心をどうにかして自分に向かせたい。無謀とも思えるその挑戦に立ち向かう彼女は聖女というより勇者である。


 今はその話は置いといて。


(緊張するなぁ〜!)


 日本で行うならば振袖でも着たのであろう。着た記憶もなければそもそも結婚してたのかも怪しいエリザベッタは、人生初の婚約式に臨む。

 この世界でも結婚式は白いウェディングドレスを着るらしい。これが終われば一年かけてその準備をする。それでも普通の王侯貴族からするとかなり駆け足の日程だ。

 本日は彼色のドレス。艶やかなブルネットの髪に神秘的なバイオレットアイ。これで顔がいいなんて神様というものは贔屓が過ぎると毎日のようにエリザベッタは思っている。絶世の美女と謳われたハリウッド女優と同じ色だ。うらやましいったらありゃしない。


(本当に私でいいのかな。)


 英雄でなくともあれだけの美丈夫。伯爵にもなったくらいなのだから、引くて数多なはず。肩書きだけはご立派な野生児……もといサバイバーなエリザベッタより似合いの人はたくさんいる。中身は残念だが、それを補って余りある超優良物件を突然現れた王女が横から掻っ攫っていくのだ。今後は女性からの風当たりが強いに決まっている。


「エリザベッタ!」


 プロポーズ以降、騎士としての勤務中以外は呼び捨てされるようになった。その度に心臓が跳ねるのだからコイツのせいで寿命が縮むのではないかと少し心配なエリザベッタである。


「ああ、なんて可憐なんだ!とっても綺麗だよ!」


(いや、綺麗なのはそっちでしょ。)


 彼の服装はエリザベッタ色ではない。騎士服だ。騎士はこういう式のとき騎士服を着用することになる。半自給自足生活で狩りや漁をして来たが、それでも蛋白質とカルシウムが足りてなかったのか、背も低ければ女性らしい線もない。多少肉がついて来たとはいえ、何とも貧相な身体だ。エリザベッタはそのことが少しコンプレックスになっていた。


「抱き上げて運んでいい?」


「わたくしのドレスがシワ。イケマセン。」


「そっか、それもそうだね。これも……取ってしまえればいいのに。」


 指の背で撫ぜられたのはエリザベッタの眼帯だった。今日のドレスに合うように作った特注品なので、今後出番がなさそうだ。


(憎むべき魔の色って言ったこと、私は忘れてないんだからね!)


 エリザベッタはあのときランベルトが放った言葉をチェレステから日本語で聞いた。というより聞かされたのだ。悪意を向けられ、父王と同じように「魔の色」と言われたことだけは理解していた。「離宮でぬくぬくと暮らして来た」という言葉を理解出来たことが奇跡だった。なんとなく、ニュアンスで掴んだものではあったが、チェレステの通訳から間違ってなかったと言える。

 案外根深いこの問題。いつになったら解決するのか。エリザベッタは永遠に忘れないだろう。結婚しても、子どもが生まれても言い続けそうだ。


「でも、この色、いいよ。普段もこれをして。」


 なんと眼帯のリクエスト。それだとまるで婚約して浮かれポンチになっているみたいではないか。眼帯だって、ダークブラウンにラベンダー色の糸で刺繍がしてあるのに。

 ラベンダー色の糸のラベンダーの刺繍の意匠はランベルトの提案だった。ラベンダーの花言葉は「あなたを待っています」。チェレステの先見では一年後、魔王が復活する。その時、ランベルトは再び戦いに赴かなければならない。自分の帰りを待っていて欲しい。

 そんな願いが込められていることをエリザベッタは知らない。単に離宮に咲いている花から選んだと思い込んでいる。


「照れてるの?可愛いな。」


 スン……と真顔になったのを照れていると勘違いしたようだ。全くそういうわけではない。むしろ呼び捨てで跳ねた心臓が落ち着きを取り戻している。


(こういうことサラリと言えちゃうところが信用ならないんだよなぁ。)


 スケコマす為に男爵家に引き取られたスケコマシだ。普通なら甘いセリフと捉えるところをエリザベッタの耳と脳は軽い調子で口にしている薄っぺらい言葉と判断している。エリザベッタのヒアリング能力が上がったせいで余計信用を失っているなど、ランベルトは知る由もない。ちなみにチェレステは知っている。チェレステはすっかりエリザベッタの姉兼親友ポジをゲットしたのだった。


 本日の為に、ヴィオランテの厳しい指導にも、チェレステのしつこいほど完璧を求める修行にも耐えた。決められた文言の発音とサインの特訓が追加されたのだ。婚約誓約書には自筆の署名をしなければならない。エリザベッタは美しい筆跡を手に入れるまでひたすら書いて書いて書かされた。辛い日々だった。思い出したくもない。


 だけど、何とか合格をもらえた。準備は万端だ。


 いざ、婚約式。エリザベッタはランベルトと共に神殿の祈りの間に足を踏み入れた。

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