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眼帯姫を幸せにしたい

一日一投稿にしてましたが、一週間ほどの間は一日二回投稿に変更しようと思います。朝七時と夜八時の二回にいたします。


下記のルールを前提にお読みください。


★主人公のセリフの見分け方

「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)

「〝 〟」異世界言語のセリフの中に混ざる日本語

『 』日本語のセリフ

 ランベルトは魔王討伐から帰って来てずっと式典三昧だった。凱旋式典、婚約発表、叙爵式。この後に正式な婚約式を控えている。けれども、当の婚約者はというと……。


「ランベルト。オレンジ……これ、何?」


「何て言うんでしょう?ワタ?」


「ワタ、白い、トッテ。」


「かしこまりました。」


 マーマレードを作るのに夢中だ。その上、ランベルトが彼女の異母姉であるチェレステに懸想していると思い込んでいる。だが、チェレステは他の男を好いているらしく、先日キッパリとフラれたところだ。好きでもない女から、しかも聖女の皮を被った猛獣からフラれるのは大変屈辱的であった。


「次はどうしますか?」


「モウ終わっタ?ハヤイ。ランベルトハ切る。こう。」


「かしこまりました。」


 王命である婚約が不可避なことはエリザベッタも理解しているらしい。だから、もし他に好きな人が出来たらその人と結ばれて欲しい。チェレステ経由でそう伝えられてまた膝を突く羽目になった。エリザベッタはいじらしくて、天然で、思い込みが激し過ぎる。

 確かにまだ異性として意識しているわけではないが、この純真無垢なお姫様をそんな目で見てはならないと考えている節もある。一方で、いずれは大人の女性として花開くところを間近で見ていたい、出来れば自分好みに、と思ってもいる。彼は光源氏になりたい系英雄なのであった。

 実際は純真でも無垢でもないわけだが、ランベルトはそういった部分を匂わせる言葉は全てチェレステの入れ知恵と捉えていて、チェレステこそが最大の敵であると考えている。なんせ、結婚せずにこの離宮に二人で住もうと言い、エリザベッタもそれが出来ればそうしたいと答えた。この聖女は本当に余計なことばかりする女である。

 とはいえ、チェレステの能力は一級品。共に戦って来た仲間として、その実力は認めざるを得ない。彼女特有の先見の能力に何度助けられたことか。歴代随一の聖女との呼び声も高いチェレステだ。性格さえ直せば、直さなくても、その身分と功績で引く手数多だろうに、想い人とはなかなか会えず、また相当頑張らないと振り向いてもらえないと言う。

 世の中はままならぬものだと思いながらオレンジの皮を切っていたら誤って指の先に包丁が触れてしまった。


「いって!」


「ダイジブ?」


「ええ。これくらいは。」


「騎士のくせに包丁で怪我なんかしてんじゃないわよ。ハイ、治った!」


 チェレステこそ不器用が過ぎてまともな仕事を任されていないのに偉そうなことだ。指の先を見ると痕すら残らず傷は消えていた。血も残らないのがいつも不思議である。チェレステが言うには「勿体ないから鮮血は身体に吸収させている」とことだ。聖女とは摩訶不思議な能力である。


「オネーサマスゴイ!」


 エリザベッタは初めてまともにチェレステの力を見たからか、大はしゃぎだ。真横にクソ聖女のフフン!という顔さえなければ、興奮する婚約者のぴょんぴょんと飛び跳ねる可愛らしい姿を網膜に焼き付けたのに。

 凱旋式典以降、面倒事は多いが至極平和な日々が続いていた。けれど、チェレステの先見ではトドメを刺せなかった魔王が一年後に復活すると言う。鍛錬は怠ってはならない。近衛騎士に転属希望を出したのは他ならぬランベルトだ。しかもエリザベッタの騎士に。これには国王もびっくりだった。

 エリザベッタを中傷し、深く傷付けてしまった。そのお詫びとして一生を彼女を守ることに使いたい。そう申し出た英雄に国王は「それは嫁にもらいたいってこと?」と聞くと「それが一番お守りできる術ならば」と答えたのだった。褒賞の王女決めに頭を悩ませていた国王は諸手を挙げて歓迎し、勝手に茶会を開いてエリザベッタを連れ出したことは不問に処した。ヴィオランテには「どうして茶会を許した」と文句を言ったが嫌味で返されてしまった。エリザベッタはまだ外に出していい段階ではないのは確かだけれど。

 ランベルトがエリザベッタとの初めての茶会のときに近衛の服を着ていたのはチェレステの我儘からだった。近衛の白い軍服を着てこの男に見惚れぬ娘はいない。さっさとエリザベッタとくっつけ!熨斗付けてくれてやるわ!と思っていた。

 だがエリザベッタの境遇と現状は余りにも酷かった。マンガのキャラとしてのランベルトは嫌いではなかったが、初対面で髪を一房取られて口付けされて怖気が走り、初戦闘で「戦いのことを何も知らない女が口出しするな」的なことを言われて以降、この外面は気障、本性はチンピラのランベルトが大嫌いになった。しかも街での宿泊の度に娼館に泊まって乱れた服のまま帰ってくる。穢らわしいと何度魔を祓う力をコイツにかけたか分からない。聖なる力でも個人の性格は変えられないのである。

 今ではエリザベッタはマンガのキャラではなく同郷の者で血縁者、ということで、こんなヤツは妹の伴侶に相応しくない!と手のひら返しをしたのだった。


 翌日もまた離宮に来た。マーマレード作りの続きをしながら並行して色々な菓子を作るエリザベッタを眺めながら、ランベルトはかつての暮らしを思い出していた。


(そういや母さんもこうやって手作りのお菓子を作ってくれたっけ。)


 ランベルトの母は彼が七歳の頃に亡くなり、それ以降は孤児院で暮らしていた。異世界の成り上がりヒーローとしてとてもテンプレな生い立ちだった。

 結婚したら、こうして毎日お菓子を作ってもらおう。他の料理も出来るのだろうか。伯爵なんぞになってしまったが、出来ればこんな離宮みたいに大きな家ではなく、小さな家で一緒に並んで料理をしたり、洗濯物を干したり、苦手な掃除だって二人でやればきっと楽しい。エリザベッタには自由でいてもらいたい。そう考える愛妻家まっしぐらな英雄なのであった。


「ヴィオランテ、料理長はイクツ?」


 年齢を聞いているのではない。騎士からエリザベッタの料理の評判を聞いた本宮の料理長が「また作るならこちらにも分けて欲しい」と請われたからだ。大きな寸胴で作ってはいるが、そうして欲しがる者が多いので、保存用の瓶が足りなくなるのではないかと心配になった。


「厨房には十、料理長のメニュー研究用に一でございます。(フレッシュ)は木箱十個分、こちらは既に第一便で運ばせております。」


 この離宮は山の麓から少し上がったところにあるのだが、なだらかな斜面を利用して柑橘の木がたくさん植えられている。本宮も他の離宮も、何かあったときに籠城して一年は耐えられるようになっている。備蓄に関してもそうだ。そのお陰でエリザベッタは生き延びて来られたのだ。

 ヴィオランテがエリザベッタに王女らしからぬ料理を許しているのは、精神面を心配しているためだ。いきなり今までと違う生活になれば負担が大きい。それにどうせすぐ降嫁する。伯爵夫人になるのだ。英雄は平民暮らしをしていたからか粗野なところが見え隠れするが、エリザベッタのことは大切に想っているようなので、きっと結婚しても似たような暮らしをさせるだろう。野生児な彼女には自由が似合う。

 ヴィオランテは女官長として、不正を見抜かなかったことを心底恥じている。これは贖罪にも似た行為だ。エリザベッタを幸せにする。王女として、伯爵夫人として恥ずかしくないよう、体面を取り繕うことを教えつつ、エリザベッタらしさを失わないことを願っている。


 チェレステ、ランベルト、ヴィオランテの三人は、エリザベッタ幸せにし隊なのであった。

お読みいただきありがとうございました!

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