眼帯姫と不誠実な英雄
一日一投稿にしてましたが、一週間ほどの間は一日二回投稿に変更しようと思います。朝七時と夜八時の二回にいたします。
下記のルールを前提にお読みください。
★主人公のセリフの見分け方
「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)
「〝 〟」異世界言語のセリフの中にまざる日本語
『 』日本語のセリフ
「婚約発表がされるのにエリザベッタ殿下がご出席なさらないなんて残念です。」
「今からでもいいから辞退しなさいよ。」
凱旋式典は終わっているが、褒賞の件は叙爵と金銭授与、王女降嫁とだけ発表し、相手はどの王女なのかはこれから決めるということでお茶を濁していた。エリザベッタが王女としては余りにも酷く、所詮平民育ちの男爵庶子とはいえ曲がりなりにも世界の救世主に降嫁させるのを国王もちょっと迷ったからだ。第四王女の説得も虚しく終わり、結局ランベルト本人がエリザベッタを指名した為、この度正式に発表されることとなった。
家族構成もいくつで死んだか分からないが「妹が欲しかった」という感情は小さく残っているチェレステ。すっかりシスコンになり、英雄ランベルトと妹姫エリザベッタの婚約阻止を企んでいる。筋肉バカになど大切な妹を任せられない。日本語で言うならば絶許である。
「ていうか、貴方、エリザベッタのこと本気で好きなの!?」
「畏れながら可愛らしいと感じておりますがぁ!?」
「それって妹ポジでしょ!女として見られないって言ったじゃない!」
「殿下はまだ十四。健康状態が改善すれば母君のような王国の華になることは間違いありません。何の問題もない。」
「サイッテー!ホント、サイッテー!!死ね、クソクズ!!下半身脳みそ男!!!」
英雄は下町のチンピラのような態度から突然キリリと騎士らしい振る舞いに切り替え、美しく、出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んだジュリエッタに顔だけはそっくりのエリザベッタの将来性を買うと発言をして聖女の怒りを買い、罵倒されている。
エリザベッタはチェレステの辞書で語彙を増やす努力をし始めたばかりなので、二人のテンポの速い会話が相変わらず聞き取れない。努力をし始めたばかりというのがミソだ。
ヴィオランテがいないとどうしてこう騒がしいのか。言葉使いも平民のようで二人とも遠慮がない。誰が聞いても英雄と聖女の会話ではない。
「こんな男、貴女を幸せになんて出来ないわ。今からでもお父様に婚約はイヤだとごねてらっしゃい。」
「はい、オネーサマ。」
「はい!?どうして!?」
ここ数日、エリザベッタの語彙力では表現しにくい言葉をチェレステが通訳して代弁することが増えた。本当に通訳をしているなどと周囲の誰も気付いていない。意図を汲み取るのが上手いだけと勘違いしている。
「顔が良過ぎて隣に並びたくないんですって。英雄に憧れる令嬢のやっかみも買いたくないし、そのお家の人に嫌味言われるのも御免だそうよ。」
真顔でコクコクとチェレステの隣で頷くエリザベッタにランベルトは思わず膝を突き嘆いた。が、そこで折れたままにならないのは英雄を英雄たらしめる不屈の根性だろう、多分。
「エリザベッタ殿下。私は貴女を傷付けて変わったのです。心を入れ替え、これからの人生は貴女をお守りすることに捧げる所存。もちろん娼館通いもしておりません。」
「ショーカン?」
今度はチェレステがエリザベッタに耳打ちすると、エリザベッタは蔑むような目でランベルトを見下ろし、チェレステにまた耳打ちした。幾度かの耳打ちの往復の後、チェレステはこう言い放った。
「病気持ってそう、ですって。」
「そんな!!」
「そもそも王女に向かって娼館通いを堂々と告白しないでくれる!?」
ランベルトは英雄ではあるが、歴代随一の残念な英雄かもしれないなとエリザベッタは思った。まず教育を受けて来なかったエリザベッタに何故そのような知識があることを疑った方がいい。
「どっちみちドレスが間に合わないでしょ。」
「既製品で……」
「はあ?王女に既製品?恥かかせる気?」
「ぐっ!こ、今回は仕方なく!」
「王女には仕方なくなんて通用しないのよ!エリザベッタは公式の場に出たことなんかないのよ!?せめて体面だけはバカにされないように取り繕わないといけないのに!」
「お、お前のお下がりはないのかよ!?」
「お下がりなんて目敏い人にはすぐに分かるのよ!ホント、顔がいいだけの〝スットコドッコイ〟なんだから!」
「す、すっとこど?」
「常識知らずの無知ってことよ!」
実際、ランベルトは十歳まで平民として市井で暮らし、今でも貴族の常識については疎い。その後も男爵家の三男など気軽なもので、顔の良さで商家の娘でもいいから金持ちの令嬢を引っ掛けて甘い汁吸えるかな〜?という父親の目論見で引き取られた男である。
要するに、スケコマして金持ちの娘を捕まえるのがクリザンテーモ男爵家における彼の本来の役割であった。故に、異性にモテる騎士という職業を選んだ。しかし、はっきり言えば、彼は騎士団の中では問題児。基本がなってないと上司に言われることもしばしばだった。
下町ではそれこそチンピラ予備軍と見られており、魔王を討伐出来たのも、礼儀と作法に則った綺麗な戦い方をする騎士よりも、平民時代に培った勝つ為にはなんでもアリの戦法こそが彼の強みであり決め手であった。元々、庶子の彼が遠征メンバーに入れられたのは捨て駒以外に他ならない。
だが結果として、魔王戦の終盤においては彼のみが最後まで戦場に立っていた。チェレステによる治癒をかけてもらいながら諦めない心で立ち向かい、魔王もその気迫に慄いていたとその場にいた騎士が証言している。記憶にある戦闘の描写から弾き出した最適解を指示するチェレステと、文句を言いつつもそれに従い戦うランベルトの関係は女王様と犬という風情であったことは英雄の名誉の為に伏せられている。
チェレステの最推しは魔王ではあるが、魔王を一度で倒せるならばそれでいいと考えていた。さすがに自分の恋と世界平和を秤にかけて恋を取るほど愚かではない。復活した魔王は通例通りに居城には住まない。何とチェレステ王国に入り込んで来るのだ。海を渡って来た、異国人として。
その一団は金眼を持ちながら魔の気配は感じられない。魔王の影響も及ばない土地であると異国人は言う。エリザベッタが隠された右目が金眼であることをひょんなことから知ることになり、交流が始まる。何で魔王が人間に惚れるんじゃい!というツッコミを少女マンガにしてはならない。少女マンガの主人公とは往々にしてイケメンホイホイなのだから。
チェレステ王国で息苦しい暮らしをしていたエリザベッタに、共に異国へ来ないかと誘う魔王。ランベルトと離れたくなくて、だけどランベルトは姉の婚約者で。イケメンとイケメンの間で揺れ動くヒロインは美味しいポジションだとチェレステは思っていた。転生するならエリザベッタが良かった。何度そう考えたか分からない。今となっては同じ境遇で今日まで生き延びられたかと聞かれると「無理」と断言出来る。まあ、チェレステならば別の方法で解決するに違いない。
「ランベルト。」
「殿下。それほどまでに私との婚約はお嫌ですか?」
「ランベルトはスナオなる。いい?チェレステオネーサマ。」
「なあに?」
「ランベルトはスキ。オネーサマスキシナイ。〝えーと〟、オトコワリイタシャーセ?」
さすがにエリザベッタだって分かっている。チェレステがランベルトが好きだと思っていたのは勘違いだったと。彼女は魔王が好きなのだ。実際に顔を合わせて思っていたよりも格好よかった、意外と恥ずかしがり屋なところがあって、マンガ通りのセリフ、「さすが魔王、お強いですわね!」と叫ぶと、何故か照れながら「そちらこそさすが聖女、そなたはう、そなたの力は素晴らしい。」とモジモジしながら言われ、セリフを途中で間違って言い直したところもカワイイと大騒ぎだった。
二次創作の魔王総受けの薄い本に出てくる魔王のようだったと日本語なのに呪文のような言葉でエリザベッタはちょっと理解が追いつかなかった。そちらの方面には詳しくないのだ。
「意味が分からないのだけど。」
チェレステが首を傾げるのでまた耳打ちすると、「はあ?」と怒りを含む呆れ声を上げたが、続くエリザベッタの提案に「ああ〜、そういう〜」とすぐに思い直してニンマリと笑った。
「クリザンテーモ卿。貴方のお気持ちは嬉しいけれど、わたくし他に好きな方がおりますの。だからどうかわたくしのことはお諦めになってくださいまし。」
「それがエリザベッタ殿下のお答えなのか?」
「いいえ?わたくしの答えよ。エリザベッタは貴方がわたくしのことを愛してるから、そんな気持ちを持った人と結婚は出来ないんですって!妹のように思ってくれるのはうれしいけど、同情や憐れみで結婚はお断りだって!それに娼館に行くような男は女を軽く見てそうだから結婚しても幸せになれなそうですって!」
「ほ、本当にそれエリザベッタ殿下が言ったのかよ!」
「そうよ。ね?エリザベッタ?」
コクコクとべこの人形のように頷きながら、エリザベッタの視線はとても冷んやりとした物であるのは先程と変わらない。
好きな子がいるのに風俗行っちゃう不誠実な男。
そういうレッテルを貼られてしまったランベルト。前世日本のシール剥がしを使っても剥がれそうにはなかった。
「何故だ!?」
英雄の苦難の日々は続く。
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