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眼帯姫は料理したい

 一日一投稿にしてましたが、一週間ほどの間は一日二回投稿に変更しようと思います。朝七時と夜八時の二回にいたします。


下記のルールを前提にお読みください。


★主人公のセリフの見分け方

「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)

「〝 〟」異世界言語のセリフの中にまざる日本語

『 』日本語のセリフ

(シフォンケーキとマフィンでいっか。あ、マドレーヌとクッキーも作ろっかな。もう在庫を気にすることもないもんね。)


 たまごもバターも冷温保存庫に大量に置いてある。離宮に勤めていた者たちが一年食べていける量だ。あるにはあるが貴重なのでたまご、牛乳、バター、油脂類は三十日に一度の使用に留めていた。ペンで正の字を書いて三十に達したらその日は一人でパーティ。ただそのカウントした紙が膨大になったので数えるのが面倒になり、エリザベッタは自分の年齢が分からなくなった。

 その日は自分へのご褒美に揚げ物を作ったり、ケーキを焼いたり、クッキーを焼いたり、時にはプリンを作ったり。野菜が残っていなかったのは悔やまれる。いや、玉ねぎとじゃがいも、にんじんだけは大量にあった。青い野菜がなかったのだ。

 かつてエリザベッタが親しくしていた料理長はここに置いておけば永久に腐らないんだと教えてくれた。一般家庭にはないものらしい。腐っても王族の住まいと言うべきだろうか。

 エリザベッタは小さい頃から食いしん坊なので、厨房はよく出入りしていたのであった。もちろん、料理人が休憩中のことだ。度々リクエストをしては色々と作ってもらっていた。離宮を離れ、王宮料理人を退職した料理長はエリザベッタの提案したレシピをアレンジして王都でも指折りの高級レストランで現在オーナーシェフをしている。当たり前だがエリザベッタはそのことを知らずにいる。


 二時間ほど厨房で調理に勤しんだ。コンポートとジャムは出来上がったのでガラス瓶に詰めて冷蔵庫で冷やしている。馬で戻った騎士が荷馬車を呼んで来てくれるらしい。王宮に持ち帰ることになっている。


(手伝ってくれた人たちにお裾分けしないとな。)


 今は焼き菓子の焼き上がりを待っている間に昼食を終えてデザートにオレンジを切って食べている。収穫物の山を見て、荷馬車の積載量を超えるのではないかとエリザベッタは不安になった。

 オーブンのタイマーが切れたので、慎重に取り出す。焼成時間と温度の関係で再予熱をして今度はマドレーヌだ。その間に離宮の中を見て周ることになった。


「カーテンレールがひしゃげてる……。」


「うわ!これ、う、羽毛!?」


 ヴィオランテは既に一度見ているので気にしていないようだ。カーテンレールが変形しているのは、エリザベッタが服を作るために身長より高いカーテンを取り外せず、ぶら下がって無理矢理外したからだ。羽毛は他の部屋の寝具の布を下着や寝巻きに回していたので、羽毛だけでなく綿の山もある。羽毛は歩くと飛び散るので布をかけて蓋をしていた。何かに使えるだろうと取っておいたのである。なるべく換気をして、上下を入れ替えたりしてカビが生えないように気を遣っていた。


「よく生きて来られたわね……。」


「ご自分の服を縫われていたのですよね?」


「カンタン、服。出来た。」


 服を作るのが簡単という意味ではない。簡単な服しか作らなかったので何とかなったという意味である。今世はオシャレとは無縁で生きて来たので、今のワサワサした服装は動きづらくてたまらない。

 痛ましいと言わんばかりの同情の視線を浴びて、エリザベッタは嫌な気持ちになった。先日ランベルトにぶつけられた言葉を思い出したからだ。後からちゃんとした意味をチェレステに教わった。


「離宮でぬくぬくと暮らして来た」


 どう見てもぬくぬくとは言えない惨状とでも表現すべき館にランベルトも言葉を失っていた。離宮は二階建てである。最初に見た一階はまだ良かった。倉庫と呼ぶこの部屋も散々たる物ではあるが、二階はエリザベッタ曰く「八年以上足を踏み入れてない」のだ。必要なものは全て階下に運び出した。二階は全ての部屋がすっかり廃墟の様相を呈している。遊園地のお化け屋敷でももう少し綺麗だ。


「サイショ、厨房は寝る。ソウジハカンタン。」


 そう言うとチェレステはエリザベッタを抱きしめた。やっぱりお姉さまは良い人だ。ヴィオランテは見る目があるとエリザベッタは感心したのだった。


「これからはずっと一緒にいましょうね!」


(その方が私の命も保障されそうだし!)


 下心満載なのは否定出来ないが、これからはエリザベッタに人の温もりを与えてあげたい。それに多分彼女は……。それだけじゃない。これからはエリザベッタのことをマンガのキャラクターではなく家族として受け入れてあげようとチェレステは心に決めた。


「おい、結婚したらお前もついてくる気か?」


「結婚なんかしなくていいわ。ずっとエリザベッタとここに住むってのもアリよね。」


「チェレステオネーサマ、ずっと。ウレシイ。」


 いつの間にかランベルトは婚約どころか結婚が決定事項のように話しているのも不快だった。そう、エリザベッタはチェレステには心を許し始めたが、ランベルトのことはまだ許してないのであった。それは同性と異性の違いなのか、血を分けた姉妹と他人の違いなのか、本人も分かってはいない。


(姉妹仲良く離宮でのんびりスローライフしながら二人暮らし。悪くはないかな。)


 エリザベッタはチェレステの提案に前向きになったところで厨房へ戻り、焼き菓子の入れ替えをした。


「いい匂い!」


「食べない、マダ。一日、食べる。」


「どういう意味だ?」


「こういう焼き菓子は日を置いた方が馴染んで美味しいのよ。」


「お前、菓子作りなんか出来ないのによく知ってんな。」


「うるさいわね!常識よ、常識!でも、シフォンケーキはいいんじゃない?」


「はい。カケルジャム。コンポート、ツケルいい。美味しい。白い〝フワフワ〟作る?」


 手でボールを持ってかき混ぜる仕草をするとチェレステにはすぐに伝わった。白くてシャカシャカして出来るフワフワといえばアレしかない。


「確かに生クリームも欲しいわね!ホラ、筋肉バカ。生クリーム泡立てなさいよ!」


「クソ王女!」


「脳みそ筋肉男!」


 やっぱり二人は仲良しだ。これぞケンカップル。エリザベッタは早々に身を引くことを決心した。後にランベルトが訂正に相当の時間がかかったのは言うまでもない。

 言い合いはヴィオランテの咳払いで終了した。どうやら二人も仲良く「補習」らしい。仲間が増えてエリザベッタはちょっとだけ嬉しかった。


「ヴィオランテ。」


「はい、殿下。」


「また、ワタシハ料理スル。いい?」


「離宮ででしたら。」


 ヴィオランテの顔は余りよろしくないと言っているが、それでも認めてくれたのだ。言質は取ったとエリザベッタは内心ガッツポーズをしたのだった。


「魚、トル。する?」


「いえ、本日はもう戻りましょう。貴方がた、荷馬車が到着次第、こちらを本宮へ。」


「かしこまりました。」


 ランベルト以外の騎士たちはお裾分けをもらえると知ってエリザベッタへの態度が軟化した。魔の色のエリザベッタが作ったものであっても、とてもいい匂いがしたし、英雄ランベルトが美味しそうに食べるので我慢出来ずに口へ運べば実際とても美味だった。

 騎士たちの胃袋を掴んだエリザベッタは、こうして少しずつ王宮で味方を増やして行くのだった。


 しばらくすると、離宮への護衛の座をかけて、いつも腹を空かせている若手の騎士と、妻や子へのお土産を持ち帰り家庭内地位の向上を目指したいベテラン騎士で血で血を洗う醜い争いが起きるようになるのだが、エリザベッタの耳には届くことはなかった。

お読みいただきありがとうございました!

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