表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/79

眼帯姫はたくましい

毎日午後八時に予約投稿の予定です。

下記のルールを前提にお読みください。


★主人公のセリフの見分け方

「 」異世界言語のセリフ(カタカナ表記は発音が上手く出来ていない)

「〝 〟」異世界言語のセリフの中にまざる日本語

『 』日本語のセリフ

 〝離宮に幽閉されている気味の悪い王女〟


 〝眼帯姫〟


 それがこの国の王女、エリザベッタの世間での評判らしい。()()()という伝聞は、この離宮には人がほとんど訪れず、エリザベッタの母が亡くなってからはだぁーれも近付かなくなったからだ。来るのは精々冷めた食事を運ぶ給仕係くらい。彼らも決してエリザベッタとは会話をしない。その彼らの呟きで自分がそう言われてるのを知った。しかしエリザベッタはその言葉の意味を正しく理解していない。

 孤独を知らなければ孤独ではない、だからあの子は幸せなのよとエリザベッタを冷遇する王妃は国王に隠れて嗤っているが、エリザベッタ自身、地頭がそこそこ良く、前世の記憶とやらがあるので、めんどくせーなーとは思いつつも、まあ、いっか、と割り切っている。

 ご飯はコンロであっためればいいし、水は蛇口をひねればいい。食べ盛り育ち盛りであるエリザベッタに運ばれて来る食事は初めこそ年齢相応の物であったが、何故かメニューは何年経っても変わらない。一切れのパンに野菜の入ったスープ、チーズ一欠片、ヨーグルトだ。それが三食続く。食料不足には常日頃から頭を悩ませており、若干痩せ気味なくらいで他は健康に問題がない。ヨーグルトが毎食ついてくるのはありがたかった。乳酸菌は腸に優しいのである。

 今世の母の顔などエリザベッタにとってもはや記憶の彼方。前世の記憶も朧げであるが、自分が何者であったかを思い出せずとも生きる知恵だけはしっかりと刻み込まれている。余計な未練を持たなくて済むように神様が計らってくれたのかもしれないとエリザベッタは毎朝毎晩、離宮の祭壇にお祈りしている。生けている花がその辺の野花が多いのはご愛嬌だ。


 この国の国王の第五子、第五王女として誕生したエリザベッタは妾腹の子だ。一応、庶子ではない。この国では公妾の子は庶子にはならないからだ。但し、公妾を持てるのは国王に限る。エリザベッタの感性からするとふしだらにも思えるが、どっかのマンガや小説のようでもあり、公妾という単語はちょっとドキドキする響きがあった。

 公妾であり愛妾であったエリザベッタの母は、よくあるパターンの〝国王の寵愛を受け、王妃から疎まれる妾〟であった。かといって、母から国王たる父へ愛情があったわけではない。見た目がふんわり系で中身はどギツい王妃よりも、クールビューティー系で案外天然なところのあった母の方が国王の性癖に刺さった。それだけである。エリザベッタの母はもしかすると不幸な女性であったのかもしれない。


 第一子第一王女から第六子であり末弟で第一王子のファウストまで、全員の子どもの名前を並べるとA〜Fアルファベット順になっていて、「エリザベッタ殿下」と呼べば、ああ、五番目の子なんだな、とすぐ分かる仕組みになっている。だが、この国にエリザベッタの名を口にする者はいない。王宮では禁忌、平民には忘れられた存在だからだ。

 ここの王家は代々子どもが多いそうなので分かりやすい方がいいのかもしれないとは自分の名前の由来を幼い頃に知ったエリザベッタの感想である。「Eから始まる名前の候補の中からダーツで国王が適当に選んだ結果」だった。これに関しては他の姉、弟も同じことである。名付けだけは唯一平等に王の子として扱われたということだ。

 ちなみに同腹なのは弟のファウストだけであり、男子にしか王位継承権は与えられない国なので彼は本宮にて王妃の子として養育されている。エリザベッタは取り上げられた赤ん坊の頃以来会っていないファウストのことを毎日、ではなく、二日に一度、でもなく、週に、いや、月に一度思い出せばいい方だ。

 別に弟を出産した際の産褥熱で母が亡くなったことも、恨んでいなかった。見たところ前世の世界よりも生活水準が低い。ならば医療も発達していない。専門知識のないエリザベッタの中ではあれは致し方ないこととなっている。一応、毎朝毎晩祭壇に母の安らかな眠りをお祈りしている。これは本当。


 エリザベッタが離宮に閉じ込められてネグレクトされている理由は王妃から個人的に疎まれている以外にもある。


 両眼の色が違うからだ。


 片方はここの王家の特色である碧眼。もう片方が金。これは金目銀目のオッドアイ!白猫だったら良かったのに!と、初めて自分の顔を鏡で認識したエリザベッタは思ったが、青い目の中は難聴になるという知識を思い出して五体満足の人間でよかったと思い直した。

 金の眼は魔の色らしく、エリザベッタには詳しい事情は分からないが「こいつヤベェ」ということで監禁というには広い離宮での生活を強いられている。

 前世は読書家であったエリザベッタは娯楽といえば図書室の本!のはずが、教師も付けられていないので文字も読めない。話し言葉も三歳で母が亡くなってから女官や使用人たちが引き揚げて行った四歳までに理解出来た言葉しか知らない。転生あるある言語チートなんてものは最初からなかったんやとエリザベッタは嘆いた。

 給仕係はしょっちゅう入れ替えになり、毎日交代制で来ても月に一回。エリザベッタとは会話もしてはならないという決まりがある。王妃様はエリザベッタの味方を絶対に作らないマンなのである。


『さっさとのたれ死んで欲しいんだろうなぁ。』


 なんせ魔の色を持つ危険分子だ。この離宮には掃除婦もいなければ女官もいない。身の回りのことは完全に離宮に人がいなくなった四歳頃から自分で全てを行わねばならなかった。

 幸い厨房のコンロはスイッチを押せば着くという簡単な仕様で、鍋やフライパンなどの調理器具は置き去りにされていた。それを覚束ない幼児の手で温め直したりしていた。火傷をしたこともある。そういうときは即座に庭のアロエで湿布である。

 エリザベッタは大人の精神を持ち、尚且つ合理的であるので、残された寝具類を厨房にうんとこしょと小さな身体で運び込んでしばらくの間は広大な離宮で1Kの暮らし方をしていたのだった。


『さぁて、掃除、掃除!』


 大分使い込んだ箒。着なくなった服を切ったウエスですっかりエリザベッタの城になった厨房を掃除する。その他の掃除用具も置き去りにされていたのだが、何となくこの箒に愛着があって、エリザベッタは結局これだけを使い続けている。ハタキも同様、エリザベッタはお気に入りの道具を長く使いたい系王女なのであった。

 塩や砂糖、小麦粉などの食料は、どのような仕組みか分からないが厨房の冷温倉庫に入れておけば劣化しない。それはまだ母が生きていた頃に何でも聞きたがりだったエリザベッタが料理長から教えてもらったことだった。これらをそのまま放置してくれた王妃は女神だと思うエリザベッタは考え方が常人の斜め上である。

 服や下着類もちくちくと残された裁縫道具で寝具やカーテンをバラして縫っている。最初はとても簡単なワンピースだったが、今では紐を通したズボンも縫えるようになった。布だけ立派な平民でも着ないような簡素なデザインの服。このギャップにゾクゾクするおかしなエリザベッタであった。

 庭には果樹があり、季節になれば実りを得る。残された狩猟用の弓矢で鳥を狩り、前世の朧げな知識を頼りに捌いて食べる。敷地内の森を歩くと川が流れていて囲い込み漁をしてヤマメやマスもどきを捕まえる。


『ふふ、スローライフも板についたね、私!』


 エリザベッタが大好きだった料理長が丹精込めて育てていたハーブはほっといても勝手に増えるし、野菜を手に入れられないのは残念だが、それは朝昼晩の粗末な食事で摂れているという風に割り切っていた。森に生えてるきのこは鬼門だ。腹を下したことがあり、三日三晩苦しんだ経験がある。


 エリザベッタの生活はスローライフというよりどちらかというとサバイバルであることにエリザベッタは気付いていない。本人はお気楽ご気楽、今世の母にそっくりな思考回路を持っていたのだった。


 エリザベッタがこんな生活を始めてもうすぐ十年になろうとしていた。

ストックがなくなるまでは予約投稿で行きます。

その後もなるべく定時に更新出来るよう頑張ります。

ストックが切れたらもしかしたら一日置きか二日置きになるかもしれません。


お読みいただきありがとうございました!

評価、ブクマ、感想、お待ちしています!

励みになりますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ