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㊶~㊷

『魔獣愛護協定』の影響は大きい。


-㊶ギルドにて-


 3国間で結ばれた『魔獣愛護協定』の影響で冒険者ギルドには他の冒険者に混じり王国軍の将軍達が毎日警戒をしている。警察も協力してこの協定を全ての冒険者が大切なルールとして守ってくれるようにセキュリティを万全としている。その対策の1つとしてギルドマスターの認可のもと、刑事のドーラが看板娘兼受付嬢を務める様になった。ドーラが働く受付には「『魔獣愛護協定』により魔獣から剥ぎ取った素材や肉、魔獣の死体、そして各種罠で捕獲した魔獣自体の買取はお断りさせて頂いておりますのでご了承ください」と書かれた大きな看板を掲げてもいる。

 一応、出入口には「警察官巡回時立寄所」の立札を掲げていて、真実なのだが一部の冒険者が疑ってしまっている。ただ冒険者たちに警戒されないようにドーラや将軍達は粗悪な者たちがうろついていても平然を装う様にしていた。


冒険者「お姉ちゃん、嘘ついちゃいけないよ。今日1日いるけど警察官なんて1人も来ないじゃん。」


 ドーラは体を微細に震わせながらも笑顔で対応している


ドーラ「何を仰っているんですか、私だって警察署の方々がいついらっしゃるか分かりませんし毎日制服を着た方々が来られるとは限りませんから。まあまあ気にせずゆっくりと呑んで行って下さいよ、あなた方のパーティーには隣国のギルドマスターから賞賛のお手紙と特別報酬が出ているので今日は私に1杯奢らせて下さい。」

冒険者「嬉しいね、お言葉に甘えさせてもらうよ。」


 ドーラはほっと一息つくと通常業務に移った。農民や住民、他国から来ている行商人などから毎日多数の依頼が冒険者ギルドに寄せられているのでそれらを振り分けたり斡旋したりなど大忙しだ。それに光と同じで就職の為だという人が多数なのだがギルドへの登録希望者も後を絶たない。ただ、これは平和だという証拠だ。

 そんな中、後ろに並んでいたどこからどう見ても『ヒャッハー!』なあの世界からやって来たように見える冒険者達が2人やって来た。どうやら兄貴分と弟分らしい。


冒険者兄「お姉ちゃん、ここ冒険者ギルドだよなあ。僕達お願いがあるんだぁ。」

ドーラ「何でしょうか、私で宜しければ承りますよ。」


 ドーラはあくまで冷静に対応している。冒険者達は各々のアイテムボックスから大量の荷物を取り出して言った。他国での依頼で討伐したのだろうか、全て魔獣の死体だ。そう、この国ではご法度のやつ。


冒険者弟「兄貴達が討伐したこの死体、買い取ってくれよ。苦労しましたよね、兄貴。」

冒険者兄「ああ、死ぬ思いしたなぁ弟よ。」

ドーラ「あの、この近辺の3国は『魔獣愛護協定』により魔獣の死体の買取は行っておりません。そこの看板にもほら・・・。」

冒険者兄「受付嬢のくせに何言ってんだお前、黙って買い取りすりゃいいじゃねぇかよ。」

冒険者弟「兄貴が下手に出てるからって調子乗ってんじゃねぇぞ、さっさと鑑定を始めやがれ。」


 ギルド内でわいわい呑んでいた冒険者達が一気に静かになった。普段着で冒険者達に紛れていた王国軍の大隊長が武器を取ろうとしたので将軍が静かに止めた。


将軍「待て・・・。期を待つのだ。」


 今にも頭に血が上りそうな冒険者達をよそにドーラは笑顔で対応した。


ドーラ「早くしまって下さい、今の内なら何事もなく終結しますからね。」

冒険者兄「てめぇ・・・、ナメた口利いてると・・・。」

林田「そこまで!警察だ!武器を捨て両手を上げろ、大人しくするんだ!」

冒険者兄「チィッ・・・、誰だよ、通報しやがったのはよ!」


 ギルド内で静かにしていた冒険者達は勿論通報などしていない、ドーラだ。実は受付のテーブルの裏に警察署直通のベルが取り付けられている、勿論この事もギルドマスターの認可のもとだ。そのボタンをドーラがこっそりと押したのだ。


林田「今ギルドマスターの協力を得て君達のギルドカードを調べたがこいつらは公式の依頼を受けて討伐された訳ではないみたいだな。目的は素材か?それとも殺戮か?」

冒険者弟「どっちでもいいだろうがよ!」

林田「ちゃんと言わないと公務執行妨害罪が加わるぞ!」

冒険者兄「言えと言われて言う奴がいるかよ。」

林田「よし、では君たちを『公務執行妨害罪』及び3国間における『魔獣愛護協定』違反、そして何より・・・、私の可愛い部下であるノーム刑事を脅して侮辱した罪で逮捕する!王国軍の方々が証人だ!」

ドーラ「だから言ったでしょ、警察の人間がいついるか分からないって。」


-㊷警察と王国軍、そして国民の友好関係-


林田「では将軍、宜しくお願い致します。」

将軍「かしこまりました。林田警部、お勤めご苦労様です。」


 将軍の先導で冒険者達が王宮の下にある牢へと運ばれる、この国では刑務所や拘留所は王国軍の管理下となっているので常に連携を強く保っているのだ。


将軍「そうだ、思い出しました。林田警部・・・、ちょっとお耳を・・・。」

林田「どうしました?」


 林田が将軍に耳を貸す、将軍が耳打ちで何かを伝えると林田警部は顔をニヤつかせ了承した。


ドーラ「あの2人ったら・・・、相変わらずね。」


 呆れた表情をしているドーラをよそに林田と共にニコニコしながら将軍が大隊長に犯人の連行を指示し、周辺で静かにしていた冒険者に向けて一言。


林田・将軍「皆さん、お騒がせしました。今日は私たちの奢りです、じゃんじゃん呑んで下さい。」

冒険者達「流石だぜ、いつも気前がいいな。2人に乾杯!」


 冒険者達は片手に持ったジョッキを2人に向けて振り上げた。張り詰めていた空気が一気に朗らかになる。

 ギルドの従業員からジョッキを受け取った林田はビールを飲み干した。


将軍「林田警部、この後お仕事では?」

林田「いや、休日出勤です、全く・・・、優秀な犯人ですよ。ねぇ、ノーム刑事・・・。」

ドーラ「あ、いや、あの・・・、空いたジョッキ回収しまーす。」


 警察署直通のベルと押し間違え、どうやら休日を満喫しようとしていた上司を呼び出してしまったと思われるその犯人のエルフはそそくさとした様子で客席へと逃げて行った。

 

女性「ニコフ、あんたも休みなんだろ?遠慮しないで吞みなって。」


 女性の声に引かれる様に役目を終えた私服の将軍、ジェネラルのニコフが涙目になりながら振り向くと、パン屋で働く鳥獣人族で、光の同僚であるキェルダがいた。仕事終わりにドーラから連絡を受けた光が林田の奢りで一緒に呑もうと誘っていたのだ。


光「ニコフって・・・、キェルダ!!いくら何でも将軍に失れ・・・。」

ニコフ「キェルダ・・・、会いたかった・・・。デート行けなくてごめん!」

光・林田「え?!」

キェルダ「こいつ・・・、あたしの彼氏。」

ニコフ「ど、どうも・・・、お初にお目にかかります。お、王国軍でニコフをしてます、将軍と申します。いつも彼女と林田さんからお話を伺っており・・・。」

キェルダ「何であんたが硬くなってんの。」

ニコフ「林田さんと同じで異世界から来た人なんだろ?緊張するって。」


 緊張をほぐす為、林田がニコフの口に一気にビールを流し込んだ。いきなりすぎたのでニコフは鼻から少量出してしまった。


ニコフ「だっしー、お前やめろってー。鼻に入っちまっただろうが。」

林田「ニコフは堅苦しいの、休みなんだから呑めよー。」


 先程までの格好よかった2人はどこへやら。改めてジョッキを受け取ったニコフは林田と乾杯した。どうやらこっちが本来の2人での姿らしい。普段から飲み仲間だという。いつもは林田とニコフ、そしてキェルダの3人で呑んでいるそうだ。

 そこにマックとウェインが肩を組みながら入ってきた、少し顔が赤くなっている。


キェルダ「兄貴達、今日仕事だろ?!」

ウェイン「ラリーが商売あがったりだからもう上がって良いって言ってたもーん。」

キェルダ「全然上手くない・・・。」


 呆れるキェルダの隣で先程とは全く別の表情をしたニコフがマックとウェインに向かって頭を下げている。


ニコフ「お・・・、お義兄さん、お疲れ様です。」

マック・ウェイン「お義兄さんはまだ早い。俺らはまだ認めてねぇ。」

マック「どうしても認めて欲しいなら・・・。」

ニコフ「へ?」 


ニコフに突き付けられた運命とは・・・。

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