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ステージが組まれ熱気が最高潮に増している。


-㉛ロックフェス当日-


 街の南側、銭湯のある山の麓に特設の野外ステージや音響システムなどがゲオルを中心とした街で働く魔法使いの者たちのよって設置され、街が興奮の渦に巻き込まれて行く中、光はいつも通りパン屋の仕事を夕方までこなしていた。街中の人がロックフェスを楽しめる様にエラノダが『フェスの日、街中の店は必ず夕方6時までに閉店する事』という決まりを作っているので野外ステージ以外の照明は消え、全ての店で『準備中』札がかけられていた。ただ、それでも気分を盛り上げようと屋台を出している商人がいたりした。これに関してはエラノダも盛り上げ要因として容認していたので皆喜んでいた。

 フェスなので競い合いをするものではないのだがバンド達の気合が故の熱気がムンムンとしていて体感温度が気温を大幅に上回っていた。

 このフェスには決まりがあり各組オリジナル1曲、そしてカバー1曲の合計2曲を演奏する事になっていた。それを聞いてか焼き肉店の板長には心配事があった。

 先日メンバーを組んだばかりの林田親子とヤンチのバンド、組んで間もないのにオリジナルで作詞作曲と練習を行い無事成功できるかが心配だったそうで光に相談を持ち掛けてきた。


板長「私は音楽は全くなのですが、俺はヤンチの親みたいなもんなので楽器の経験があるのは勿論知っているのです、ただ作詞作曲の才があるかどうかは無知でして・・・。それに組んで間もないので練習も間に合ってないのでは・・・。」

光「ヤンチさんは今まで沢山の苦悩を乗り越えた方ですよ、今回だって何とかなりますよ。」


 板長の心配をよそにロックフェスが始まり、最初はパン屋の鳥獣人兄妹とナルのバンドがステージに出てきた。観客たちの興奮が最高潮に高まって来た所で1曲目の演奏が始まる。皆手に汗を握り涙が出てくる、声援が止まらない。そんな中王様3人と将軍達が変装したバンドがステージに立った。その瞬間大隊長と小隊長、そして将兵達が護衛の為フェス会場を囲もうとしていた、これではせっかくの変装の意味が無くなってしまう。そこでゲオルが全員を普段着の姿に変え一般客と何ら変わらないようにした。ステージ裏にいたエラノダは勿論知らなかったが、王国軍は色々苦労したようだ。ただ共にバンドを組む3人の将軍達には伝えられたらしい。


将軍「皆・・・、気を遣わせてすまない。」


 そんな事もつゆ知らず、エラノダは1曲目の演奏を始めた。マイクを通して伝わるのは1つひとつの歌詞を通した国王としての国民への想いだった。歌うエラノダの熱気がライトにより水蒸気の様に照らされている。2曲目の最後には喉を傷め声が枯れてしまっていた。その後数日、エラノダはマスクとのど飴なしで生活が出来なかったという。

 最後に板長が心配するヤンチと林田達が組むバンドだ。その心配とは裏腹に1曲1曲に熱と心がこもり光は感動していた。

光はフェスが終わってからもずっと泣いていた。

その後家に帰ってからも心に余韻が残り、これは恋心の1種なのだろうか、ずっとドキドキが止まらなかった。


光「ビールでも飲んで落ち着こう・・・。」


 ビールと肴のチーズ生ハムを出そうとを冷蔵庫を開けた瞬間電話が鳴った、ナルだ。


ナル(電話)「あ・・・、あの・・・。今日来て頂けましたか?」

光「勿論、行きました。楽しかったです・・・、まだ余韻が残ってるからビールでも呑んで落ち着こうと思っていたんです。」

ナル(電話)「良かったら・・・、ご一緒してもよろしいですか?」

光「へ・・・?」


 光は一瞬顔を赤らめドキッとした。


ナル(電話)「パン屋さんの裏で集まって呑んでるのでよろしければ・・・。」

光「あ・・・、そう言う事でしたか。」

ナル(電話)「えっと・・・、どうかされましたか?」

光「いえ、何でもないです。急いで準備して行きますね。」


 鳥獣人の3兄妹と打ち上げをしていたので合流しないかという誘いだった。

 光はどうしてドキッとしてしまったのかが分からなかったがすぐに落ち着きを取り戻しバッグを手にパン屋へと向かった。

 パン屋は閉店してすっかり暗くなっているが建物の裏側がぽぉっと明るくなっており楽し気な声が聞こえてきた、ナルが表に出てきた。


ナル「今晩は。そろそろ来る頃だと思っていたんです、こちらへどうぞ。」


 ナルが優しく光をエスコートする。建物の裏でひっくり返したビール瓶のケースを椅子代わりにして3兄妹とラリーが吞んでいた。ナルと光が座ると改めて完敗し直す。

 いつもの楽しい仲間と美味しいお酒のお陰で楽しい時間だった。


いつも通り美味しいお酒で夜を過ごす。

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