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149-150

ナルリスの料理の秘密とは。


-149 恋人達の実力-


 光の発言に開いた口が塞がらない一は急に恥ずかしくなってきた。熱が出た様に顔を赤くし、逃げる様にその場から離れ化粧室へと向かった。

一がいない間も食を進める一同、以前から光は気になっていた事をナルリスに聞いてみた。


光「ナル、今になって聞くけどそうしてこんなに料理が上手なの?誰かに習った訳?」

ナルリス「両親を殺されてから生きる術の一つとしてせめて料理だけでも出来る様になろうと御厨板長や地元のカフェのシェフの下で家庭料理を中心に勉強させて貰っていた事があったんだ。」


 以前入った焼き肉屋の板長と自らの恋人の意外なつながりに驚きを隠せずにいた光、板長に今度お礼を言わないといけないなと料理を楽しみながら思った。毎晩この料理を楽しむ事が出来たら良いのにと、この吸血鬼と今以上に幸せになれたら良いのにと結婚を少し意識し始めた時に恋人がどれだけ自分に厳しいかを改めて知る事になった。


ナルリス「今の様に掛け持ちじゃなくて料理だけで稼げる様になるのが今の目標なんだ、いつかは自分の店を持ちたいとも思っていてね。」

男性達「じゃあ、私達の前で実力を証明して見せなさい。」


 突然、4人の男性達が声を揃えてナルに言うと光がその方向に目をやった。声の正体はまさかの御厨板長、そして3国の国王だった。


御厨「ナルリス、今日はもう遅いから明日の正午、我々4人に自慢の料理をフルコースで振舞って貰おう。その味を見て我々が合格を出したら店を出しなさい、店舗等の資金を全て出してやろう。どうだ、実力を恋人の前で証明するには丁度いいだろう。」


 ナルリスは師の前で少しも悩む事無く首を縦に振った。


ナルリス「やらせて下さい。」


 吸血鬼が決意を表明すると3国の王がこそこそと相談し、そして満場一致した結果をナルリスに伝えた。どうやら今回の「試験」についての重要事項らしく、それを聞いた瞬間ナルリスは紙とペンを用意して色々と考え始めた。どの素材を使い、どんな料理を作ろうかを頭を抱えずっと悩んでいる、ペンを震わせる程だったからよっぽどだろう。


光「王様たちは何て?」

ナルリス「王宮の調理場で4品のフルコースを作れって、テーマは「恋人への想い」だそうだ。食材は自由に使って良いと言ってた。そうだ・・・、光ちょっと良いか?」


 ナルリスが耳打ちで光に相談した事に、光自身は了承したのだが国王達に確認する必要があると念話でネクロマンサーであるバルファイ王国国王・パルライに相談した。


光「王様側も大丈夫だって。」

一「おいおい、俺がトイレに行ってた間に何があったんだ?」


 光が元上司改め自らの叔父に一部始終を説明すると、叔父は吸血鬼を外へと呼び出した。


一「いい機会だ、今回の「試験」で実力を証明して光にプロポーズするんだ。私や渚さんはもう君を認めている、後は君自身が君を認めるだけじゃないか?」

ナルリス「分かりました、やらせて下さい。」


 翌日、決意を固める様にじっくりと包丁を研ぐナルリス。時間が許す限り自慢の調理道具の手入れを入念に行っていった。

 同刻、今朝早くから近くの竹林に行っていた光は家庭菜園の野菜を採っていた。ナルリスが「試験」で光の作った野菜を使いたいと希望していたのだ。

 約束の正午、王宮の調理場に前日のメンバーが集まり、エラノダにより調理開始の合図がなされた。制限時間は2時間、周囲からすれば長い様に思えるがナルリスにとっては決して長くは無かった。

 2時間が経過し、テーブルにナルリスの料理・1品目が並んだ。最初は光の家庭菜園で採れたレタスや胡瓜、そしてパプリカをたっぷり使った「野菜サラダ」だ。

 2品目は魚料理、得意な家庭料理をと今回は「鯖の味噌煮」を振舞った。味噌煮に使った味噌にも勿論光の家庭菜園で採れた大豆を使っている。

 3品目は肉料理だ、敢えて大それた物を作らず前日作った物と同じ「トマトソースのロールキャベツを出した。キャベツもトマトも光作だ。

 最後の4品目、ご飯もの。今朝光が竹林で採った「朝掘り筍の炊き込みご飯」を作り、お焦げも余す事無く味わって貰うようにした。そしてシェフが自ら説明し始めた。


ナルリス「この料理には全て光の採った野菜を使用しています、何故なら自分の料理には光の野菜が必要不可欠だからです。これは、2人の料理と言っても過言ではありません。」


-150 幸せな2人の味-


 吸血鬼の説明を聞くと、その思いを与する様に振舞われた料理の残りを改めて味見し始めた。2人が一から作った2人の料理、国王達と御厨板長は涙を流しながら咀嚼をしていた。


御厨「2人でないと作れない味か。エラノダはどう思う?」

エラノダ「そうだな、兄さん。太陽の光をたっぷり浴び、丁寧に作られた野菜がこんなに美味いとはね。お2人はどう思いますか?」

デカルト「あくまで家庭の味で勝負してくるとは、これから送るであろう幸せそうな生活が目に浮かぶ様だ。」

パルライ「この出逢いが運命だったという事を何よりも表している気がします。」


 4人は1分も経たない内に試験結果を決めた、どうやら満場一致らしい。


御厨「では皆さん、宜しいですか?せーの・・・。」

4人「合格です!!」


 それを聞いた吸血鬼は手本の様な男泣きを見せた、そんな中エラノダから提案が出された。


エラノダ「ナルリス君、街の中心地で店を出しませんか?一等地をご用意致しましょう。」


 ナルリスは数秒程考え込み、国王の提案に対し答えた。


ナルリス「折角のご提案ですが、お断りさせて頂きます。先程申し上げました通り、私の料理には光の採った新鮮な野菜が必要不可欠です。私は本人の作った野菜の美味しさを新鮮なまま皆さんに伝えるべく、光の家の隣にお店を出したいと思っています。」

エラノダ「そうですか・・・、ではご希望の場所にお店を建てましょう。せめて資金は我々に出させて下さい。お2人が作った美味しい料理へのお礼です。」


 エラノダの言葉に再度涙を流したナルリス。


ナルリス「王様、感謝致します。」

一「ほら、これで実力が証明されただろ。やる事があるんじゃないのか?」

ナルリス「・・・、はい!!」

一「ほら・・・、行ってこい!!」


 涙を拭き取ったナルリスは一から預けていた紙袋を受け取り、中から小さい箱を取り出して光の前に向かい跪いた。


ナルリス「光、いや吉村 光さん。口下手なのでシンプルに言います、ずっと待たせていた事謝罪します。So, will you marry me?」


 一同が何でそこだけ英語なんだよとツッコミを入れたがったが、空気を読んで何も言わずにいた。数秒程静寂が続く、そして光が声を震わせながら答えた。


光「一度死んじゃったけど、今までの人生の中で一番幸せです。勿論、喜んで!!」


 光の言葉にそこにいた全員が拍手すると、エラノダが善は急げと動きを見せた。


エラノダ「そうと決まれば早速挙式ですね、お2人共ご準備下さい。」


 実は王宮横の教会で挙式の準備を密かに進めていたエラノダ、全員に早すぎと言われつつも褒めて欲しいと言わんばかりに踏ん反りがえった。

 恋人達はメイド達に案内され着替えへと向かい、実はこの展開を知っていた一同は一張羅に着替え教会へと向かって行った。そう、これは最初から仕組まれたドッキリだったのだ。2人に納得して結婚して欲しいと皆が仕組んでいた。

 教会には既に2人を祝福しようと街中の者が集っていた、2人が知らない所で全員がこのドッキリに参加していたのだ。

アーク・ビショップのメイスが教会の奥で構え、着替えが済んだという知らせを聞くと2人を大声で呼び込んだ。


メイス「お待たせしました、まず初めに新郎の入場です。」


 白のタキシードに身を包んだ吸血鬼が渚に手を引かれゆっくりと入場していた。緊張で表情が硬くなっていたが今まで世話になった方々の顔を見て落ち着きを取り戻した。

 メイスの目の前に到着すると、渚は手を放して離れて耳打ちをした。


渚「頑張って、それと娘をお願いします。」


 小声でそう伝えると参列席へと向かった、それを見たメイスが静寂を改めて確認すると大きく息を吸い込み叫んだ。


メイス「続きまして、新婦の入場です。」


 大きな扉が開き純白のウェディングドレスを着た光が叔父の一と共にヴァージンロードを歩き始めた、その姿に新郎が思わず息を飲んだ。目の前の吸血鬼が再び緊張しだしたのでアーク・ビショップは小声で言った。


メイス「今緊張してどうすんのよ、これからが大変だってのに。」

ナルリス「・・・ですね。」


 2人が小声で話していた間に新婦が入場を終え、ナルリスに純粋無垢な笑顔を見せた。そして大きな十字架を背に立つメイスの方を向き深呼吸した。


メイス「宜しいですか、今2人は街中の方々に見守られ、神の下におきまして夫婦になろうとしています。

 まずは新郎、ナルリス・グラム・ダルランさん。貴方は如何なる時も目の前の女性を妻として愛する事を誓いますか?」


 新郎はメイスの問いに迷いの無い表情で答えた。


ナルリス「誓います。」

メイス「宜しい。では新婦、吉村 光さん。貴女は如何なる時も目の前の男性を夫として愛する事を誓いますか?」

光「誓います。」


 メイスはゆっくりと頷いて参列している全員にカメラを構える様に促した、これは渚が少しふざけて考えた演出だった。それに全員で撮れば何より強力な証拠となる。


メイス「良いですね、ではアーク・ビショップの名の下に申し上げます。誓いのキスを・・・。」


 ナルリスが光のベールをゆっくりと捲ると、2人は顔を近づけ口づけをした。その瞬間シャッター音が教会中に響き渡った。皆は面白がって連写している。


メイス「ははは・・・、皆やってくれますね。さてと、証拠写真が沢山出来た所でこの2人はこれから正真正銘の夫婦です。」

ナルリス「皆相変わらずノリが良いな。」

光「だからこの世界が好きなのよね。」

ナルリス「光、改めてこれからよろしく。」

光「こちらこそ。」


 メイスはほくそ笑むと参列者に教会の外に出る様に促し、2人には後ろからついて行く様に指示した。

 教会の扉が開くと両端に参列者が並び2人を改めて祝福した。教会から退場する2人にライスシャワーをかけ、拍手するなり涙するなりで大変だった。

 参列者の列が途切れた所でナルリスが光をお姫様抱っこすると王宮専属のカメラマンや友人たちが一斉にシャッターを切った、相変わらず皆連写だ。

 その後迎えたブーケトスでは投げる方向を光が誤った為、光に農業のあれこれを教えたガイが受け取った。


ガイ「おりょりょ、良いのかな・・・。」


 ガイの言葉を聞いた独身女性達がギラっとした視線を向けたので、さり気なくブーケを新婦に返却した。

 改めてブーケを投げるとまた方向を誤った為、今度はドーラが取った。


ドーラ「参ったね・・・、あたし新婚なんだけど。」


 またもや返却、3度目は少し近い所から投げた。最後はペプリ王女に落ち着いた。


ペプリ「嬉しい、喜んで御受けします。」

メイス「さて、次の結婚式がかなり大きな意味を持つものになる事が決まった所で披露宴に向かいますか。」

光「披露宴まであるんですか?」

メイス「勿論、今夜は帰しませんよ。」


 教会から数分程歩き、街の真ん中へと到着すると大きなテーブルに沢山の料理と酒が並んでいた。

 全員が飲み物を受け取ると喜び勇んで乾杯し、新たな夫婦の誕生を祝った。街中の者達が新郎新婦と盃を交わし、最後林田警部が来た時にはおよそ30分ほど経過していた。

 賑やかな宴は夜遅くどころか翌日、15次会まで続いたが誰1人脱落者は出なかったという。本当にこの世界の皆は酒と宴が大好きで、光はその一員で本当に幸せだった。≪完≫


これからもこの平和な世界で2人は幸せに生きていく。

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