148
一にとっての「ポテトサラダ」の意味とは。
-148 上司と部下の関係-
やっとの思いで一を慰める事が出来た渚達は、謝罪の意味を込めて何か作ろうかと話し始めた、ただ光は一の好物と言えば「バターピーナッツ」以外知らなかったのでどうすれば良いのかが分からない。
一「ポテトサラダ・・・、ポテトサラダが食べたかったの。」
ナルリスが持って来たポテトサラダをずっと欲しがっていた様なのだが、何故か自分だけ回って来なかったので物凄く病んでいたらしい。どうやら好物の1つだったようだ。
シューゴ「それは・・・、悪かった。」
わなわなした様子で反省するシューゴを見たナルリスが最善策を講じた、どうやら作りすぎたので幾分か余っていたらしい。
ナルリス「一さん、家にお代わりがありますけど。」
一は心が救われたような気分になっていた、ナルリスが神に見えた。ただ実際は吸血鬼なのだが今はそんな事関係無い、一は勢いよくナルリスに縋りついた。
一「ナルリス様ー!!」
ナルリス「ポテトサラダ位で大袈裟ですよ、それに光がお世話になっていた方を放っておくわけにも行きませんし。今から走って取って来ますので待ってて下さい。」
一「いや、待てそうにありません。『瞬間移動』で行きましょう!!」
誰だって大好物を前にして「待て」と言われても待てる訳が無い、人間の欲とはやはり奥深い物だ。ただ一にとって「ポテトサラダ」はただの大好物なだけではなかった、一にはナルリスにどうしても聞きたいことがあったのでそのきっかけとして利用したのだ。
ナルリスに家の場所を聞いた一の『瞬間移動』で移動し、魔力保冷庫の中から残りのポテトサラダを出そうとしていた吸血鬼に元上司はここぞとばかりに質問した。
一「ナルリスさんは、吉む・・・、いや光さんの事をどうお思いなんですか?」
ナルリス「正直、初めて会った時は自分には釣り合わない方だと思っていました。ただ自分の作った料理をあんなにも美味しそうに、そして幸せそうに食べる様子を見て本当に嬉しくなっちゃいまして。あんな女神の様な綺麗な方に出逢えた事、そして吸血鬼である自分を誰よりも受け入れてくれた事に感謝しているんです。その感謝の気持ちが会う度に好きと言う感情に変わっていきました、いつかは結婚出来たら嬉しいです。いや、結婚したいです。ただ今の自分は結婚するに値しません、今の様に新聞配達との掛け持ちで働くのではなく料理人として立派に稼げる様になるまではプロポーズするつもりはありません。」
一「なるほど、貴方は私が思った以上に立派なお方だ。試すような事を言って申し訳ありません。」
立派な目標を持ち、一途に料理人を目指す目の前の吸血鬼に感動した一はこの人なら光を任せても良いと父親の様な感情を抱いていた。ずっと上司という形で光を見てきたのだ、一の中にはいつの間にか光に対する親心が芽生えていたらしい。ナルリスの一途な思いを表すように受け取ったポテトサラダは人生で1、2を争う位に美味かったそうで一は一口一口噛みしめる様に食べていった。咀嚼をする度に涙が溢れだした。ただ一には光に話せていない事があり、それを聞いたナルリスは今までに無い位驚愕していた。いい機会だと、今日その事を打ち明けようとしているらしい。
『瞬間移動』で戻ってからナルリスが残りのポテトサラダを配り終わり、一が重い口を開こうとした時、渚が急に切り出した。
渚「そう言えば一さんって誰かに似ていると思っていたんだけど、あなたあたしの亭主みたいだね。偶然だと思うけど。」
一「渚さん・・・、偶然では無いんです。実は私の両親は私が中学生の頃に離婚し、私は母親に、2個下の弟は父親に引き取られました。その時から私は母親の「寄巻」の姓を、そして弟は父親の「阿久津」の姓を名乗っていたんです。」
渚「ま・・・、まさか・・・。」
そのまさかだ。一は渚の旦那で光の父親の阿久津 明の実の兄、そう一は光の叔父だったのだ。光が入社した頃、光に弟の面影を感じ「まさか」と思って実家に父親側の実家に確認すると、思った通り光は自分の姪だという事を確信し、亡くなった明や渚の代わりとしてずっと親代わりを務めていたという。ただ一と光は上司と部下の関係、他の社員の前でその関係を崩してはいけないとずっと叔父だという事を隠していたのだ。ただ隠している事がずっと辛かったそうで、いつかは打ち明けて楽になりたがっていたらしい。
一「吉村・・・、いや光。ずっと隠していて悪かった。」
光「はぁ、今更何言ってんの叔父さん。不自然な位に会社で親バカ発揮していたじゃない。私が何も気付いてないとでも思ったの?気付いてない演技するの大変だったのよ。」
意外とあっけなかった。