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ナルリスのロールキャベツを気に入ったレンカルド。
-146 2人の思い出とパンケーキ-
ロールキャベツを食べながらソムリエの資格を持つレンカルドが、ナルリスの料理に合いそうなワインを地下のワインセラーから出してきて全員に振舞った。殆どの者が何も考えずにガバガバ呑んでいたが、光だけは銘柄を見て驚きを隠せずにいた。
光「レンカルドさん、これ吞んじゃって良いんですか?」
レンカルド「気分が良いので出しちゃいました、それに実は・・・。」
レンカルドによれば、今日は兄・シューゴの誕生日らしく毎年誕生日には弟が送ったワインを2人で呑んでいる事が多いとの事だ。その度いつもいつかはワインを色んな人と楽しみたいと言っていたので、まさに本人の希望通りとなっている。
光「本人の希望通りなら良いんですが、これって「ロートシルト」じゃないですか。緊張して呑めないんですけど。」
日本でも年末年始の某格付け番組に出てくるレベルの超高級ワインで、1本100万円は下らない(正直作者もドン引きしました)。
レンカルド「兄も喜んでいるみたいなので良いんじゃないですかね。」
シューゴ「おいおい、何コソコソとしてんだよ。」
レンカルド「兄さん、そのワインが今年の誕生日プレゼントだよ。」
シューゴは呆然としていた、改めてワインをテイスティングする。数秒後、ボトルを見てガバガバ呑んだ事を後悔していた。
シューゴ「すまん・・・、大切に呑むべきだったな。」
レンカルド「いやいいよ、以前から色んな人とワインを楽しみたいって言ってたじゃないか。それと遅くなったけど、誕生日おめでとう。」
当然の事ながら今まで貰った誕生日プレゼントの中で最高級の品だったので物凄く焦っていた拉麺屋台の店主を横目に、その高級品をラッパ飲みしている女性が1人。そして勢いをそのままに飲み干して一言。
渚「おーかわーりないー?」
光「母さん・・・、それレンカルドさんからシューゴさんへの誕生日プレゼントだったんだけど。」
渚「もぉ吞んじゃったもん、早くお代わり頂戴!!」
光は渚からボトルを奪い取りラベルを見せた。
光「お母さん、見える?今自分が何呑んだか分かる?」
渚「何言ってんのあんた、こんな安も・・・の・・・、じゃないね。」
ラベルに書いてある「ロートシルト」の文字を見て事の重大さを知った渚はその場で土下座した。
渚「誠に申し訳ございません!!」
レンカルド「良いんですよ、兄も楽しそうにしていましたし。」
誕生日と聞いて気を利かせたナルリスがレンカルドに一言申し出て厨房を借り、パンケーキを数枚焼くとチョコソースやホイップでデコレーションして簡易的な誕生日ケーキを用意した。偶然持っていた蝋燭に火をつけてシューゴに振舞った。
シューゴ「美味そうだ、良いのか?」
ナルリス「勿論です、誕生日おめでとうございます。これは俺からシューゴ先輩へのプレゼントです。」
蝋燭の火を吹き消し振舞われたパンケーキを一口。じっくりと咀嚼しながらシューゴは涙を流していた、どうやら2人にとってその「パンケーキ」は特別な意味を持つ食べ物だったらしい。
シューゴ「懐かしいな、この味は確か俺が初めてお前に教えたスイーツだよな。」
ナルリス「覚えていましたか、思い出のあの味です。」
実はシューゴは拉麵屋台を始める前、見分を広げる為少しの間だがカフェでパティシエとして働いていた経験を持ち、そのカフェに偶然雇われたナルリスに空いた時間を利用してスイーツを教えていた事があったのだ。このパンケーキは初めて教えた思い出の深い物だった。シューゴはもう一口食べると涙を流した。
シューゴ「こんな気持ちは久しぶりだよ、本当にありがとう。嬉しいよ。」
楽しい思い出と懐かしの味で最高の誕生日になったシューゴ。