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144

酒を仕入れて急いで帰ろうとする光と一。


-144 親子の盃-


 ドーラに真実を聞いた後、兄弟を待たせては悪いと2人は急ぎ『瞬間移動』でレンカルドの飲食店へと向かった。ただこの世界の者に共通して言えるあの事を考えると・・・、と思っていたので光はそこまで焦ってはいなかった。一は不思議で仕方なさそうな表情をしている。


一「やけに落ち着いているな、吉村。」

光「何となく予感している事があるので。」


 『瞬間移動』で到着した時、光は一瞬引き笑いをした。どうやら予感が当たったらしい。


シューゴ「一はぁ~ん・・・、こっちこっちぃ~。」

レンカルド「光さんも早く呑みましょうよぉ~。」


 予想通り2人はもう出来上がっていていた、ただその横で見覚えのある人物が1人手酌酒を呑んでいる。光の母、渚だ。


光「もう・・・、お母さんまで・・・。」


 どうやら2人に誘われたらしく喜び勇んでやって来たらしいのだが、実はそれ自体は問題ではない。渚が呑んでいた酒を見て光は驚きを隠せなかった。


光「ちょ、ちょっとそのお酒!!」

渚「光ぃ~、どうしてこんなに美味い酒を隠してたのよ。勿体ない。」

光「それは今度ナルリスを交えて3人で呑もうって大切にしていた「森伊蔵」じゃない、それ高かったんだけど!!」


 すると完全に出来上がっているシューゴが即座に解決策を出すため光に聞いた。


シューゴ「ナルリスってあのヴァンパイアのナルリス君かい?」

渚「そうなのよ、この子の旦那。」

光「お母さんが何で答えんの、それにまだ結婚してないし!!と言うか凄く打ち解けてるじゃん!!」


 光の一言に引っかかった渚、今までの様子が嘘みたいに酔いがさめた様な表情をしている。頬が少し赤い以外、見た目は完全なる素面みたいだ。


渚「光・・・、「まだ」って何だい?」

光「まだ付き合って1年も経ってないの、結婚する訳ないじゃん。」

渚「馬鹿だね、お母さんはお父さんと出逢って半年で結婚してあんたを産んだんだよ。」


 光からの目線からすればかなりのスピード婚だが少し待とう、今思えば渚は完全に酔っているのだ。


光「早すぎない?」

渚「いやちょっと待って、半月だったかな?」

光「全然違うじゃない・・・。」


 いくら何でも記憶があやふや過ぎる渚、それを聞いていたレンカルドが提案した。


レンカルド「だったら御家族みんなで集まれば良いのでは?」


 渚は夫・阿久津が未だに見つかっていない事や、光が生まれてからすぐに行方不明となり死亡した事になっている事、そして自分と同様にこっちの世界に来ている可能性を信じて仕事が休みの日にちょこちょこ探している事を伝えた。実は先日、光と再会した時も阿久津を探していたのだと言う。それを聞いてレンカルドは少し神妙な表情を見せた。


レンカルド「何も知らないとは言え、ごめんなさい。」

渚「良いのよ~、それより何暗くなってんのよ。酒が足りてないんじゃないの?ほら。」


 レンカルドに自分が空けたばかりの盃を渡し、光が大事にしている「森伊蔵」を何一つ抵抗する事無く並々と注いだ。注がれた酒をレンカルドが有難く呑もうとするとその盃を横からシューゴが横取りした。


シューゴ「だったら俺が渚さんと結婚するぞ!!」

渚「あたしゃまだ未亡人じゃないよ、何言ってんだい!!」


 やはり酔っているせいかシューゴの言葉をジョークとして上手く笑い飛ばしている。そんな中、渚はずっとその場に立っている光を隣に座らせ輪に加わるように促し酒を注いだ。2人はしみじみとした雰囲気で親子の盃を酌み交わした。光の、いや家族の「森伊蔵」で。


酒は人と人を繋げてくれる。

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