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135

渚の屋台の初めての現場、そして初めてのお客さんは?


-135 大企業の事実-


 以前の職場で噂されているとは知らない2号車の渚は、シューゴに手渡された地図で指定された販売ポイントの駐車場に到着した。シューゴとは逆回り、この後渚にとって懐かしきダンラルタ王国の採掘場での販売をも予定している。


渚「この辺りだね・・・、よし。」


 本来はとある職場の職員が使う駐車場で、管理人とシューゴが特別に月極契約している端の⑮番の白線内にバックで止める。何があってもすぐに対応できる様に「必ず駐車はバックで」と言うのがシューゴとのお約束だった。

 渚は運転席から降車し、少し辺りを見てみる事にした。


渚「ここはどこの駐車場なのかね・・・。」


 駐車場から数十メートル歩いた所に大きな建物が2つ並んでいた、1つは大企業の本社ビルで最低でも20階以上はありそうだ。また、隣接する建物は15階建てのものらしく横に大きく広がっている。2つの建物は数か所の渡り廊下で繋がっていて窓の向こうから行き来する人々がちらほらと見えている。


渚「大きいね・・・、何ていう建物なんだい?」


 入口らしき門が見えたのでその左側に書かれている文字をじっくりと読んでみた、見覚えのある文字がそこにある。


渚「「貝塚学園高等魔学校 貝塚財閥バルファイ王国支社」ね・・・、貝塚財閥ってあの貝塚財閥かい?!確か向こうの世界で教育系統に力を入れているって聞いた事があるけどこっちの世界にお目見えするとはね、こんな所で屋台をするのかい?贅沢だねぇ・・・、ありがたやありがたや。」


 渚はハンカチで汗を拭いながら軽バンへと戻り営業の準備を始めた、屋台キットを展開しスープの入った寸胴を火にかける。暫くしてスープの香りが漂い始めると先程の建物から昼休みを知らせるチャイムが聞こえて来た。すると女性が1人、疲れ切った様子で屋台へとやって来た。へとへとになりながら渚が差し出した椅子へと座る。お冷を手渡すと砂漠を彷徨っていたかの様に一気に喉を潤した。目にはクマがあり、酷い寝不足らしい。聞くと人件費の削減でかなりの人数を減らされ毎日酷い残業らしく、今日みたいに昼休みを過ごせない日もあるそうだ。せめて今日の昼休みくらいは美味しい物をとスープの匂いに誘われてやって来た。


女性「えっと・・・、拉麺を1杯お願いします。麺は硬めで。」


 疲れ切った表情で渚に伝えると懐から手帳を出し、午後からの仕事の確認をし始めた。渚はせめてこの場にいる時だけは仕事を忘れて欲しいと少し気を利かせてみる事にした。


渚「あの・・・、余計なお世話かと思いますがここにいる時だけは楽にされてはいかがですか?ほら、折角のお昼休みですし。」

女性「うん・・・、それもそうですね・・・。」


 手帳を片付け、お冷を一口。すると下半身が光りだし蛇の姿へと変わってしまった、そう、ヒドゥラと名乗ったこの女性はラミアだったのだ。湯切りをしていた渚は開いた口が塞がらない。


渚「あらま。」

ヒドゥラ「驚かせてすみません・・・、実は普段人間の姿をキープするのも結構楽じゃなくて・・・。」

渚「いえいえ、大丈夫ですよ。もうすぐ出来ますからね。」


 目の前のラミアが安心した様子でとぐろを巻いて座っていると、出来上がった拉麺を渚がそこまで運んでいった。ヒドゥラは料理を受け取ると有難そうに手を合わせた。


ヒドゥラ「頂きます。」


 幾日ぶりかの温かな食事だと感じさせる程美味そうに渚の拉麺を食べる客、ただその味に欲しくなったものが一つ。


ヒドゥラ「すみません・・・、ご飯頂けますか?」

渚「あいよ、少々お待ちを。」


 炊飯器から銀シャリを出し初めての客に渡すと、たっぷりとスープと醬油ダレの味を吸った叉焼をその上でバウンドさせ染み込んだご飯を楽しんでいた。要望通り硬めに茹でられた麺を啜る姿からも嬉しさが伝わってくる、渚はこの仕事を始めて良かったと思った。


何処の世界でも美味い物は人を笑顔にする。

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