124
大事が過ぎた後。
-124 大将の秘密の工房-
デカルトが王宮からネフェテルサ王国に向かって飛び立った頃、ロラーシュ大臣によって一時的にだが鉱石がすっからかんになった採掘場を見てゴブリンキングのリーダー・ブロキントは一言呟いた。
ブロキント「見た感じ美味そうに食うてたけど、そんなに美味いもんなんかいな・・・。言うてしもたらあれやけど石やで。」
味を一応想像したけど全くもって美味しいイメージが湧かない。
その時、たまたま近くを通った屋台から聞こえたチャルメラの音を聞き、魔法で誘われたかの様に腹をさすりながら食べに行った。
ブロキント「大将ー、1杯くれまっか。」
大将「あいよ、椅子出すからちょっと待っててくれな。」
大将は軽トラを改造した屋台から小さな椅子を数脚持ち出すとその一つに座るように誘った。ブロキントがそれに座るとスープの入った寸胴に火にかけ徐々に熱を加えていく。
丁寧に血を拭き取った豚骨と鶏ガラから丹念に煮だしたスープが香りだし食欲を湧かせる。
大将「兄ちゃん、麺の硬さは?」
ブロキント「粉落としで頼んま。」
採掘場で働くゴブリン達は皆歯応えのある硬い麺を好んだ、特にブロキントは茹でた後も生麺の香りがする粉落としを好んだ。2~10秒ほどで湯から上げるので名前の通り表面の打粉を落とすだけの茹で方。
濃い目の醤油ベースのタレを丼の底に入れ、香りの迸るスープを注いだ後茹でたての麺を湯切りして入れる。具材はもやしにシナチク、ナルト、そして豚肩ロースを丸めて作った特製の大きな叉焼。この叉焼は先程の醤油ダレで煮込み味を染み込ませている。
大将「お待ちどうさん、待ってもらったから叉焼おまけしてあるよ。」
ブロキント「それはおおきに、頂きますぅ。」
普段は2枚入れている叉焼を3枚にしてくれている美味そうな拉麺を前に、リーダーが割り箸を割り感動の1口目に入ろうとすると腹を空かせた部下たちが続々と屋台の席を埋めていった。ブロキントはおまけ分の大きな叉焼を急いで口に入れた、トロトロの食感と肉汁が舌を楽しませる。
大将「ほらよ、絶対に合うぞ。」
大将が笑顔で白く光る銀シャリを渡すとブロキントは一気にがっついた。素直に合う、本当に合う。因みに炊飯器は太陽光発電で動く様にし、降水時でも大丈夫な様にバッテリーに繋いでいる。
ゴブリン「リーダー早いでんな、ずるいですわ。大将、わいらにも一つ。」
大将「あいよ、ちょっと待っててな。」
大将は数人分の拉麺を急いで作り始めた、スープの香りが辺りを包み周りの村の住民までも誘い始めた。
1杯を完食したブロキントの表情は恍惚と輝いていた。
ブロキント「大将、またこの辺りに来るの?」
大将「そうだな・・・、風の吹くまま気の向くまま。お天道様に誘われるがままに行くだけだから分かんねぇな・・・。」
そう言いながら大将は追加の注文に対応し始めた。
全ての注文分を作り終えると足早に片づけを終え、次の日の準備のために誰も知らない工房へと帰って行った。
一方その頃、ミスリル鉱石を待つ林田達は先程の飲食店でデザートのパフェを楽しんでいた。渚はホイップクリームとイチゴがたっぷりのパフェを口いっぱいに頬張り、笑顔で楽しんでいた。
渚「うーん・・・、ここのパフェ大好きー。苺いっぱーい。」
修理を待つエボⅢの持ち主は大好物の苺がいっぱい入ったパフェに感動している。すると調理場の奥からただいまという男の声がし、その後この場に相応しくない香りがしてきた。渚が鼻をクンクンさせる。
渚「な・・・、何か拉麺の良い匂いしない?」
店主「すみません・・・、兄が奥で豚骨と鶏ガラからスープを煮だしてまして。」
まさかの兄弟。