120
早速作業に取り掛かろうとする珠洲田。
-120 神の加護-
珠洲田は顔見せを終えるとすぐに渚の車を見回し始めた。ただ初めて見るにしてはやけに詳しそうに軍手をした両手で所々をいじりながら、そして何処か懐かしそうに見ている。
珠洲田「このエボⅢって確か・・・。ここが・・・、うん。やっぱりか。」
光「この車をご存知なんですか?」
珠洲田「いや実はね、あっちの世界にいた時なんですが三菱の修理工場やチューンアップパーツの店で働いてた事がありましてね。その時色々いじったエボⅢに似ているんですよ。」
光が珠洲田の様子をしばらくの間見ていたら、お茶を飲みに行き戻って来た渚が思い出したかのように話しかけた。
渚「あれ?もしかして、あんたスーさんかい?三菱にいていつもこのエボⅢのチューニングを頼んでいた、ほらあたしだよ。渚。」
珠洲田「な・・・ぎ・・・、あんたなっちょか。やっぱり見覚えのあるエボⅢだと思ったんだよ。」
渚「いや、全然変わらないね、スーさん。あんただったら何でも頼める気がするよ。」
どうやら2人は小学生時代からの幼馴染らしく、ずっと登下校は一緒だったという。高校はお互い別々だったのだが、渚がエボⅢを購入し「赤鬼」として散々乗り回した結果、ガソリンタンクに小さくだが穴が開いたりトランスミッションとギアボックスが故障した事をきっかけに修理工場で再会して今に至ったという。因みに渚は珠洲田の初恋の人だったそうだ、エボⅢに乗る姿に惚れていたらしい。
珠洲田「事故で亡くなったって聞いたよ、でも元気そうで何よりだ。」
渚「実は事故る寸前にこの世界のダンラルタっていう王国の峠にこの車ごと転生してきたらしいのさ。峠から峠だったもんだから最初は全然気づかなかったんだけどいつの間にかね。後からクォーツって神様に向こうの世界での事を聞いてやっと実感が湧いたって訳。どうやらその神様がこっちの言語を脳に入れ込んで、そのついでにこの車も運んできてくれたらしいのさ。」
珠洲田「あらまぁ・・・、それにしても元気そうで何よりだ。よし、懐かしの車をこっちの物として作り替えるか。久々だな、こいつのキーを回すのは。」
珠洲田は昔懐かしい幼馴染の愛車のエンジンを起動して、自らの店に持っていこうとするとすぐに異変に気付いた。あの頃とは音が全く違って聞こえて来るらしい。
珠洲田「あれ・・・?何か音が違うな・・・。」
渚「実はね・・・、さっき言った神様に「これが外れてたみたいだぞ」ってこれを渡されてね。」
渚はクォーツに渡された部品をネジや部品を手渡した、因みに今はクォーツの魔力により一時的に動く状態になっているそうだ。その為、週に1度お供えの品々を色々と要求されるらしい。
珠洲田は渚に手渡された部品を見るとすぐに天に向けて祈りを捧げた。
珠洲田「このパーツを拾って頂きありがとうございます。クォーツ神様、心より感謝致します。」
すると天の声が2人の耳に響き出した、神の神託というやつだろうか。
声「良いぞ良いぞ、俺も救い甲斐があったってもんだね。」
渚「もしかしてクォーツ神様ですか?」
すると天から明るい光に包まれた女性がゆっくりと降りてきた。
クォーツ「そうだ。久々だな、人間。私だ、クォーツ・ラルーだ。」
珠洲田「ラルー様・・・、という事は「一柱の神」と呼ばれる古龍様ですか?!」
クォーツ「まぁ、そんなとこだ。そのエボⅢには一時的にだが私の大いなる加護を付与してある。珠洲田とやら、修理等頼めるか?」
珠洲田「ありがたき幸せにございます、是非私めにお任せ下さいませ。」
一先ず加護により動くようになっているエボⅢのキーを回し、珠洲田は自らの店に動かして行った。助手席に初恋の人、そして後部座席に「一柱の神」を乗せているのでかなり緊張しながらだが落ち着いてギアをセカンドに入れ、半クラッチにして発進させた。ゆっくりとしたギアチェンジにより穏やかに走って行くエボⅢの中で渚はずっと眠気を我慢していた。
珠洲田は店に到着すると2人を降ろしバックで工場に搬入していった。修理等の作業の間に空腹だというクォーツを連れ珠洲田に紹介してもらった飲食店に連れて行った。そこは自慢のハンバーグが美味らしく、注文を受けてから店主が1つ1つ手ごねするという。
店に着いた時は他の客は1人だけでゆっくりとした時間が流れていた。
神の加護の力、自分も受けてみたい。