119
光には未だ聞けていない事があった。
-119 渚の新居-
その場の雰囲気と場の流れに身を任せ、光は先程答えを聞けなかった質問を渚に再度ぶつけた。まさかこんな奇跡が起こるとは、きっともう一生ないだろう。
光「ねぇ、母さん。さっきは上手くスルーされたけどやっぱりウチに住まない?」
渚「良いのかい?あんたの家、エボⅢ置けんの?」
流石に愛車をずっと『アイテムボックス』の中に入れておくのはもうウンザリだそうなのだ。学生の頃からずっと憧れていてやっとの思いで買った自慢の愛車、やっぱり太陽の下で眺めていたい。その上、別に無制限なので気にしてはいないがかなり容量を使う。そして正直に言うと『アイテムボックス』内で物を探すのに少し邪魔となっている。
光「エボⅢの駐車場位余裕で用意するから。それに毎晩銭湯に行ってたらそりゃお金かかるよ、ウチにも露天風呂作っているから背中位流させて。」
渚「そうかい・・・?じゃあ、お世話になろうかね。」
林田「そうと決まれば皆で引っ越しの手伝いしますよ。」
渚は少し申し訳なさそうな表情をしていた、理由は本人の部屋に入るとすぐに発覚した。光が『瞬間移動』を渚に『付与』すると、渚は使い慣れていたかのようにすぐにその場にいた全員を連れて行った。
渚「い・・・、いらっしゃい・・・。」
以前言っていた通り部屋は風呂なし、6畳1ルーム。トイレと洗面台と簡易的なキッチンが設置されていたその部屋には、テレビと小さなテーブルに何故かウォーターベッド置かれている。ベッドはピンク色で真ん中に大きく「我愛你(I Love You)」と書かれている見た側が確実に恥ずかしくなる物で、光は正直家に持ち込みたくなかったが渚のお気に入りなので許すことにした。
渚「だから手伝って貰う程じゃないって言ったの。」
頭を掻きながら渚は顔を赤らめ恥ずかしそうにしていた、そして林田とナルリスに聞こえない位の小声で少し笑いながら何かを耳打ちした。
それを聞いた瞬間に光は先程の渚以上に顔を赤らめ3つ隣の部屋に響く位の大声で叫んだ。
光「お母さん!!これ、持ち込み禁止!!!!」
林田「渚さん・・・、娘さんによっぽどな事を言ったんですね。」
ナルリス「敢えて聞かないでおきます。」
光は涙を流しながら答えた。
光「絶対聞かないで下さい・・・。」
さて、光一行は気を取り直して挨拶を兼ねて大家の所に許可を得に行った。引っ越す事が出来る様になると早速『アイテムボックス』に恥ずかしいベッドを含めた家具を納め、光の『瞬間移動』で家へと向かった。光の家を見て渚は感心している。
渚「ほぉー・・・、一軒家じゃないかい・・・。」
光「だから一緒に住もうと言ったんじゃん。」
一先ず、渚がうずうずしていたので庭に白線を引いてエボⅢを置く場所を指定すると『アイテムボックス』から愛車を地響きと共に取り出して駐車作業に取り掛かった。
久々にエンジンキーを回したからか興奮した表情で数回空ぶかしをして、ギアをバックに入れると車を動かした。聞こえた音からずっと半クラッチをしている様だ。
その時、光はある事に気付いた。
光「母さん・・・、それまさかガソリン車じゃないの?」
渚「そうなんだよ、この世界ハイオクどころかガソリンスタンド(ガソスタ)が無くて困ってんの。」
光「石油がある訳ないじゃん・・・、母さんここ異世界だよ。すぐに呼ばないといけないのは誰よりも珠洲田さんらしいね・・・、はぁ・・・。」
大きくため息をつく光の顔を見るとすぐに林田が応えた。
林田「光さん、安心して下さい。」
珠洲田「もう、いますよ。」
一時流行った有名な全裸ネタの様なタイミングで出てきたので光は顔が少し引きつかせながら数回鼻で笑った、この世界は色んな意味でも便利に出来ているらしい。
不思議と便利な世界。