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116

花見を存分に楽しむ光達。


-116 桜とそよ風が連れてきた故人-


 光はビール片手に幼少の思い出に浸っていた、桜は若くして亡くなってしまった母・渚との数少ない思い出の花だ。

 今いる遊歩道と同様に、家のすぐ近くに桜の花が綺麗に見えるスポットのあった場所に住んでいた頃の光の小さな手を引いてゆっくりと歩く渚の姿は、美しく優しい印象で光の目に焼き付いていた。とても巷で「赤鬼」と呼ばれていた走り屋に思えない。

 桜の花を眺める度に光は母の穏やかだった顔や温かかった手を思い出して涙を流した。


ナルリス「優しい・・・、お母さんだったんだな。」

光「うん、桜を見る度いつも思うの。一度でも良いから母に会って一緒にお酒を呑めたらなって。何かね、桜の花の1つ1つが母の温かみを思い出させてくれてこの時だけ何となく子供の頃の気持ちに戻れる気がするんだ。」


 ナルリスは知らぬ間に光が右手に持つ酒が缶ビールから紙コップに入った日本酒に変わっている事に気づいた。表情が先程以上に赤くなっている事も、そして涙もろくなっている事も納得がいく。


光「多分、母は今の私の姿を見ても私に気付く事は無いだろうけど会えたら声を掛けたい。産んでくれてありがとうって感謝の言葉を言いながら日本酒を注ぎたいな。」


 その時、ふんわりとした風により散った桜の花びらが1枚光の日本酒の表面に乗った。風に身を任せゆらゆらと揺れながら浮かんでいる。


光「会えたらな・・・、会いたいな・・・。後で仏壇にこの日本酒をお供えしよう。」


 いつの間に、そしてどこから仕入れたのか分からないが左手に一升瓶を持っている。酔ったせいか幻聴らしき女性の声がし始めた。


女性「光、大きくなったね。」

光「えっ・・・?」


 光は涙ながらに声の方に振り向いた、しかしこちらを向く女性の姿は全くない。その代わりに桜の花びらがそよ風に乗り頬をかすめた。

 ナルリスが目を丸くして光の方を見ている。


ナルリス「何かあった?」

光「いや・・・、何でも無い。ごめん。」


 どうやら今の声はナルリスに聞こえてなかったらしい、やはり今の声はただの幻聴だったのだろうか。


女性「光・・・、こっち。注いでくれる?」


 振り向くと光に紙コップを差し出す女性が1人、どうやらほろ酔いらしく表情が赤くなっている。


光「気のせいかな・・・、悪酔いしたかも。隣にお母さんに似た人がいるんだけど。」


 光の隣でナルリスがガタガタと震えている。


ナルリス「いや光・・・、似た人じゃなくてお母さん本人だよ。」

渚「早く注いで頂戴、仏壇になんか備えなくて良いからさ。あんたとお酒を呑むのがあっちの世界に住んでた頃からの夢だったの。」


 光は渚らしき人物の持っていた紙コップに日本酒を注ぎ始めた、桜の花びらが彩りを添える。光は未だ疑っているのだが、目の前にいるのは母・赤江 渚本人だ。


渚「あんた、酒選び上手いね。こんなに美味い日本酒初めて呑んだよ。ほら、突っ立ってないであんたも呑みな。それと隣の彼氏さんを紹介しておくれ。」


 道沿いにあるベンチに座り3人で桜を愛でながら日本酒を呑む、今更ながらだがどうしてこの世界に渚がいるのだろうか。


渚「実は私ね、あの事故の直前に運転席からこの世界に飛ばされちゃってね。曲がり切れずというより曲がろうとしたら景色が一瞬で変わっちゃってね。あたしゃ車で日本の峠を攻めていたつもりがいつの間にかダンラルタ王国の峠を攻めていた事になっていてね、その証拠にほら。よい・・・、しょっ・・・、と。おっと!!」


 渚は愛車のエボⅢをアイテムボックスから取り出し驚かせた、光が日本にいた頃のままの姿で目の前にあのエボⅢが佇んでいる。光はやっと目の前の事実を受け入れだした。


やはり受け入れがたい事実。

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