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113

光にはある感情が芽生えだした。


-113 唐揚げへの欲望-


 光は唐揚げセットを完食して店を出る事にした、グラスに入ったお冷を飲み干し会計へと移った。代金を支払い自動ドアを抜け街へと出る。新鮮な外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ光に夫婦が声をかけた。


2人「ありがとうございます、またお越しくださいませ。」


 別に用事がある訳では無いのだが家路を急ぎ家の敷地へと入ると、家に入らず裏庭に行き地下へと降りて大型冷蔵庫までダッシュした。勢いそのままに冷蔵庫を開けると缶ビールに手を伸ばし一気に煽った。先程の唐揚げの味を思い出すだけでビールが進んでいく。まるでダクトの下で白飯だけを食うホームレスの様だった事に気づくと、一応光本人しか入る事がない地下だったのだが思わず周囲に人がいないかを確認してしまった。

 その後、余韻に浸りながら一言呟く。


光「唐揚げ・・・、食べたい。美味しくビール・・・、呑みたい・・・。」


 目の前の冷蔵庫には缶ビールはたっぷりあるのだが、唐揚げの材料は全く入っていない。深呼吸して冷静さを取り戻し、家の中の冷蔵庫を確認する。昨日の残りのカレールーが入ったタッパーは目の前に映ったが、こちらの冷蔵庫にも唐揚げに出来る様な肉類は全く入っていない。


光「少しの我慢・・・、少しだけだから。」


 家から『瞬間移動』して先日お世話になったお肉屋さんへと向かい、店に入ろうとしたがまさかの行列に捕まってしまった。

 店先に「本日全商品3割引き」ののぼりが出ている。どうやら月に1回だけ開催される特売日らしく、これはチャンスだと皆がこぞってやって来ていた。

 その行列の中に見覚えのある男性の人影を見かけた、料理上手の人影。ただ唐揚げとビールの事で頭がいっぱいになっていたせいか、誰か思い出せない。


男性「光?こんな所で何やってんの?というか何かぼぉー・・・っとしてない?」

光「ビール・・・、ビール・・・、今すぐビールが吞みたい・・・。」


 すると店内から良い匂いがし始めた、光の鼻を刺激する匂い。今何よりも欲しい物の匂い、目を閉じると光にとって神々しくあるその姿が浮かぶ。


光「唐揚げ・・・。」


 匂いにつられ涎が出てきたので恥ずかしくなり顔を赤らめた男性は慌ててポケットティッシュを取り出した。それを見て行列に並ぶ皆がくすくすと笑っている。


男性「とにかく光、目を覚ませ!!俺の事分かるか?!」

光「男の人の声・・・、この声・・・。大好きなこの声は・・・、ナル!!ナルリス!!」


 そう、顔を赤らめながら先程から光の目を覚まそうと必死になっていたのは光の彼氏であるヴァンパイアのナルリスだった。

 目の前にいるのが料理上手のナルリスだと分かるとすぐに涙目で要求した。


光「ナル!!唐揚げ食べたい!!唐揚げでビール呑みたい!!唐揚げ作って!!」


 大きなお仕事を終えた後なので、重めの疲労感と料理上手の彼氏に会えた嬉しさ、そして少しのほろ酔い気分から欲望が丸出しになっている。まるでわがままな子供だ。


ナルリス「分かった、今夜はステーキを焼いてサプライズのお疲れ様会をしようと思っていたんだけどご希望通り唐揚げにしよう。」


 まだ肉を買っていなくて良かったと一瞬目線を逸らすナルリス、取り敢えずお騒がせしましたと周囲に頭を下げると行列に並びなおした。

 やっと順番が来たと思いながら店の中へと足を踏み入れる2人、先程の匂いの素となっていた唐揚げはもう無くなりかけている。

 店主が店の奥から出て来て空になりかけた唐揚げのガラスケースを見てレジを打ちながらいつものチャラさ混じりの笑顔を見せ始めている。


店主「ありがとうございやした、今日のセールも成功だ・・・、った・・・、な・・・。」


 店主は無くなりかけている唐揚げを眺め涙する光の顔を見るなり表情を蒼白させた。


店主「よ・・・、吉村様!!恐れ入りますが、今日はご予約頂けていないので和牛の枝肉をご用意出来ていないので・・・。」

光「唐揚げ・・・、もう無いんですか?!」


今にも泣きだしそうな光。

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