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この食堂のカレーとは。
-106 優しさの塊-
裏路地の食堂に入るなり辛さを聞いて来た主人は片手で持てる雪平鍋とお玉を持っていた。傍らにはスパイスが入った小瓶を集めている小さな棚が置かれている。
主人「おい、クォーツ。辛さはどうするって?それとも今日はカレーじゃないのか?」
どうやらクォーツはこの店の常連らしく、いつもカレーを食べている様だ・・・、とペプリは思っていていると。
クォーツ「3番のロースカツ、唐辛子と飯マシマシ。福神漬け多めで。」
主人「あいよ、隣の姉ちゃんは辛さはどうする?」
ペプリ「えっ・・・?」
調理場の上に大きなメニュー表らしき物が掲示されている。どうやら主人が「辛さ」を聞いた時に某有名ラーメン屋みたくメインとなるカレーの注文の詳細を全て伝える事になっているらしい。サイドメニューも充実していて気持ち程度だが少な目に作られているのでセットで食べる神々が多い様だ。カレーだけ食べたいなら量を増やせばいい。
王女は一先ず見様見真似でゆっくりと注文してみる事にした。
ペプリ「えっと・・・、8番のウインナーフライ・・・、飯・・・、マシ・・・。ポテトサラダ・・・、1つ。」
主人「姉ちゃん、許可証は?」
ペプリ「許可証?」
改めてメニュー表を見てみるとどうやら最初の番号がカレーの辛さの事らしく、6番以上は5番を食べた客に店主が発行する「許可証」が無いと注文出来ないシステムになっている様だ。スパイスに拘っているので6番以上はなかなか作れないが故にそうしているとの事。
ペプリ「ごめんなさい、とりあえず5番で。」
主人「5番でも結構辛いけど良いのかい?それに見た感じ華奢みたいだから飯マシでポテトサラダを付けたら食べ切れないんじゃないの?」
ペプリ「辛いの好きなので平気です。それとポテトサラダは山ほど食べても足りない位大好きなんです。」
主人「ははは・・・、そうか。疑って悪かったな、お詫びにポテトサラダはおまけさせてもらうよ!!好きな所座りな!!」
店内を見回すと調理場の傍にカウンターが15席とテーブルが8卓ほど設置されている、主人の他に数人のエルフがホールを担当して店を回している様だ。空になった皿を見るに全ての客がカレーを注文して美味しそうに食べている。2人は奥のテーブル席を選んで座った。
クォーツ「ここはこの国で有名な食堂でね、俺なんか週1でカレーを食いに来るんだぜ。」
ペプリ「他の料理だけ食べたい人もいるんじゃないの?」
クォーツ「おいおい、店に入る前に店名を見なかったのか?」
ペプリ「へ?後で見てみる。」
2人が談笑していると、注文したものがやって来た。料理を運ぶエルフはどこか楽しそうだ。
エルフ「お待たせしました、先ずはクォーツさんのやつね。それとお姉ちゃんが・・・、こっち。ウインナーフライはおまけしといたって。」
クォーツ「こらこら、私が姉なんだぞ。」
エルフ「冗談よ、ポテトサラダちょっと待ってね。」
頬を膨らせる古龍を横目に運ばれたカレーを眺める王女。鉄製の皿に盛られたカレーのルーは何処か懐かしさを感じさせる明るめの黄色で、上に乗ったウインナーフライは赤いウインナーをフライにしている様だ。カレーに合う様にご飯は少し硬めに炊かれている。
クォーツ「因みにご飯はサフランライスやナンに変更できるからな。おっ・・・、ポテトサラダが来たみたいだぞ。ただお前、よっぽどな位にマスターに気に入られたみたいだな。」
ペプリ「へ?」
エルフ「お・・・、お待たせしました。ポテトサラダ・・・、マスターの気持ち盛りです。」
ドスンという大きな音を立て、深めのボウルいっぱいに盛られたポテトサラダが置かれた。今にも崩れ落ちそうな位の山盛りになっている。頂上に爪楊枝で旗の様にメモが刺さっていた。「好きなだけお代わりしても良いからな(笑)」と書かれている。
取り敢えずカレーを1口、スパイスの香りと優しい見た目と反する位の強烈な辛さが口いっぱいに広がり白飯を誘っていく。美味そうに、そして幸せそうに食べるペプリを見かけた主人がかなり嬉しそうな顔をしていた。
主人は女子に甘い。