105
王女の望みとは。
-105 神の帰還と王女の訪問-
2人が午後の優雅な紅茶タイムを楽しんでいた頃、王女を背に乗せた古龍は何としてでも謝罪をしたいと思っていたので空を飛ぶ以外に何かしたい事は無いかと尋ねてみた。
ペプリ「うーん・・・、やっぱりカレーが食べたいかな。」
相も変わらずだが、一国の王族が全員カレー好きとは変わっているとクォーツは思った。これは彼女の勝手なイメージなのだが王族は毎日絢爛豪華なフルコースを食べている様な、正直たかがカレーにそれを越える何があるのだろうかと。ただ、カレーとカレーが大好きな全人類に失礼なのだが。
クォーツ「本当にお前はカレーが好きなんだな、会う度いつもカレーじゃないか。」
ペプリ「だって・・・、王宮の食堂のシェフが作ってくれないんだもん。」
王宮では毎朝シェフが市場に通い、自らの目利きで拘った食材を使った豪華で美味しい料理をじっくりと楽しんでほしいと張り切ってフルコースを作るのだが、その中にカレーライスどころか米料理は含まれていない。理由は非常にシンプルで外界出身のシェフの地元では米文化が発達しておらず、余り食べた事が無い食材で料理は出来ないとの事なのだ。
ある日王宮をこそこそと抜け出し自由に街を散策していた時、そこら中のお店というお店から芳しいスパイスの匂いに誘われたまたま入ったお店で初めて食べたシンプルな見た目のカレーライスの味を忘れる事が出来ずに今に至る。ただ、何処のお店かを思い出すことが出来ない。
今でもあの味にもう一度会いたいと一人で王宮からこっそりと抜け出して色んなお店のカレーを食べに行くのだが、そのタイミングが家族と被って結局目立ってしまい、懐かしの味を見つけ出すまでに至らずに終わる。
クォーツ「よし、今回は私のおすすめのお店を紹介しよう。お前の言う懐かしの味かどうか分からないが俺の大好きなお店だ。少し遠くまで行くが大丈夫か?」
ペプリ「平気、楽しいから良い。クォーツ姉ちゃんの好きなカレー楽しみ。」
クォーツは翼を大きく広げ、雲の上に向かって勢いよく飛んでいった。雲の合間を縫って一面真っ青な空の世界に抜け出して暫く飛んでいくと、大きな島のような物が浮かんでいるのが見えた。ペプリを乗せたクォーツはその島の先端に降り立ち、王女を降ろして人の姿に戻ると歩きながら案内を始めた。まず最初に街の入り口らしき場所へと向かう、そこでは国境検問所の様に人々が並んでおり順番を待っている。
ペプリ「ここは何処?」
クォーツ「あはは・・・、後で分かるさ。」
2人の番になるとクォーツは懐から何かのカードらしき物と財布を取り出した。
係員「パスポートのご提示をお願い致します。」
クォーツ「ああ、これね。」
係員「ありがとうございます、それでお連れの方は?」
クォーツが財布から2千円を出して渡す。
クォーツ「地上からの訪問者だ、観光ビザの発行を頼む。」
係員「ではお嬢さん、お名前と今回の訪問の目的をお伺い出来ますか?」
ペプリ「美味しいカレーがあると案内されて来ました、ペプリと言います。」
係員「カレーねぇ・・・、という事はあそこですか?」
クォーツ「流石、やっぱり分かる人は分かるんだね。」
係員「この辺りでは有名ですから。お嬢さん、これがビザです、是非楽しんで下さい。」
係員の柔らかな笑顔で送り出されると、2人は街へと入って行った。ネフェテルサ王国の様な石畳の街並みが広がり、左右には色鮮やかな建物が並んでいる。所々から空へと向かって虹が伸びていた。何処からか賑やかな音楽が聞こえてくる。右往左往する人々には天使の輪や翼を持った者達もいれば、獣人族や人間等が地上と変わらずいて、種族の境など関係なく楽しそうに過ごしている。
クォーツ「ようこそ、天界・グランツァマリアへ。ここは八百万の神々が集う賑やかな国だ、俺の生まれ故郷の国でもある。さて、美味しいカレーを食べに行こうかね。」
ペプリ「神様もカレーを食べるの?」
クォーツ「勿論、あたしらもカレーが大好きなんだ。」
2人はゆっくりと歩を進めていき、街中から少し裏路地に入った所にある小さな食堂へと到着した。店の中からうどんの出汁や、ラーメンのスープに混じり、少し優しく芳しいスパイスの匂いがする。店の中に入って行くと、店の主人が威勢の良い声で出迎えた。
主人「いらっしゃい、辛さはどうする?」
神が愛するカレーとは。