氷原の魔狼
「何処にいるのよ、クソ狼は!」
そう叫んだ瞬間、後ろから足音が聞こえてきた。振り返るとそこには、私を睨み付ける金髪碧眼の老女がいた。
「ミメットよ、まだ氷狼エネストは見つからないのか?」
老女は男と女の声が重なるような声で言った。
「我が本体から仮初の生命を得た、タダの布切れが元聖女の身体を乗っ取ったぐらいで命令かい!」
私は苛立ちを覚えながらも答える。すると、老女は私の胸ぐらを掴んだ。
そして、顔を近づける。
その瞳には怒りの色が見える。
だが、すぐに手を離した。
彼女はため息をつく。
どうやら、諦めたようだ。
しかし、今度は彼女の方から話しかけてくる。
「まだ、このマチルダの身体がこの聖衣と融合しなくてね……ザルガネスにもらった生命が定着しないだよ。」
私は少し驚いた表情を浮かべてみせる。
そんなことは初耳だったからだ。
それにしても、何故そこまでしてあの氷狼必要としているんだろう? 私は疑問を抱いたまま話を聞いていた。
話を聞き終えてから私は口を開く。
まず、気になっていたことを質問する。
何故、ザルガネス様はこの女に協力しているのか?だ。
すると、彼女は答えてくれた。
曰く、ザルガネス様の目的は世界の神に成ることらしい。
その為に必要なのが、氷狼の力なのだそうだ。
だから、協力をしているとのことだ。
次に私が抱いた感情は嫌悪感であった。
あんな奴に協力するなんてどうかしている! そう思ったのだ。
でも、同時にこうも思っていた。
もし、自分が世界の神になったら……。
そこで思考を止める。
これ以上考えると戻れなくなる気がしたからだ。
なので、話題を変えることにした。
今の状況について聞いてみたのだ。
すると、彼女からは予想通りの返事があった。
それは、氷狼がまだ見つかってないことへの不満の言葉だった。
それを聞いて私は思わず笑ってしまった。
だって、見つかるわけがないと思ったから。
あの氷狼はもうこの氷原にはいない。
いるとしたら、きっと別の所だろう。
だけど、それを言うつもりはなかった。
言えば彼女がまた怒ってしまうかもしれないから。
それからしばらく彼女と会話をした。
内容は他愛もないことだったけど、楽しかった。
まるで友達と話しているようだったから。
ただ一つだけ心残りがあるとすれば、彼女に自分の正体を打ち明けられなかったことだろうか。
打ち明けたら嫌われてしまうのではないかと思ってしまったからだ。
だから、言わなかった。
でも、いつか言おうと思っている。
その時まで待っていて欲しいと思う。
そうすれば、もっと仲良くなれるはずだから。
私達は親友になれるはず......頭が.....痛い....時間が.....。
ミメットは、頭を抱え込みのたうち回る。
その様子を見た老女は心配そうな顔をしながら駆け寄ろうとする。
しかし、途中で足を止めた。
何故なら、ミメットの全身が凍り始めていたからである。
老女はその光景を見て驚愕していた。
だが、すぐに冷静さを取り戻し、ミメットに声をかける。
しかしミメットは全身が完全に凍結しており声をかけることはできなかった。
それでも老女は必死になって呼びかけ続けた。
やがてミメットは完全に氷像となったが、ミメットの影から氷狼エネスト飛び出しミメットの下半身を飲み込もうとした。
しかし、その前に氷狼は跡形もなく消えてしまった。
それと同時に氷漬けとなっていたミメットも元に戻った。
だが、様子がおかしい。
目は虚ろで焦点があっておらず、口から泡を吹き出している。
明らかに異常な状態だとわかる。
ミメットの精神世界では、ミメットと氷狼エネストが向かい合いながら対峙している。
そして、先に口を開いたのは氷狼の方だった。
氷狼はミメットに対して、問いかける。
何故、我を取り込んだのか?と。
それに対して、ミメットは何も答えない。
ただただ黙って俯いているだけだ。
氷狼はそれを見ると激昂した口調で、
「ザルガネスの影から生まれた魂無き人形風情が!」と言い放つ。
すると、今まで何も喋らなかったミメットが初めて口を開く。
「うるさいわね……あんたこそ何様な訳?たかだかケダモノじゃない!」と言って嘲笑うかのように笑う。
「貴様……!」
「あら、図星を突かれて怒ったのかしら?」
「ふざけるな!」
「ふざけてなんかいないわよ。」
そう言って彼女は再び笑い出す。
氷狼の怒りはさらに増していく。
「殺す……絶対に殺してやるぞ!小娘ェッ!!」
「やってみなさいよ……クソ狼ィ!!!」
氷狼は再び氷塊を出現させ、射出する。
対するミメットも同様に氷柱を生み出し、発射させる。
2つの攻撃が激しくぶつかり合う。
そのうち、互いが互いを取り込もうとし始め、2人の精神は混ざり合っていく。
しばらくして、氷狼とミメットの姿は無くなっていた。
そこには、氷狼の形をした氷像が立っているだけだった。
氷狼は氷像の中で意識を取り戻した。
しかし、すぐに異変に気付く。目線が高くなったので、自分の身体を確認する。
すると、自分の肉体が変化していた。
氷狼の身体に人間の女性の上半身がくっついているような姿になっているのだ。
氷狼は自分の姿を確認してから、辺りを見回す。
すると、近くに氷でできた巨大な鏡が置いてあることに気が付く。
氷狼は興味本位でその鏡に近づいていく。
その瞬間、背後から誰かが抱きついてきた。
「私も融合させてもらいましょうかね。」
氷狼の身体と一つになろうと密着している部分をさらに強く押し付けてくる。
氷狼は抵抗しようとするが、力が入らない。
どうやら、先程の戦闘でのダメージが残っているようだ。
そうこうしているうちに、半分くらい取り込まれかけるが身体を凍らせ強制的に分離する。
その後、氷狼は女性に向かって飛びかかる。
女性は咄嵯に反応して回避するが、オオカミの下半身の攻撃は躱せないようだった。
「エラク、簡単に私と一つにはさせないわ。」
氷狼は、エラクと言われた女性にきつく睨みつけながら言った。
しかし、エラクは余裕の表情を浮かべている。
それが、余計に腹立たしかった。
そこで、氷狼はあることを思い付いた。勇者を取り込めば強くなれるのではないかと考えたのだ。
なので、早速行動に移す。まずは目の前にいるエラクを捕まえようとする。
だが、あっさり避けられてしまう。そこで、氷狼は氷の壁を作り出し、逃げ道を塞ぐことにした。
だが、それも無駄に終わる。
何故なら、壁は一瞬にして溶けてしまったからだ。
氷狼は、そこで初めて焦りを覚えた。
このままでは負けるかもしれないと思ったからだ。
なので、全力で戦うことにした。
氷狼は、まず最初に氷柱を大量に生み出し、それを一斉に飛ばす。
だが、その全てが溶かされてしまった。
次に攻撃を加えようと接近を試みる。
だが、氷狼が近づくよりも早く、エラクの拳が飛んでくる。
氷狼はそれを何とか避けるが、避けきれず頬を掠めてしまう。
そこからは一方的だった。
一方的に殴られ続ける。
反撃しようにも、近づけない。
そうしている間に、どんどん追い詰められていく。
氷狼の心は折れかけていた。
もうダメだと思ったその時、エラクが攻撃の手を緩めてくれた。
何故だろうと疑問を抱いていると、突然、エラクが提案を持ち掛けてきた。
「あんたは、ミメットか氷狼どっちかの意思がメインか知らないけど、ここで休戦にしないかい?」
それを聞いた時、氷狼は驚いた。
何故なら、敵であるはずの相手からの申し出だったから。
だが、氷狼は迷わず了承した。
理由は単純。
今は、少しでも強くなりたいから。
こうして、氷狼はミメットの人格をメインとし、一時的に手を組むことになった。
ミメットは、氷狼の身体を手に入れてからというものの、やりたい放題であった。
そのせいで、氷原の生態系は大きく変わってしまった。
例えば、氷狼と氷熊が争っているところに乱入したり、他にも様々な場所で問題を起こしている。
「待っていなさい勇者、私が取り込んであげるから。」
ミメットは、勇者レイモンドを取り込むべく動くのであった。




