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蒼き疾風のローレン

ローレン、その名は草原の遊牧民全てを総べる王者に受け継がれる名前であり、遊牧民達が住む草原の名前であり、その国の首都の名でもある。

そしてその名前を告げた瞬間、この場にいる全員が息を飲み……そして理解した。

「つまり貴方があの伝説の『草原の王』なのね」

「ああ、そうだ」

俺の言葉に全員が大きく目を見開き、ざわめきが広がっていく。

俺はそんな彼らの反応を見て、少しだけ満足感を得た。………………門番相手に少し息巻いているのは、

俺が手に持つ槍と共に死んだ父から受け継いだばかりだからだ。

しかし、今はそれよりも大事なことがある。

「それで、カイン殿はどこにいる?」

「……カイン様はこの聖宮ディナールの奥にある見晴らしの塔にいらっしゃいます」

そう言って彼は背後を振り返ると、先程までいた場所とはまた別の方角を指し示す。

どうやらあちらに塔があるらしい。

「では案内してくれないか?」

「はい!もちろんです!」…………………………

聖宮内部は外観よりも遥かに広く感じられた。

それはおそらく建物内部の壁全てが純白で統一されているせいだろう。

通路の床も天井も柱も何もかもが白い大理石のようなもので出来ており、まるで巨大な神殿の中にでも迷い込んだような気分になる。まあ、この聖宮ディナールに関しては間違いではないのだが、そもそも此処は7大神の1柱が1人、神妃マリアージュの居所なのだから、ある意味この場所こそが神の住まう聖域と言えるかもしれない。

そしてそんな神聖な場所に、今俺は2人の衛兵を伴って足を踏み入れているわけだが……。

「おい貴様!そこで止まれ!!」……早速、行く手を阻む者が現れたようだ。

しかし、それも仕方のない事だと思う。

突然現れて、しかも聖宮に入る許可を求めてきたのだ。

こんな状況で警戒するなという方が無理というものだろう。

「…………」……だが、俺はそんな相手の呼びかけを無視して前へ歩を進める。……当然、それを黙って見逃すほど彼等も甘くはなかった。

「貴様ぁ!!聞こえんのか!?そこを動くなと言っている!!」

そう怒鳴りながら剣を抜き放つと、こちらに向かって駆け寄ってくる。

それを見た他の衛兵達も慌てて武器を構えた。……このまま放っておけば斬りかかってくる可能性もあるか。

「…………」ならば、こちらも相応の対応をするべきだな。

そう考えて、手にしていた槍を構えようとした時だった。

「待ってください!」

横合いから聞き覚えのある声が上がった。

そちらを見ると、そこには予想通りの人物の姿があった。……確か彼は昨日出会ったばかりの導師で名前はアベルと言っただろうか? 見た目は仮面を被っているので怪しが、其なりの地位にいるらしく兵士は彼に向き直ると彼は真剣な表情を浮かべたまま俺達の方に近づいてきた。

「お願いします!どうか剣を収めてください!」

「し、しかしですね……」

「いいんです!彼が悪いことをしたわけではないのですから!」……どうやら話を聞く限り、俺のことを庇ってくれているようだ。

その事実に内心驚きながらも、彼の行動に感謝して口を開く。

「ありがとうございます。おかげで助かりました」

「いえ、礼には及びませんよ。僕はただ自分の信じる道に従っただけですから」……どうやらかなり好青年な性格をしているらしい。

見た目だけでなく内面までもがイケメンだとは恐れ入った。

そんなことを考えていた俺に、今度はアベルの方から話しかけてくる。

「それにしてもまさか貴方が草原の王だったなんて思いもしませんでした。一体いつから気づいていたのですか?」

「確信したのはついさっきだよ。だけど最初から薄々感ずいてはいたかな?」

そう答えた後、少し間を置いて続ける。

「何せ、あの『英雄王』の子孫だからね」

「……なるほど、そういうことですか」

納得がいったように呟くと、彼は小さく微笑みながら俺の顔を見つめる。

「確かに貴方なら『英雄王』の後継者に相応しいかもしれませんね」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

それからしばらくの間、お互いに笑い合っていると……ふいに後ろの兵士達がざわつき始めた。

振り返ってみると、彼等は何故か驚いたような顔をしながらアベルのことを見つめている。

「ど、どうしました?」

「あ、いえ!なんでもありません!」

慌てた様子で首を左右に振ると、彼等はそそくさとその場から離れていった。……どうやら俺が思っていた以上に彼は有名人のようだ。

そんな風に考えていると、今度は前方の扉がゆっくりと開かれていく。

どうやら目的地に到着したらしい。………………

塔の内部は外壁と同じく真っ白に装飾されており、床や壁際には螺旋状の階段が設けられていた。

おそらくこの塔の最上階まで続いているのだろう。……だが今はそれよりも重要なことがある。

「カイン殿は何処にいる?」

「あちらの部屋の中にいらっしゃいます」

彼は背後にある部屋の中を指し示すと、そのまま立ち去ろうとするが、俺はそれを呼び止める。

「待ってくれ。できれば貴方にも同席してほしいんだが」

「僕が……ですか?」

「ああ、そうだ」

「しかし、何故でしょうか?僕の役目はあくまで案内のみですので……」

「もちろんタダでとは言わない。後で報酬はf払うつもりだ」

「……わかりました。では、ご一緒させていただきます」……どうやら交渉は成立したらしい。俺は内心安堵しながら部屋へと入る。

そこは窓の無い殺風景な空間だったが、中央にポツンと置かれた机とその奥に見える椅子だけが妙に目立っていた。そして、その椅子に座っている人物を見て俺は思わず息を飲む。……そこに座っていたのは眼光の鋭い30代の白を基調とした豪奢な法衣を着た男だった。

おそらく彼がこの国の教皇であるカイン・オースティアだろう。

だが、俺はその男の姿を見て、どこか違和感のようなものを覚えずにはいられなかった。……理由はわからない。しかし、直感的に何かが違うと感じたのだ。

すると、こちらの存在に気付いたのか、男が視線を向けてきた。

「カイン兄さん、私に影武者をさせて

何を遊んでるのですか?」

「………………えっ?」……一瞬、目の前の男が何を言い出したのか理解できなかった。

「……か、影武者?」

「はい、そうですよ。私は教皇カインの身代わりとしてここに居るのです」

そう言って男は笑みを浮かべるが、俺は未だに状況が飲み込めなかった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!どういうことだ!?」

「……?どうかされたんですか?」

不思議そうな顔をする男を前に、俺は必死になって考えを巡らせる。……先程の衛兵達の態度、あれは明らかにおかしかった。まるで目の前の人物が偽物だと知っているかのような……。

そこまで考えて、ようやく気づくことができた。……もしかすると、この国は既に……。

そんなことを考えていると、隣にいたアベルが小声で耳打ちしてくる。

「すみません、騙すような真似をしてしまって……。実は昨日の晩、彼に頼んで貴方のことを調べてもらったんですよ。……その結果、貴方が草原の王であることは間違いないとわかったのですが、念のために本人かどうか確認したかったんです」

「……」

「それで、どうやら本物のようですね。疑うような真似をして申し訳ありませんでした」

そう言うと、彼は深々と頭を下げた。

「いや、謝るのはこっちの方だよ。こちらこそ紛らわしいことをして悪かった」

「いえいえ、気にしないでください。……ところで、一つ聞いてもいいですか?」

「ん?なんだ?」

「どうして貴方はこの国に来られたのですか?」

「それは……ある人に頼まれてね。詳しいことは言えないが、まぁ色々あってこの国に来たというわけさ」

「なるほど、そういうことだったのですか」

そう言うとアベルは仮面を外すと影武者のいる歩みを進める。

「初めまして、私が教皇カインといいます。以後、お見知りおきを」

「これは丁寧にありがとうございます。私の名は私は父から王位を継承したローレン4世と申します」

互いに自己紹介を終えると、はおもむろに口を開く。

「単刀直入に言いましょう。我が国に支援を求めてやってきたということですが……」

そこで一度言葉を区切ると、彼は真剣な表情で俺の顔を見つめる。

おそらく俺が次に何を言うのか予想しているのだろう。

だが、俺は敢えて自分の言葉で伝えることにした。

それが俺なりの誠意の示し方だと思ったからだ。

そして、俺はゆっくりとその言葉を口にする。

―――助けてください、と。………………

俺の言葉を聞いたカインは小さく微笑むと小さく首肯する。

どうやら協力してくれるようだ。

ホッと胸を撫で下ろしていると、カインは続けてこんなことを聞いてきた。

―……で、具体的にどんな援助を求めているのかね? その質問に対して、俺は正直に答えることにする。

もちろん、全てを話すわけではないが、嘘偽りなく答えなければ信頼を得ることなどできないだろう。

それから俺は自分がこの国で成すことを包み隠さず話していった。

最初は無言のまま聞いていた彼だったが、話が終わる頃にはどこか納得がいったように何度も深く相槌を打っていた。

「……話はわかりました。つまり貴方の目的は先代のローレンを殺した者を探すことなのですか?」

俺はカイン殿の言葉に続く言葉を口に出すことが出来なかった

「しかし、仮に貴方の言っていることが本当だったとしても、我々には貴方の手助けをすることは出来ないでしょう」

「……理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「簡単なことです。我々は自国の民を守るだけで手一杯なのです。他国の人間を助ける余裕なんてありませんよ」

「教皇様お言葉を妨げるような事をしますがよろしいでしょうか?」

「構わない。言ってみたまえ」

「はい、それでは語らせていただきます、我らパイノーグは先の天命の義を執り行った際に神徒ザルガネスの襲撃に会いました。神徒ザルガネスはとても強く教皇様も生命に関わるような怪我を負われておりました。その時に教皇様に治癒魔法を施してくれたのがこの国の聖女であるミューラーにより一命をとりとめたのですが、もしかすると神徒ザルガネスは13昴騎士を狙い襲撃をしてきています。ですので、貴方達もこの国を出る際には十分注意されたほうがいいと思います」

ローハンはそう言うと、再び深々と頭を下げる。……確かに彼の言う通りかもしれない。

今はまだ何とかなってはいるが、このまま放っておくわけにもいかない。

それに力が欲しい、誰にも負けない力が……。

だから、俺は決意を新たにする。

例えそれが茨の道だったとしても、必ず成し遂げてみせる。

俺がそう考えていると、不意にカインが話しかけてきた。

「……一つ提案があるのですが、我が国から勇者と聖女が旅に出ます、彼らは旅先で新たな力を得ることを目的としています、ローレン殿も一緒に行かれてみては?」「……勇者と……聖女?……そ、それはどういう意味ですか!?」

「言葉の通りですよ。実はこの国でも先日、新たに神器に認められた者が生まれましたので。……おっと、失礼しました。まだ名前も名乗っておりませんでしたね。私の名はローソン・エイブラと言います。以後、よろしくお願い致します」

「あ、ああ……こちらこそ」

「それで、どうされますか?彼らの後を追うか、それともこの国に残られるか……」

「……行きたい!俺をその二人のところに連れていって欲しい!」

「わかりました。それでは準備ができ次第、出発するとしましょう」

こうして俺はカインと共に旅立つことになった。……そして、この時俺はまだ知らなかったんだ。

これから待ち受ける試練の数々を……。

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