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平凡な渡り鳥は気づかない  作者: 良心の欠片
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9 赤い獅子

 御機嫌よう朝日。そしてお休みなさい。

「だめですよ、あい様。今日からレッスンがおありでしょう」

 メイドさんにたたき…ゲホゲホ優しく起こされる。布団を奪い去るだなんて、寝汚い私の扱いになかなか慣れてきたようだ。


「本日からダンスレッスンですね。羨ましいですわ~」

 メイドさんが持ってきてくれた水で顔を洗っていると、ふいにそう言われる。

 いやいや、なんで羨ましいなんて世迷言が…。

()()()がわざわざレッスンをしに来て下さるなんて」

 いやあの方って誰?嫌な予感しかしない。

「あの方って誰ですか?」

 聞かない方がいいと知りながらも、思わず聞いてしまう。

 見ない方がいいと知りながらも、恋人の携帯を見てしまったような気分だ。

 まっ、恋人なんていたことないけど。あっ目から汗が。

「あら、そういえばあい様は遠くからいらしたのですよね」

 なるほど、セイはそう説明したのか。

 まあ、異世界からきたよりは断然説得力がある。その設定で今後はいかせてもらおう。

「はい、そうですね」

 素知らぬ顔で嘘をつく。

 いや、これは嘘ではなく日常を円滑にするための配慮…と思い込んでおこう。

「それじゃあ、あの方を知らないのも無理はありませんね。あの方は……。いえ会ってからのお楽しみにしておきましょうか」

 なんて茶目っ気のあるメイドさんなんだ。言いかけてやめるのが一番健康に悪いことなのを知っててやってるのだろうか。そうならもう小悪魔としか言いようがない。

「ではお着替えが終わったら呼んでください」

 こちらのもの言いたげな視線は華麗にスルーし、メイドさんは部屋を出ていった。



 着替え終わった私は、メイドさんに連れられて食堂に来た。

「おはよう、あい。元気そうだな」

 すでに食堂の席に座っていたセイが、笑顔で挨拶してくる。

 一体誰のせいで、今日から苦労することになるか知っているだろうに。

「ええ、元気なおかげで今日からダンスレッスンが開始されますよ」

 げっそりした顔で答えるが、セイは楽しそうにしている。

「まあ、頑張れよ。俺たちパートナー兼運命共同体だろう?舞踏会でもそれを見せつけてやろうぜ。ダンスでな」

 久しぶりに聞いたな、運命共同体。

 これはもう道連れという手段しかないか…。

「ちなみにダンスで失敗しても、俺の世間での評価は下がらないぞ」

 なにっ、打つ手なし!

「まあ、お前さんの評価も下がらんよ」

 フォローされても特に嬉しいと感じないな。


ガチャ

「失礼します」

 そうこうしていると、朝食が運ばれてきた。そのまま食事へうつった。



「ごちそうさまでした」

 そう言って席を立とうとすると、セイに執務室へ来るよう言われた。

 一旦自室へ帰り歯を磨いた後、セイのもとへ訪れた。




「急にどうしたんですか?」

 不思議に思い、そう尋ねる。セイは執務室の自分の席へ座っている。

「まあ、お前のレッスンの先生についてだ」

 どこか居心地悪そうに言うセイに、さらに訳がわからなくなる。

「今日の朝もメイドさんが()()()とか言ってましたけど」

 あいから目を逸らし続けるセイは言う。

「なんというか…、まあ悪い奴じゃあないんだがな。些か面倒な奴というか、そもそもあいつはダンス教えられるほど暇じゃないだろうというか…」


 ここまでしどろもどろになるセイは初めて見た。

 よっぽど私のダンスの先生となる人が苦手なんだろう。

 その人と結託できればセイをけちょんけちょんにできるのではないかという期待と、これほどまでセイが苦手に思っている人物なんて大丈夫なのかという不安が1:9だ。圧倒的に不安だ。

「その…大丈夫なんですか」

 あまりの不穏さに聞いてしまう。


「………、大丈夫だろう」

 いや沈黙。あと、だろうっていう仮定形で言うのやめて。せめて断定して。

「問題ない。多少、いやかなりクセが強いだけだ」

「なるほど。問題しかないと」

 いやクセってなんだ、クセって。やばそうな雰囲気しかしない。

「まあ、会えばわかる」

 心なしか疲れた顔をしたセイ。

 とりあえず、得られるだけの情報を得ようと()()()について尋ねる。

「先にその人の名前を」



バンッ

 急に執務室の扉が開け放たれる。

「来た…」

 諦めた顔のセイと開け放った扉に立つ人物。

「やあセイ!元気だったか!」

 あ、暑苦しい。

 その人物はとにかく熱いという言葉が似合った。褐色の肌に、髪は燃え盛るような赤、瞳は空を思わせる蒼。砂漠が似合う異国の雰囲気を醸しだしている。

「ここにオレの教え子になる子がいるんだってな!」

 爽やかな表情だが、生来の野性的な顔立ちのせいで猛獣を思わせる。

 何をしても威圧感がありそうな顔だ。

「レオン。ドアはノックしてから入るものだ」

 め、珍しくセイがツッコミにまわっている。

 これはやはり強者。

 あと名前はレオンというらしい。なんだか顔立ちと相まってライオンのような印象を受ける。

「ん?こちらがその子か?小さいな~、舞踏会に出られるのかい?」

 心配そうにあいを見るレオン。

 セイのツッコミは完全にスルーだ。

「これでも19歳だそうだ。問題ない」

 レオンの話を聞かないことには慣れているのだろう。そのまま会話が続く。

「へぇ~、そうなのか。ではレディ、お名前を伺っても?」

 急に私の方に水をむけてきた。

 そういえば、勢いに圧倒されて一言も話せてなかった。

「あいです」

 簡潔に答える。

 この人と長く話せる自信がない。

「そう、あいというんだね。これからよろしく!」

チュ

 レオンはそう言って、手の甲にキスをしてくる。

「!?」

 風貌からは想像できないくらいの紳士さに驚く。むしろセイの方が紳士的なのが似合う。あくまで容姿だけで判断すれば、だけど。中身は紳士とは真逆だ。

「あい、今俺の悪口を言ってただろ」

 セイが半目でこちらを見てくる。

 私は素知らぬふりを通す。

「…、ははっ!本当に仲が良いんだな。クリスから聞いてはいたが、実際に目にしてみるとよりわかったよ」

 あまりにも好意的な反応に、私はそっと目を逸らす。なるほど、これはセイが苦手に思うのも無理はない。私も苦手だ。勢いがあり過ぎる。

「はあ。そんなことよりなぜここに来た。授業は午後からだっただろう」

 セイは頭痛がするかのように眉間に手をあて、レオンに質問する。

「ああ、オレの教え子に挨拶をと思ってな!」

 律儀だ。でも、正直嬉しくない律儀さ。

 挨拶だけでこんなに体力を削られるのなら、もう少し出会うのを先送りにしておきたかった。

「さあ二人とも、こちらにかけて話そう!」

 まるでこの執務室の主かのように、ソファに座るよう勧めてくる赤髪の獅子。

 セイに視線を送ると横に首を振ってきた。

 諦めて言うとおりにしろ、という意味だろう。



「さて!あいはセイと会ってまだそんなに経っていないんだろう?こいつの昔話でもしてあげよう!」

 とても元気なレオンは、どうやらセイに関する情報をくれるらしい。

 私以外からみたセイの姿がどうなっているのか正直気になる。

 しかし、暴露される本人はどう思っているのかとセイに目を向ける。


「……」

 あ、寝てる。諦めの最終形態みたいな感じかな。寝てやり過ごすらしい。

「レオンさんはセイさんと付き合いが長いんですか?」

 本人が黙認しているため、喜々として情報を聞き出す。

「ああ!幼いころからの付き合いだ。所謂幼馴染ってやつだね!」

 わあ、幼馴染だったのか。確かクリスさんもセイと幼馴染だったような。

「あとここの執事のクリスとも幼馴染だよ」

 なるほど。

 この面子の濃い二人に、クリスさんは挟まれていたということか。

 アーメン。

「それにしても、昔からセイは酷かった酷かった」

「どういうところがですか?」

「ずる賢いやつだったんだよ!いや、策略家といってもいいか」

 どうやら昔から賢かったらしい。

「学園に通ってた頃に、こいつの見た目に惑わされた奴らが侮って喧嘩を売ったんだ。そしたら、数日後にはそいつらは学園から消えていた。明らかにセイがやったはずなのに証拠も残ってない。あとでこいつ自身に本当のことを教えてもらったんだ。内容は…、まあレディに聞かせるものじゃないな」

「……」

 こ、こわー。ほんとに怒らせないようにしよう。

 今は表面上うまく付き合ってるけど、本当は冷戦状態みたいなものだ。いつぶつかり合うかわからない。現状、つかず離れずがベストか。

「そ、そうですか。学園ではお二人はどうだったんですか?」

 話題を変えよう。これ以上は心臓に悪い。

「ああ、オレたちは」


コンコン 

ガチャ

「こんにちは、レオン様」

 クリスがお茶を持って入ってくる。

「おお!クリス、久しぶりだな!」

「ええ、お久しぶりです。相変わらず突発的な行動が多いようで。うちの使用人たちが泣いていましたよ。レオン様を抑えられなかったと」

「ははは!悪いが押しいらせてもらったよ。ここは我が家同然だからいいだろう?」

 クリスは苦笑する。

「全く、こちらは急な訪問で驚いたんですよ?予定では午後からのレッスンではありませんでしたか」

「挨拶をしようと思ってね!」

 振り回されてる…。やっぱり苦労してきたんだ、クリスさん…。

「あい様、お茶をどうぞ」

 そう言ってクリスはあいの前に紅茶を出す。

「ありがとうございます。ところで、クリスさんは学園でのこのお二人の様子は知ってるんですか?」

 当時から振り回されたであろう彼からの意見は大変気になる。

「ふむ……、たしかお二人にはファンクラブがありましたね」

「詳しくお願いします」

「食いついてきますね」

 当たり前だ。元の世界の学校生活では、そんなものにお目にかかったことがないのだから食いつきもする。ファンクラブなんて現実の世界であるんだ。

「珍しかったので」

「そうですか、まあこの二人の場合は異例の事態でした」

「というと?」

「オレたちは双璧だったんだよ」

 今まで静かにお茶を飲んでいたレオンが口を開く。

「双璧、ですか?」

「ああ、学園ではオレ派かセイ派かで二分化されてたんだ。男女ともにね」

「男女ともに?!」

 すごすぎる。性別を無に帰すほどの美貌と才能が、二人にはあったのだろう。

 というより今もそれは健在か。

「そうだよ。でもあいちゃんは興味がないみたいだね」

「まあ、同じ人とは思えないですから。あとあいちゃんですか」

 急なちゃん付けに戸惑う。

「親しみをこめてね!まあ、そんな感じで学園時代を過ごしたんだ」

 ニコニコと笑うレオン。

「へぇ~、って待ってください。双璧ってなんですか。多分ファンクラブについての意味合いだけではないですよね」

 レオンはニヤッとする。

 一瞬だけセイと同じ香りを感じたが気のせいか。

「なかなか鋭いね~!そうだよ。実は双璧っていうあだ名はオレたちの武力にちなんでつけられたんだよ」

「ぶ、武力」

「そう、武力。オレたちは一人で」


 国一つを滅ぼせるんだよ








中途半端なところで終わってしまいました

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