隣の親より、遠くのメル友
「隣の親より、遠くのメル友」
ひとつ屋根の下で暮らしているのに、かれこれ10年、まともに話してもなければ顔も見てもいない。
中学生からだから、洋服も次第に大きくなり、風呂場にも髪の毛とは違う毛が落ちていたりした。
学校に行かないわりには、息子の情報量は豊富だ。
「ネットって便利ね」
一度、2階の息子の部屋のドアの前に、夕食を置きながら訊ねてみた。答えはなかったけれど、再びお膳を下げる時にボソッと、
「ネットよりも、お母さんが、ありがたいよ」と久し振りに声を出したような、喋りなれない発声詰まりのような声で、息子が囁いた。
ひとりでいるのではない。誰かと繋がっていることで、ちいさな部屋のなかの息子は、成長しているんだ。
おわり
*これはフィクションです。
「2016年8月2日」