96孤児院のクエストを受注する
白猫様に注意された翌日、3日連続は構わないとは言われたがギリギリまで追い込むことをするのも失礼だろうとダンジョンに行くのはやめておいた。
昨日すれ違った4人組の情報がないかを確認するためにギルドにも行ってみたが、特には何も無かった。ギルドマスターも何も言ってなかった。魅了されたわけではない。見れば分かる。
せっかくギルドに来たから何かクエストでも一つ受けることにした。属性魔法はやろうと思えばいつでも出来るが、クエストを受けるなら今しかない。練習は毎晩しているので今からするのももったいない、って気分になる。
依頼票を見ていてあまり誰も受けないのではないかという依頼を探してみる。どこのギルドにもそういうものはあるものだ。早速見つけたので受付まで持って行く。
受注は出来たけど、気分は複雑だ。
「ご主人、すねんといてくださいよ」
「うるせぇ」
「黒鬼って呼ばれたくらいで…」
「お前、黒鬼だぞ。こんなに純真そうな子どもに付けるにはあんまりじゃないか!」
受注のために受付へと依頼票を持って行った。受付の処理をしてきますねと席から後ろに引っ込んだら、対応していた男性と他の人たちの話し声が聞こえたのだ。
男「噂の黒鬼がこのクエストを受けるって持ってきたぞ」
女1「本当?どんな依頼?」
男「孤児院の手伝いだよ」
女1「あ~。いつもエスロンさんが受けてくれてるやつね」
男「なんか最近エスロンさんが来てないから誰も受けてなかったやつだ」
女2「そうそう。みんなあいつが受けるからって避けたもんね」
男「だからって受けるのが黒鬼って。なぁ?」
女2「そんなこと言ったらダメだよ。見かけは子どもなんだから」
男「お前、そんなこと言ってるけど知ってるか?あいつが持ち込んだ素材やら解体前の魔物の数!その日は他の冒険者の処理が回らなくなる寸前だったんだぞ」
女1「解体班は大変よねぇ」
男「よしっ!できた!さっさと黒鬼を派遣してしまおう」
女2「あれ?扉開いてない…?」
男「え…?じゃあ、今の会話…表に…?」
という会話が聞こえていた。出てきて対応してくれたのは女2の声の人だった。多少冷や汗は見えていたが、プロのスマイルを見せてもらった。
ギルドから出るときに後ろを振り返ったが、男は受付には出てきていなかった。
「黒鬼」
「色は見た目で、鬼はギルドへの所業ですね」
「解説されんでも分かるわ!」
「お。ツッコミ上手くなってきたんちゃいます?」
「もういいよ」
「そこは、もうええわ、って言ってもらわんと」
無視した。前世でもあったよ。お客さんにあだ名をつけるってやつ。それを聞いてしまったのに近い。っていうか前世の名前を忘れてるのに、こんなことは覚えてるのかよ!
そんなやり取りと、一人で落ち込んでいたら孤児院に到着していた。仕事は仕事だ。気持ちを入れ替えて取り組むとしよう。ヨウキはコレクションハウスに移動する。子どもにはリッチは見せられません。
中に入ると孤児院の院長さんが迎えてくれた。
「受けてくれてありがとうね。あなたは冒険者をやっているの?」
「そうです。ここでも王都の方でもギルドマスターから腕は認められています。向こうでも孤児院のお手伝いをしたことがあるので、ある程度のことは任せてください」
「そうなのね。うちにいる子たちでも年齢が変わらなさそうなのに」
「10歳ですけど、大丈夫ですよ。頼りになる相棒もいるので」
そういって頭の上のプルも紹介する。それから今回は幸丸も参加する。
「スライムは見たことあるけれど、この動物さんも?」
「プルと幸丸って言います。こいつらは賢いので言っていることは分かります。プルは子どもの遊び相手が得意です。絶対に怪我させません。幸丸は家事が得意なので、そのお手伝いであればこいつらもお手伝いさせてください」
「う~ん。まあギルドからの手紙にも信頼度が最上だし大丈夫かしらね。あなたは何ができるかしら?」
「買い出しから荷物運びまで何でもやりますよ!孤児院のお困りごと今日で全部解決します!」
☆ ★ ☆ ★ ☆
大物の買い出しから、庭の手入れ、危なくなっていた遊具の修理、昼食と準備と片付け、夕食の準備と様々なことを行った。
プルはしばらく出来ていなかった子どもの世話でイキイキと取り組んでいるし、喋ると問題あるから少し不便していたが幸丸も大人数の生活ではどんなものかを見ていたので良いデータが取れましたと喜んでいた。
パンダ姿で家事を手伝うものだから、かわいいものが 好きな女の子が幸丸と一緒に家事の手伝いをしていた。幸丸もジェスチャーで褒めていたので非常に人気だった。抱っこして離れなかった子もいたくらいだ。
することが無くなったので俺も最後は子どもたちとの遊びに参加していた。収納していた丸太を削って的を作ったので、的あてとして遊ぶように寄贈した。装飾として毛皮や鱗を付けておいたので、年長の子どもにもしもの時にあれをどこかに売れと言っておいた。
孤児院の院長も最初こそは心配されたが、帰るころには子どもたちも手懐けて様々な仕事をこなした俺に満足してくれた。
夕食も誘われたが、この街の美味しい店を巡りきってないので辞退した。それに幸丸に指示して孤児院にある材料で出来る食事にしたし、その上で食糧庫に子どもも喜ぶ肉とかをこっそり入れておいた。
孤児院の子どもが食べるグレードの安い肉なのは心苦しいが仕方ない。色々と仕込んだので、バレないうちにさっさと帰りたい。
どの仕込みも手伝いをしていた年長組には伝えてある。年少組にお腹いっぱい食べさせたいなら黙ってもらっておけと言ってある。
感謝するなら俺ではなく、いつも見守ってくれている孤児院の院長や大人たちに返すように伝えた。俺がもう一度は来れないと思ってほしい、だから俺を思い出して何かしたくなったら周りが笑顔になることをしてくれたらそれが一番のお礼になるからと言ってある。
真っ当に、心穏やかに生きる子供が増えてくれることを願うばかりである。俺もまだ子どもだけど。
「マスターはこういったクエストも行うのですね」
「魔物とはダンジョンでわざわざ戦うからね。採取系を最近はやってないかな。ステータス優先してるから」
「そうですか。今後のために大工系の仕事ももう一度確認しておきます」
「なんか危ないところあった?」
「今すぐではないですが、2年もすれば支障が出そうなところがありました。技術的にどこまで手を出してよいのか判断しづらく、補修は行っていません」
幸丸は機械だが、心苦しそうな声で話している。
「幸丸は優しいな。良いやつだと思うぞ」
「マスターの発言が理解できません」
「手を出さなかったのは、技術的におかしくなるからだろう?建築の様式とかどんな技術が適切かとか、あの船には木工なんて使われてない技術だから確認しようとしたんだろう?」
パンダの表情の変化は読みにくく、じっと見つめられている。ちなみに今は俺は抱っこして歩いているよ。
「ずっと一緒にいる俺ならともかく、次があるか分からないところに技術提供しすぎるとダメだと思ったんだろう?相手のことを思いやって行動する奴のことを優しい良いやつって言うんだぞ?」
「ありがとうございます」
そういうと顔をそらした。それはすごく人間みたいな仕草だぞ。言うのはダメな気がしたので、苦笑しておいた。
「戦闘のために開発された私ですが、マスターやプル先輩、ヨウキ先輩と一緒にいるとおかしな情報を感知して処理に手間取ります」
「ははは。最終的に反乱起こさないでくれたら何でも良いよ。困ったら相談しあおうぜ」
「了解です」
孤児院の夕食を辞退したのは、ダンジョン産の食材をメインに調理する店に予約しておいたからだ。個室だから全員が気にせずに食事できる。食べるのは俺とプルだけだけど。
魔牛の肉はどう調理してもうまかった。焼肉、ステーキ、テールスープ。香辛料も良いものを使っているが、それに合わせるように肉の旨味がお互いに引き出しあっていた。付け合わせのサラダも草原型や丘陵型の階層で収穫できるそうだ。急ぎ過ぎて見逃していた。俺も行くか悩むが、幸丸が行きたがったので次の休みに行くことが決定した。
そんな感じで、全員で会話しながら夕食を楽しく過ごした。
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