91死ぬことへの恐怖と生かすための呪い
「脅されて、やりたくもない悪事に無理矢理加担させられていたってのは分かったよ」
「言い訳にしか過ぎないわ。死刑でも受け入れるわ」
そんな毅然と言われても。許されないと分かっているから堂々と受け入れるのか。これだけ自らの罪を受け止められる器の持ち主はなかなかいないだろうな。境遇が悪かったとはいえ、惜しい人材だろうな。
「俺が裁きを下すわけではないけど…」
「あなたはユーシル村で活躍した黒髪の男の子なんでしょう?やると決めたら、この国を敵に回してでも有無を言わず実行するのではなくて?」
掴んでらっしゃるんですね。プルの中から睨みつけている男が知っていたら真っ先に攻撃されていそうなものだけど、それが無かったってことはこの人が上手く処理していたのかな。
話して感じたことは、為す術なく流されてしまったこの人みたいな人には何かをする気にはならない、ということだ。
「俺はこの国の判断に任せることにするよ。もう一人のそっちのみっともない方が手がかかるからね」
「裁いてくれるなら私は誰でも構わないわ。生き残ろうとも思っていないのだから」
ここまで 受け入れられると何も言えなくなる。
「どうなるかは分からないですけど、王都から人が派遣されてくるまではゆっくりしていてください。外には出せないですけど。食べたいものがあれば『美食の奇跡』に言ってください」
「そんなVIP対応してもらって良いのかしら。犯罪者なんだけど」
「彼らは美味しいもの食べたいだけですから」
「じゃあ私が覚えているだけレシピをあげるわ。誰に伝えれば良い?」
なんか言い出したで、おい。…ヨウキの口調って油断するとうつってくるよな。その申し出は…、逃げないなら良いのか?どんな意図で言ってきているんだ?
「せっかくもう一度生を得たのだもの。何かを伝えたいという気持ちはあるわ。こう見えても料理は好きだったのよ」
生きた証か。確かに死ぬ間際すぎて俺には思いつかなかったが、自由な時間があればそう考えるのかもしれないな。納得してしまったら協力するしかないか。
「えっと、じゃあ幸丸。イートさんとフーズさん呼んできて」
「了解です。マスター」
幸丸が出て行くと、しばらくしてフーズさんだけが一緒に戻ってきた。
「クーロイ、来たぞ。何か珍しいレシピを教えてもらえって?」
「うん。彼女が教えてくれるって。知ってるものもあるかもしれないけど色々と教えてもらってよ」
「……大丈夫なのか?」
疑うような目を向けてくるフーズさん。それはそう思うだろうけれども。思わず俺も苦笑してしまう。
「俺も誰彼かまわず、こんなことを許したりはしないよ。どういうことになるか分からないけれど、最後の自由時間をあげないほど狭量でもないってだけ」
「しかしなぁ…」
「そんなに心配なら、うちの最強と竈番を連れて行って。興味あるらしいから」
プルと幸丸が行く気満々である。ついて行くのは新たに作った分裂プルではあるが、一緒に出て行った。
さて、改めて残ったのは俺とプルとヨウキに、無様な男だ。先程のドラミラナの話を聞くとこの男のことを考えるのってなんかイヤだな。喚くんだろうし。う~ん。
「俺と別れてからの情報交換を先にしない?」
「エエですよ。幸丸も話聞いてるんで大丈夫です」
「え?どうやって聞いてるの?」
「詳しくは聞いても分かりませんでしたけど、すてるす、とか言うてましたよ」
ステルスか。つまり見えない、感知できないというだけで何かがいるのか。スキルも無効化しているなら今度詳しく聞いておこう。どんな技術体系なんだろうか。俺個人で持つには重いし、かといって公表して良い技術でもなさそうだ。
「じゃあ、俺はあの後さ―――――」
少しくらいは誤魔化すか迷った。しかし、ここで隠し事をしては一緒にはいられない。俺も反省してるし、正直が一番だ。
Bランク相手には何とかなったものの、Aランクの森林虎には危うく殺されかけたことも正直に話した。やはり無理したか、と不機嫌な雰囲気は感じたものの、最後まで聞いてくれた。
あとは、白獅子様に助けてもらったこと、賢者の石について教えてもらったこと、風竜王の卵について聞いたことを話した。
「だから、俺は状況を整えたらダンジョンに籠ってひたすら魔物を狩りたい。せっかくだからここで滞在できれば良いかなと思ってる」
「結局は強くなることが優先ですかね。ご主人は有名になりたいとかも無いわけですし。ワイらはご主人について行ってるだけなんで。何か必要なことがあればまた言いますし」
「うん。ありがとう。みんなはどうだったのさ?」
こういう時に代表で話をするのはヨウキだ。
「あの後は、16階層に戻ったところで1日ほど待ってました」
「そうだったの!?」
それは心配な時間を過ごさせてしまった。
「ご主人が戻ってきたとしたらすぐに分かるようにということで。幸丸も実は1台だけ残してたんですけど、ご主人がBランクを倒しきる前にいきなり壊されたって言うてまして」
「森林虎に壊されたんだろうね」
「そうでしょうね。今やったら分かります。いくら心配でも戻るわけにもいかんから、せめて早く戻ろうと思ったんです。転送陣使って急いで戻ったんですけど、いざダンジョンから出るときにこのまま出れるんか?どうなるって話になりまして」
やっぱり心配してた通りになってたのか。考えが甘かった。でも人型で俺たちについて来るような奇特な人物なんて存在するだろうか…?
「そのときからあの姐さんは協力的やったけど単独行動は微妙やということで、プルの兄貴に先導してもらったんです。そしたら…」
「『美食の奇跡』と合流か。流れは分かった。苦労させたね。ごめんなさい」
「まあ次に同じことが起こらんようにしましょ。ワイも戦闘力が無いというのを言い訳にしたらアカンと身に沁みました」
「じゃあ鍛錬期間を設けるとしようか。やるとなったら俺はガチで鍛え上げるぞ」
よく使うスキルはMAXまで上げるし、属性魔法もトコトンまで研究してやるからな!
さて、俺も料理教室へと行こう。
「ただ、行く前にこれだけはしておかないとね」
プルに男の首と胴体の真ん中だけ解放してもらう。前に頭にしか出来なかったので特製の魔法陣を仕掛ける。
「プルに包まれている状態ってこいつには声は聞こえてるのかな?……聞こえてるんだ」
「兄貴の体は不思議がいっぱいですね」
答えてくれたのはプル自身だ。どこで聞いているのか分からないからこちらとしては疑問なんだけどな。
「じゃあ、この魔法陣の効果を教えておくね。もう気づいていると思うけど、魔法陣を刻まれた者の魔力を使って無制限に生命を最善に保ち続けるって効果だよ」
「メリットはそれなんですね。デメリットはなんですか?」
「すぐ気づくとはさすが研究者。デメリットは使用する魔力が非常に大きいってことなんだ」
使えるようになったのは旅立つ半年前だから、今から一年前くらいかな。
ルウネのところにいるやつらを世話していて、一番ネックだったのは生命の維持だ。簡単に死なせるわけにはいかないが、簡単に死にそうになる。原因は俺だけど。無限に使える資源は体だ。そして、この世界での魔力はエネルギーとして非常に有能だ。万能と言っても良い。ずっと使えたら良いのにって考えた。
俺が使える生命魔法をかけ続けるだけで、課題はクリアできる。だが、毎日俺が全員に掛けるのは面倒だった。俺が仕掛けるけど、それぞれの魔力で維持できるようにならないかと考えたのがスタート地点だ。
中々難しい課題だったから鍛え上げるよりも優先して、研究期間を設けたくらいだ。一つのことを考えながら魔法を使い続けていると、なんとなく構造が見えてくる。そうすると自分に都合の良い形に変化させることも出来る。その努力の結晶がこれだ。1つ作るのに色々やりながらとはいえ2年かかった。狙ってやらないとコスパは悪い。
「強制生命陣って名前を付けたよ。普通なら1つで十分個人の魔力を使い切るんだけど。こいつは一つだとまだ魔力を使えるみたいだからさ。3つ付けておくよ。過剰に乗せたら効果がどうなるかとか、魔力の使用具合がどうとかはやってみないと分からないんだけど」
「重複して使って大丈夫なんですか?」
「俺自身は仕組みを理解してるから解除できるよ」
「なら良いです」
「じゃあやりま~す」
これで頭と首と胸に魔法陣を仕込んだ。仕込むのに集中する必要があるから戦闘中に使うことは出来ないが、これでこの男は魔力を使うことは出来なくなった。そして、寿命を迎える以外の理由では魔力が枯渇しない限り死なない。身体的な傷も精神的なダメージもすぐに回復する体になった。
「そういうわけで寝る必要も食べる必要もなくなる。耐性系のスキルも伸びるだろうけど、それを超える攻撃手段を考えて身に付ければ良い。魔力が無いってことはステータス通りの力しか発揮できないから魔力の強化もないからかなり弱くなる。魔力枯渇させれば回復はしなくなるから、止めもさせるよ。」
「コンセプトは生き地獄ですか?」
「正解♪一つだけだと効果薄かったから何ともなかっただろうけど、今晩から地獄が始まるよ。あ、しばらく放っておく方が良さそうだね」
お読みいただきありがとうございました。




