90合流とある女の事情
光がやむと1階層の入り口近くに立っていた。転送陣のあるところだが、近くに立っていた冒険者の一人が驚いたようにこっちを見ている。
「今のあの子の転送陣、なんか光り方がおかしくなかったか?」
「ん?見てなかったからわからん」
「それよりも今日こそ5階層の転送陣に辿り着くぞ」
「そういう意味ではあの子どもは単独で5階層を攻略したのか。俺たちも負けてられん!」
「いや、どう考えても負けだろう…」
「ちがいねぇ!あはは!」
冒険者の一行はワイワイ言いながら進んでいく。成人したてくらいだろう。男ばかりの5人パーティだった。まだ階層の浅い所だと周囲の警戒が甘くなるのかもしれないが、それより追究が弱くて助かった。
外に出たらまずはプルたちと合流しないといけない。というかプルたちだけでダンジョンから出られるのだろうか。気絶した人間を大量に連れているのを見られたらどう考えても危険な魔物にしか見えない。
それに、俺も指名手配のような扱いを受けていたはずだ。MPは心もとないが、やばい雰囲気を感じたら即逃げるつもりでいこう。心を決めてダンジョンの入り口をくぐった。
「おう!クーロイ!待ってたぞ」
「…ボクジさん?」
警戒していたにも関わらず、フレンドリーに声をかけられてしまい拍子抜けしてしまう。ボクジさんは俺を捕まえると壁際に並んで話しかけてくる
「とりあえずは無事みたいだな?なんだかえらい目にあったらしいな。事情は聞いた。すぐに合流したいならついて来いよ。もうお前が追われることもないぞ。来れるか?」
「プルたちは無事なのか!?」
「ああ。それでも表に出せない新入りもいたからな。宿に待機させてるよ」
「良かった…」
「自分のことよりも周りのこと、か。相変わらずだな」
一番に欲しかった情報に胸をなでおろす。ボクジさんは頭をポンと撫でてくれると、そのままついて来いと移動を促した。匿ってくれている宿屋に連れて行ってくれるそうだ。
その道中でボクジさんが当時のことを教えてくれる。
「俺たちも何かしようと、別れてからすぐに戻ったんだよ。10階層の転送陣までに1日かかったんだったかな。準備整えて再度ダンジョンに入ろうとしたらプルの分裂体がいてさ。ついて行ったらなんかすごい集団がいたから驚いた。うちのヤシタと後衛たちがプルと、あのリッチとかパンダの話をまとめてよ。まあちょっとゴリ押しだけど何とかしたのさ」
「助かったよ。逃がしたは良いものの、地上に出るには誰か事情を知っている者が必要だったから」
「ついでに女の方は拘束したままで良いからジュコトホを歩かせろときたもんだ。お前の言っていた魅了はあの女が原因だったみたいだな。今しか解くチャンスは無いからって協力しておいた。ゴリ押しが上手くいったのはそれもあったみたいだけどな」
俺が追われない理由は既に都市内が正常に動き始めたからか。理由には納得した。
「捕まえてた男はそのまま拘束している。目を覚ましたが、プルの中から脱出できないようでな。頑なにあの3体が出さない」
「男の方は俺が責任持って何とかするよ。どうせ引き渡さないといけないし。女の方は?」
「都市内を歩き回らせた後は、おとなしくしてるぞ。王都からの指令で拘束はお任せしますって状態らしくてな。お前いつの間にそんな権力者と結びついたんだよ」
「まあ色々あったんだよ」
ボクジさんへの返事は適度にぼかしておく。ドラミラナと呼ばれていた女は最初か逆らわない姿勢を取っていて、冒険者が目覚める前にも何か彼らに向かってしていたみたいだ。何かしていたのはプルたちから聞いたそうだが。
黒づくめ達と同じ目に遭わないようにとか魅了の解除とかすべきことがたくさんあるはずだからな。
「冒険者の人たちは?」
「全員目を覚ましてるぞ。起きたときは多少の混乱はあったらしいが、あまりそっちの情報は入って来てないな」
「無事なら良いよ」
「王都から派遣されてくるのもあと一週間くらいだろう?そのときにお前ならまとめて話を聞けるだろうさ。心配だって顔に書いてあるが、以前のような雰囲気らしいぞ」
助かった人たちはそうだろうけど、俺が到着するまでに亡くなった冒険者もいるはずだ。手放しで喜ぶ気持ちにはならない。
「着いたぞ。ここだ」
案内された部屋はかなり大きめの部屋だった。事情を話して特別扱いしてくれる宿だったから部屋も大きめだったようだ。料金は『美食の奇跡』が出してくれていたようだが、あとで渡しておこう。
「ご主人!無事で良かった」
「マスター。ご無事で何よりです」
プルからも無事を祝われた。少し抑えめなのは幸丸の偵察機で既に発見されていたかららしい。偵察機の存在を知っているはずの俺で見つけられないのか。また新型でも開発したのだろうか。幸丸の技術力が高すぎな件について。
「また無事で会えて何よりだったよ。プルも、もう全快してるみたいだな」
「ご主人は大丈夫なんですか?」
「ちょっと色々あってね。MPはまだ全快してない。そうだ、ヨウキ。このペンダントを付けておいてくれないか。ちょっと実験なんだ。」
「それってご主人の大事なやつとちゃいます?いいんですか?」
ずっと身に付けてたもんね。白獅子様の言葉が無ければ今後もずっと身に付けておくつもりだったけど。
「良いの良いの。それ付けてた方がスキルの伸びは良いけど、デメリットも分かったからさ。ヨウキもやってみて。死にはしないから」
「了解です。ご主人が以前と変わりないようで安心しました」
棘があるような気がしなくもないが、他にもやることはある。一つずつすましていこう。
☆ ★ ☆ ★ ☆
『美食の奇跡』には退室してもらい、ここにいるのは俺とプル、ヨウキ、幸丸、そしてドラミラナだ。男の方は分裂プルが体内に収めた上で『美食の奇跡』の前衛メンバーが見張っている。今の男には魔力は攻撃に使えないし、下手に物を隠し持っていないか確かめるために下着のみだ。それも地上に出たときにはプルが溶かして全裸だったのを頼むから穿かせてくれとお願いして着させたそうだ。
まあそんなことはどうでもいい。今はお互いテーブルを挟んでソファに座っている。この女に戦闘能力は無い。下手な動きを見せれば今の俺でも制圧できる。
「ドラミラナで良かったっけ」
「ええ」
「事情を先に聞いておいても構わないかな」
「構わないわ」
ドラミラナの話はまず謝罪から入った。受け入れるかは話を聞いてからと伝えて先を促した。
男の方の名前はウラード・ミルレア・サンドバという名前で、以前の世界では夫婦だったそうだ。男の前世は大国の大統領で、勝ち目も無いのに世界に対して戦争を吹っかけたそうだ。当然逆に返り討ちにあって銃殺刑で処刑された。家族もとばっちりでそのときに家族も同じ道を歩かされたそうだ。
前世の段階でも何かおかしいとは思うことはあったらしい。が、まさか戦争を仕掛けるほど狂っているとは周囲の人間でも悟らせはしなかった。前世のドラミラナが気づいた時には手遅れだった。そして家族の中で男とドラミラナだけが転生させられた。その神は、以前の世界の神を名乗った。
そして、これから転生した先の世界を荒らすように命令された。
男の方は狂気からか受け入れた。
ドラミラナは、受け入れられなかった。
しかし、これは神からの命令で避けられないと拘束力が発揮された。男の命令に一時的に逆らえなくなるという枷を背負った。
枷は声で発動する。いくつか制約はあるそうだが、全てを教えてはもらえなかった。転生してすぐには男は近くにいなかったが、成人である15歳を迎えるころに暮らしていた村に男が現れた。男の方は10年も先に転生しており、既にその魔力と権力を思うままに操っていた。
そして、村を人質に取り、ついて来るように命令された。村に手を出したら自ら命を絶つことを宣言した上でついて行くことになった。
それからは魔法陣の開発に着手させられた。ドラミラナの才能が魔法陣学者だったため、それを良いように使われることになった。殺すことも自殺することも出来ずに、少しずつ研究を進めていくしかなかった。
実験はユーシル村の近くでも行われたし、倉庫はもちろんだった。魔法陣の特徴を理解していない男にはダンジョン内での設置は無理だということは隠していた。そして死ぬつもりでダンジョンに潜ったそうだ。
これまでの道中で様々な人を直接はなかったものの間接的に殺してしまったことも、今回だけでも冒険者を複数名死なせてしまったことも、全ては男を止められなかった私のせいだと言って涙を流した。そうなりつつも罰は全て受け入れると真剣な眼差しで告げた姿勢には、まあ本気なのかなと思うくらいには悪意や嘘は感じられなかった。
お読みいただきありがとうございました。




