9特訓特訓
プルと出会ってから(保護者会で相談したように)特訓することになったが、そこから半年経ちクーロイは5歳となっている。
それまではまだちょっと厳しい特訓かな?だったのが、厳しいなと言われるくらいに強化された。
牙丸の担当特訓は、目隠しをして牙丸の攻撃を防ぐ。手加減はしてくれるが、痛いものは痛い。
これは周囲を察知する力と感覚の強化を狙っている。
朝食後に体術の特訓は型から組手までを今までの4倍の密度で行うようになった。
体術は鍛えてあればあるだけ底力になると牙丸は信じている。
クーロイは筋肉を鍛えすぎて身長が伸びなくなるのが心配だ
クロエミは魔力感知から魔力操作まで一通り満遍ない特訓と、集められるようになった魔力は常に目か手に集めるように指導する。
どんな系統の魔法が使えるかはまだ先になるはずなので、魔力そのものの扱いを向上させることが目的だ。
クロエミとの鍛錬以外にも自分で魔力を掴む特訓も行うようにしている。
操作が乱れたときは苦い薬湯を飲まされた。魔力の回復を兼ねている。判定役はクーロイの頭の上でプルが行っている。敵はすぐ傍にいる。
薬草は森の中でクーロイと牙丸が摘んできている。摘むのがもう少し上手かったら苦くない。
こっそりと甘い果実も摘んできて口直しをすることを男二人の秘密となった。以前より距離が近くなったことをそれぞれ喜んでいる。
この特訓にもう1つ
加わったものがある。
武器術の特訓が増えることになったが、牙丸は武器術があまり得意ではない。素手か爪術、使ったとして短剣術くらいだ。
クーロイの適性を見た上ではあるがもう少しリーチと応用力のある手段を増やす必要がある。
よって村の中で武器術の指南が出来る者にお願いすることになった。
「今日もよろしくお願いします!」
「来たでござるか。体をほぐしたら早速始めるでござる」
「分かりました!」
指導をお願いしたのは、ドーベルマンの獣人のゴザルだ。ある事故で片腕になってしまい、簡単な狩りなら出来るが最前線では戦えない。そんな理由で村にやってきた。
午前中から牙丸にしごかれたとはいえ、体のストレッチくらいは行った方が良い。
準備が整うのを待ってくれていたゴザルを見据え、自宅から持ってきた木刀を構える。
「準備できました!」
「では素振りはじめ!!」
振り下ろしから始まり、袈裟斬り、横薙ぎと一通りの型を取り組んでいく。
「振りが甘くなっている!」
「腕の力だけで振るな!」
「足から力を込めなければ力は伝わらん!」
体術と違い、一から行うためまずは扱うことが出来るようになるための特訓から始まった。
なぜか大人も扱うサイズの木刀を渡されたので、重量は問題ないが、長くて扱いづらい。慣れだと思いつかっているうちに慣れた。
牙丸との特訓により基礎体力はあったため体に動きを覚えこませていくことにも問題なかった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「ありがとうございました!」
「よくがんばったでござる。話す体力が残っただけ進歩でござるよ。しかしご夫妻に言われたからとはいえ、5歳が取り組む鍛錬量ではないでござるが」
素振りの鍛錬を始めるようになってから2か月と少しで一通り振れるようになってきた。聞いていたとはいえ凄まじい上達だ。寒気すら感じるほどである。
それでなおかつ最近は体力も余らせているように見える。空恐ろしい子どもである。
「大丈夫です。ん~。先生から見て他にしておいた方が良いことはありますか」
「君が大丈夫ならば良いでござるが。では一つ教えようか。何でもがむしゃらにやれば良いというわけではない」
「そうですか?」
「休息日を取ることで鍛錬の効果が上がる、ということは聞いたことがあるかな」
「そういえばあります。何だったかな。超回復だったかな」
「超か、そこまで大げさかはともかく。まあ鍛錬の効果が出やすいと言われている。鍛錬には下手に回復魔法を使わない方が良いともされているのでござるよ」
超回復は前世のトレーニングでも言われていた単語だが、言葉は知らなくても効果があることは知られているようだ。
実践の中で見つけたのならさすがの話である。
「稽古を1日さぼった後の方が体が動くことを発見したのでござるよ~。はっはっは~」
「見直すんじゃなかった…」
指導中はともかく、話すだけなら非常に話しやすい人物がゴザルであった。
「じゃあ聞きたいことを聞いても良いですか」
「良いでござる」
少し渋めの顔を作ってくれたが、すぐにずっこけられる。
「ゴザルさんの名前って本名ですか?」
「中々に鋭いところを突くでござるな」
「だって…偽名でもなけりゃいい年して名前を語尾につける犬耳のやばいおっさん…」
「し、失礼ではござらんか!」
ジト目で見てくるのが心の中で反論する。
(誰だって思うだろうが!!)
「まあ偽名でござるよ」
「本名を聞く気はないですが、なんでやばい方向に思われる名前にしたんですか」
「格好いいでござろう!!」
「そんな理由~??」
ありえそうなだけに、一番面白みのない返答が帰ってきたことに不満たっぷりの声をあげる。
表情から感情まで読み取ったゴザルもその不満こそが不満だという表情に変わる。
「そうでござるが。武器一本で生きる武士という生き方が拙者の生き方だと感じたのでござるよ!」
「思ったよりも理由がくだ…、弱かった」
「己の生き方を人の意見に左右されるようではまだまだでござる」
なんかぶれぶれなことを言っている気がするとは思いつつ、体も動きやすくなったところなので帰宅させてもらうことにする。
「じゃあ明日もよろしくおねがいします!」
「さらばでござる」
手を振って挨拶すると家まで歩いていく。ちなみに肩の上にプルが乗っている。
「武士か。俺の元いた世界から渡ってきた人が過去にもいたのかなぁ。さあプル、家に帰るぞ!」
捕まりつつもプルプル、オー!
「エイエイオーか。本当にお前器用だよな」
夕ごはんを楽しみにしながら帰っていく友人にも出会いながら、クーロイ自身も家路を急いだ。
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