89救う獣あり
「…生きてる…?」
確実に死んだと思った。無防備にしたところで捕食する魔物の前で気を失ったんだ。
確実に死んだと思った。
皆をコレクションハウスに入れていても良かったのかな。俺が死んだら出られなくなってしまうかもしれなかった。いや、その場で出されてしまって、皆も同じ目に遭っていたのかな。どちらにしても心配させるだけだし入れなくて良かったのかもしれない。
自分が生きていたことに確認し安堵すると、ぐるぐると余計なことを考えてしまう。寝ころんでいると自然と涙が溢れてくる。声を出さないように我慢したが、声は漏れていた。
「ぐぅ…、ふっぐ…、ふ……」
吹く風だけが優しかった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
しばらく泣いていたら、気持ちも冷静になってきた。誰にも見られなくて良かった。まずここはどこなんだ。
周りを見渡してみるが、ここがどこなのかを判別するものが見当たらない。ダンジョンの中だとしたら1階層とかの草原っぽい。
自分の状態を確認してみよう。コレクションブックでステータスを確認だ。
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名前:クーロイ 年齢:10
種族:人族 性別:男
才能:気ままなコレクター
HP :39/220
MP :340/3301
STR:109
VIT:114
AGI:132
DEX:89
MAG:150
MND:142
LUC:70
スキル
体術(5)剣術(5)短剣術(4)投擲術(5)弓術(4)槍術(1)拳撃(2)蹴撃(2)
身体強化(5)視力強化(5)頑強(4)回避(5)敏捷(5)平衡感覚(5)跳躍(4)自然治癒力上昇(5)剛力(5)器用(3)
縮地(3)纏気(3)闘気操作(3)
魔力感知(5)魔力操作(5)魔力放出(5)魔力集中(5)MP消費軽減(3)
生命魔法(5)植物魔法(4)無魔法(5)飛翔(3)
気配察知(5)悪意感知(3)気配隠蔽(4)空間把握(3)
平常心(5)ストレス耐性(5)苦痛耐性(5)毒耐性(3)打撃耐性(3)斬撃耐性(1)混乱耐性(1)麻痺耐性(1)恐怖耐性(2)
教導(5)話術(3)採取(5)按摩(4)解体(3)料理(4)調合(3)木材加工(2)皮革加工(2)石材加工(1)計算(2)目利き(2)
<スキル>
神託 コレクションブック コレクションハウス 思考力強化 魔法纏
称号
御人好し 【元】不幸体質 我慢バカ 転生者 世界樹の祝福者 修行者 魔物狩り 魔物の殲滅者 教導者 瀕死体験者
備考
称号・断罪者とひどすぎ拷問官はこれ以上やっても称号に反映されないようにしたよ♪
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スキルがいくつか伸びている。死ぬ間際から考えたらHPもMPも少しだけ回復していると言えるのかな。あれだけバッキバキに折れた右腕もしっかりと元通りになっている。もう怖いから全快まで回復しておく、HPが減っている状態はイヤだ。……よし、全快。
MPでゴリ押ししたからMPはいつもよりも消費してしまっているが、ここには魔物の気配は感じない。自分ではここの手がかりを掴める気がしない。
「お~い!もう起きてるぞ~!」
声が響く。少し待ったけれども何も起こらない。
「えぇ…?どうしよう…」
「気が付いていたか。何事もなく良かった」
「ぅおぅ!?びっくりした!」
後ろにはいつの間にか白い獅子がいた。そういえばジュコトホの近くには神獣の白獅子が祀られている山があるという話を聞いた気がする。
「恐らく察しの通りだ。神獣の位を賜った、名はあるがあまり見かけとそぐわんのでな。白獅子とそのまま呼んでくれれば良い」
「はい。白獅子様ですね。助けて頂いたようで、本当にありがとうございます」
「いや。あの状況にならなければ手助けできなかったのでな。死ぬ間際まで追い込ませて申し訳なかった。生き残ったのはそなた自身の力だ。見事の一言だ」
褒めてくれているんだろうが、自分一人で生き残れなかったことが悔しい。現状を打破するきっかけが欲しい。
「全く嬉しそうではないな。自分で枷をはめているのだから鍛錬のときに外せば良いだろう。更に強くなる」
「えっ!?枷ってなんのこと!?」
さっそく強くなるためのきっかけが出て来たらしい。
「その首に付けているのは賢者の石だろう?ある程度の成長は補助されるが、それは付け過ぎのままでは成長が歪んでしまうぞ。何万人もの魂からの呪いだからな。外して鍛えねば本当に望むスキルは身に付かずに邪魔される」
「呪いのアイテムだ!?犠牲者の人数がすごいからか。…じゃあ外したら本当に望むスキルが身に付くってことですか?」
「そうだ。ただ、新しいものを身に付けたいときは再度身に付けておいた方が良い。思わぬスキルを習得できることがある」
「そうか。そうだったんだ!ありがとうございます!!」
外しておけば、より伸ばすことが出来るなら外した状態でまずは魔物狩りを進めていこう。新しく身に付けたいスキルがあるときだけ身に付けるようにしよう。
「あと二つ、いや三つ聞いても良いですか?」
「構わんよ」
まず賢者の石は成長をサポートするアイテムのようだ。独り占めする物ではない。
「他の人が身に付けても効果ある?」
「あるぞ」
良かった!まずはヨウキに付けさせて色々と役立つスキルが身に付くか試してみよう。MPが増えるのも特徴のはずだから作業の役に立つはずだ。
「次の一つは、なんでそんなこと知ってるいるのか、です」
「む。あ~…、まあ良いだろう。他言無用で頼むぞ?」
あんまり話したくないことなのかもしれない。無理にとは言わないけれど。
「いや、知っておいた方が良いだろう。我がまだ神獣の位を頂く前のことだ。我の肉と魂は地上の物だった。そのときに付き従っていた獣人と世界を巡っていた時に賢者の石が造られる場に巻き込まれそうになった。死して後、知っておけと学ばされた知識の中にあったのだ」
「……ものすごくスケールの大きい話を聞かされた気がします。突っ込まない方が良いですかね」
「うむ。その理解で良いだろう。だが、それよりも知っておくべきは、同胞の卵を持っているだろう?」
卵といえば、風竜王の卵のことかな。カバンの中に入れているはずだ。
「これのことですかね?」
久しぶりに取り出して見るとまた大きくなっている。
「うむ。これは生まれるまで君の垂れ流した魔力を吸収して成長する。いつ生まれるかはその卵次第だが吸収した魔力が強い方が、孵化した後に強く成長する。せっかく新たな竜王が生まれるかもしれないのだ。助けるのはやぶさかではない」
「そうでしたか。詳しい話をもう一度聞きたくて風竜王を探していたんですが、用件が済みました」
「それは良かった。あまり手助けしすぎるのも良くないからな。今回は我のダンジョン内の秩序を乱した者を何とかしようとしてくれたからな。その礼だ。次は無いので気を付けよ」
スタンピードを止めようとしたから助けてくれて、次は無茶しても助けてくれないってことか。死にたくないから無理は絶対にしないぞ。しかし聞きたいことが増えたな。流れで聞いてしまおう。
「はい!白獅子様がダンジョンを管理しているのですか?」
「そうだ。全てのダンジョンを神獣が管理しているわけではないがな。それが聞きたいことの3つ目か?」
「あ、いえ。3つ目はどうやったら戻れますか?ここはどこなのかも聞きたいです」
「ここは我のダンジョンの21階層だ。この階層は我が普段過ごしているところだな。戻るのは望めばいつでも戻してやるが」
戻るかどうかを聞かれたら、一択だ。
「すぐに戻してもらえますか?」
「了承した。今回は我のダンジョンを救おうとしてくれたことに感謝する。保護してから3日経っているのでな。入り口に戻すぞ」
「3日!?ちょ、待っ!?」
そうして視界はまた白い光で埋め尽くされた。
お読みいただきありがとうございました。




