87スタンピード魔法陣発動
「プルッ!!??」
「兄貴!」
「プル先輩!」
体の中に収納していたものがいきなり爆発したため、プルはそのダメージを余すことなく受けてしまった。消滅していないところを察するに核は無事なようだが、そのダメージは大きい。すぐに駆け寄り、生命魔法で治癒を試みる。途切れながらも会話が出来るので意識もあるようだ。
爆発の瞬間に体の中を固めて防御したそうだが、抱えていた13人の体が跡形も残らないほどの爆発だ。無事だったことの方が奇跡だ。まさか部下を一気に殺す手段を持っているなんて想定外すぎる。
「はははっ!ざまあみろ!魔物風情が私に触れるからだ!部下が裏切ったときの制裁手段だ!用意していて当たり前だろうが!」
外道が何かを叫んでいる。冷静であろうとする頭と激情のまま動こうとする自分がいる。あの男が憎くてたまらない。プルが触手を伸ばしてこなかったらすぐに首をかき切っているだろう。
プルにすら見せたことの無い表情だったらしく、落ち着くように訴えかけてくる。ずっと一緒にいた友達を傷つけられて怒らないわけがない。まずは安全域までプルの治療を続ける。生命魔法で良かった。根源にはたらきかけるから生きている限り魔物でも治療することが出来る。
それでも余計なことをされないように、並行して魔力弾丸を男に向けて多めに放つ。しかし、魔導具か何かで結界を発生させられてしまう。既にニ十発は当てているが皹すら入っていない。
「この結界は私の切り札とも言えるものだぞ。そう簡単に壊されてたまるか。しかし、弾丸の形とは忌々しい…。だが、ははっ!残念だったな。私は国を支配する器の持ち主だぞ。こんなところで邪魔されるはずはないのだ!」
呼吸を整えると、もう一度魔法陣に手をかざしている。
「もう魔力は込められないのか。ドラミラナ!貴様いつまでそうしているつもりだ!」
女はその言葉に体を震わせるが、何かをする気配はない。
「役立たずが。そうか、やはり私のための帝国は私が自身の手で作るべきだということか」
この間も魔力弾丸を打ち続けているが、壊れる気配が無い。幸丸の偵察機も逆側から攻撃しているが、結界は周囲を球状に守っているようで通っていない。
プルの治療も大きくは終了した。傷は塞いだがまだ体力を戻すところまでには至っていないが動くことくらいは出来る。
「ならば最終手段だ。これでスタンピードが発生する!!」
色々と試そうとしていたようだが、俺が動こうとしている気配を感じたのか何かを決意する。男は隠し持っていたナイフで自分の腕を切り裂くとスタンピード魔法陣に血をばら撒く。それに合わせて魔法陣から紫色の光が立ち昇っていく。
「お前、もういい加減にしろ!!!」
先程までは抑えていた感情を爆発させる。プルへの治療は一旦めどが付いたので、攻撃に全力を込める。闘魔纏身状態に持って行くと、一撃の鋭さを優先した技を放つ。
「剣式六番!突風!!」
全力突撃からの突きの一撃だ。今回は更に速く動くことに特化するため、魔力を背中から後ろに噴出する。これでロケットのような役割を果たす。勢いをつけて右手に握った剣を支えるように左手は柄頭を押さえてそのまま結界に突き通す!
結界には音もたてずに突き刺さる。その一瞬後に、何の音もせずに皹が入り結界を消滅させることに成功する。崩れたら消滅する種類の結界だったらしい。勢いまで消えるわけではなかったので足を止めずにそのまま男の左肩に深々と突き刺さる。
勝ち誇っていた顔は刺さってから驚愕の顔へと変わり、口から叫び声を上げた。
「ぎゃああ!」
「うるさい!!!」
顔が正面にあるから叫び声がそのまま聞こえてしまう。男を突き刺して勢いのまま進む。止まったら肩を切り落とさないように剣を動かすと剣を振って血を振り払う。更に叫び声をあげたので顎を蹴り上げた。
蹲る男の横に移動して側頭部を全力で蹴り抜く。今の蹴り抜いた時には生命魔法を纏わせておいたので死にはしないはず。それくらいには冷静だったつもりだ。
水平方向に飛んでいった先の大木に頭から激突していた。大木にきれいに頭が埋まっている。木に悪いことをした。少し足が動いているから死んではないだろう。そのために頭を狙ったのだし、これくらいで済ますつもりもない。
再度プルの様子を確かめる。動けるようにはなったが、戦闘は難しそうだ。近くに来たヨウキに預ける。ここに残っているのはまだ目覚めない冒険者12人に、ドラミラナという女、蹴り倒した男、傷ついたプルと、戦闘は期待できないヨウキと幸丸、新型偵察機はあるが、どこまで期待できるか分からない。
「プル、冒険者とかを運ぶだけはお願いして良いか。大きくはなれるんだな。ありがとう。頼むぞ。その男は簡単には死なないようにしてあるから頭まで覆っても大丈夫だ。近くに冒険者を固めておけばまた爆発されることもないだろう」
プルへの指示が終わったら、次は説得だ。
「ヨウキと幸丸も逃げろ。新型偵察機も連れていけ。護衛が必要だろ」
「ご主人!あかん!ここでスタンピードが起こるんやったら、出現する魔物はBクラスは確実や!下手したらAクラスも出てくる。それがとんでもない量出てくるんやで!」
「だから時間稼ぎが必要だろうが!戦闘が出来るメンバーが今は俺しかいないんだから!」
アホらしいが、今のやり取りの間に魔法陣は作動したままだ。徐々に光を強めていく魔法陣を見ながら言い争いを始めてしまう。
「マスター、微力ながらこの遠隔機体も少々は戦えます。偵察機10体分くらいの働きですが」
「だったら、逃げる際の護衛が厚くなるな。これで安全度が更に上がる。安心した。通常のダンジョンの魔物が移動中に来ないとも限らない。そっちを任せる。早く行ってくれよ。時間稼ぎってのは逃げる奴らが完璧に逃げるまでのことを言うんだから」
全員を助けるなら移動を始めてもらうしかない。それでも諦めない二人を強制的に吹き飛ばそうかとしたときに聞き覚えの無い声がする。
「不完全発動でしかないわ。出現するのはせいぜい10体程度よ。魔力がうまく込められていないから血に値する量しか効果が無い。それを目安にして」
「ほら!だから死なずに済むかもしれないだろ!分かったら行け!俺がその男をこれくらいで許すわけないだろ!その女は今の発言も含めて厳重管理しといて!」
魔法陣を仕掛けた女がわざわざ情報をくれるなんておかしな話だが、真意を聞き出す時間も無い。全員が移動して森の木々で見えなくなるころに、最初の魔物が現れ始めた。
「Bクラスの魔物に見えても強い奴は強いからなぁ。Aクラスの出現がどれだけ少なく済むかが生きるか死ぬかの分かれ目だよなぁ」
最初に現れたのは、双頭狼が3体とコカトリスが3体とグリフォンが2体だった。
双頭狼は連携して襲ってくる種類の魔物だから複数だと危険度が上がるやつだ。頭が二つあるから視野も広いし、嗅覚による追跡もお手の物だ。簡単には逃がしてくれない。
コカトリスは鶏が巨大化した魔物だ。尻尾が蛇だけど本当は蛇が本体なんだっけ。鶏の方が脚力が凄いんだよね。めっちゃ速いらしい。
グリフォンは鷲の頭に獅子の体を持ってるし、当然翼も生えている。あ、もう空中に浮きだしたぞ。これも簡単に追いつかれそうだな。
しかもスタンダード魔法陣から出現した奴らは普通ではありえないが同じものから生まれたからか、種類も違うというのに仲間意識がある。双頭狼だけでなく、出現した8体が連携してくるということだ。
つまり、こいつらを全部倒さないとせっかく逃がしたのに追いつかれてしまって、逃がした意味が無いということだ。
「さて、生きて帰るためにもがんばりますか!
お読みいただきありがとうございました。




