85お互いにもうすぐ
「ということは、クエストに出ていた少年の確保ってのは真っ赤なウソか」
「そういうこと。俺が頭おかしくなったらダンジョン潜って荒らすみたいな事態で済まないのはわかるでしょう?」
「まさかクーロイ君とは思いませんでした。おかしいクエストだとは思っていましたが」
「主張するところがそれっておかしくないか?」
ボクジさん、俺、ヤシタさん、フーズさんと話している。
久々に気を許して話すことが出来る面々と会ったことで、状況説明に少し話をしていくことになった。
「しかし、解決のためにはそのスタンピード魔法陣をしかけようとしているやつらを押さえないといけないんだろう?」
「俺たちに手伝えることはあるなら手伝うぞ?」
「俺たちではクーロイのスピードについて行けないし、無理について行こうとしても遅くなるだけだ。俺たちがここで何もなかったと報告することが一番の援護になると思うが」
続いての発言はイートさん、ニケンさん、マチェルさんだ。
「先を急ぐのが一番の優先事項なので、マチェルさんの言うとおりになります。ここをまだ通っていないということにしておいてもらえると助かります」
「そうだな。この先に食料を届けに行くという冒険者が一組通っている。おそらくクーロイの言う奴らの手先になっているんだろう」
「だったら攪乱させておいた方が良いかもしれませんね」
ボクジさんが思い出し言葉にヤシタさんが同意する。
「ただ、危険な状態になったらすぐに逃げてくださいね」
「何言ってんだ。相手はサンドバ家なんだろう?完全に潰すまでは俺は絶対に諦めないからな!」
「危なくなったら今度は止まってくれるから安心してくれ」
イートさんは前に嵌められたことで熱くなっているが、周りの意見は聞くようにはなってくれたらしい。フーズさんがこっそりと教えてくれた。
「では、久しぶりに会えて嬉しかったです。これからまた急ぐので失礼しますね」
「気を付けて行け」
頷きはしていたものの、最後の一言はウォルさんからの一言だった。
すぐにボスエリアには辿りついたので、すぐに突入して撃破した。『美食の奇跡』と出会ったからなのかは知らないが、階層ボスは肉が非常に美味だと言われているグレイトホーンという牛のボスだった。
これは宴のメインになると直感が働いたのでプルと一緒に空中に打ち上げてダンジョンに吸収されることが無いようにして仕留めた。ヨウキと幸丸にくれぐれもよろしくと言付けて13階層へと進んだ。
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【???視点】
「こんなところに大量発生の魔法陣を仕掛けたら私たちもただじゃ済まないわよ」
「18階層まで潜れれば良かったのだがな。16階層を突破できただけでも良かったというものだ」
「私はこんなところで死ぬつもりはないからね」
「私だって死ぬつもりは無い。私の魔力があればどんな魔物が襲ってきたところで倒すことが出来ることは分かっているだろう?」
私の言葉に、彼女は魔法陣の展開を準備していく。今までのことを考えると魔法陣の設置には1日から長くても2日というところだろう。ここでスタンピードが起こればダンジョンの魔力を乱すことが出来る。
そうでなくても下の階層の魔物も暴れ出すことでダンジョン内から外に向かって魔物が溢れだすだろう。そうすれば少なくともこの都市を崩壊させることが出来る。その実績を持って私の軍事国を打ち立てる狼煙をしよう。
やっとここまで辿りついた。呪いの魔導具もあの女に魅了を使いこなさせるための前準備のようなものだ。最後の最後で形になって良かった。
周りにも5人ほど冒険者がいるが、ダンジョンに入ったときはもう10人ほど多かった。階層ボスを倒すのに消耗したため捨てたのだ。残りも特に反応も無く私たちのやり取りを見ている。虚ろな表情だ。魅了を何重にもかけると思考力をとことんまで鈍らせることが出来る。あそこまで蝕まれれば常人の思考に戻ることは無いだろう。
不意に動いたかと思うと、魔物でも近くに来たことを感じたのだろう。何も言わなくても動く駒は非常に便利だ。放っておけば勝手に処理をしてくる。奴らにもまだ使い道はある。このダンジョン災害の最初の被害者という使い道が。
肉と酒が欲しくなったのでマジックバッグをあさる。魅了を受けた冒険者が定期的に運んでくる物資は地上とは変わらないものを持ってくるようにしてある。
赤いワインを一口含みながら、ここまでの道のりを思い出す。思えば長かったものだ。
前の人生では私の考えを理解する者など現れなかった。社会的信用を得られると賛同する者も増えたが、私の顔色を伺うだけで真に理解してくれるものなど現れなかった。
世界が私の前にひれ伏すことなど私がわざわざ言わなくても察して然るべきだというのに。あの野蛮人どもめ。豊かな土地を私以外の人間が所持しているだけでも罪深いというのに反抗までしてみせた。
いつまで経っても占領が進まなかったから次第に内部にも反対する者が現れ、消しても消しても際限が無かった。
世界最大の国だったとはいえ、長期戦を保つことは出来ずに最後には敗北。この屈辱は絶対に忘れはしない。
そこで私は途切れるはずだったが、神によって救われた。この世界で好きに暴れろと遣わされた。ようやく好きに生きて良いのかと解放された気分も長くは続かなかった。
この世界でも私の考えに賛同する者は少なく、ましてや生粋の貴族に生まれなかった私を侮ってくるものもいた。陰で少しずつ力を削ぎ、殺していった。前世で身に付けた殺技が役に立った。
世界を破滅に導くという崇高な考えに賛同するどころか逆らう者のなんと多いことか!
私が世界で一番秀でていることなど一度私を見れば明白ではないか。どいつもこいつもなぜそれを理解できないのか!!
耐えがたい屈辱だ!
そう思っていた時に前世の妻に出会った。見た目は変わっていたが、見れば分かった。前世の妻が魔法陣を描けるほどの技術を持っていたのは幸運だった。少し脅せばついて来るのだ。使ってやって当たり前というものだ。
貴族社会を一度生きたことのある私には少しずつのし上がっていくことなど造作もないことだった。前世のように厳しい環境や法に細かくないだけ楽なことだった。そうして築き上げたのがサンドバ家だ。
妙な失敗を繰り返す奴らは早々に切り捨て、このジュコトホで私は革命を起こすのだ。
力を持つものが好きにしても良い世界などすばらしいではないか。私こそが神だ。
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【クーロイ視点】
『美食の奇跡』と別れた後は半日かけて15階層まで踏破した。恒例の転送陣で戻っての情報交換の中に行方不明になっているB級冒険者がいることを知った。
予定の期間を過ぎても帰らないそうだ。元から泊まりで仕事をするタイプではないそうで、ギルドも早めに捜索を始めることにする方針とのこと。16階層らしく、探しに行く腕利きの冒険者を募っているが、集まりが悪い。ダンジョンにほとんど行ってしまっているからどうしようなないようだ。
もしかしなくても魅了で無理矢理連れ去られたのだろう。公開されていてる情報としては、俺がやったのかもしれないという噂も、俺の足取りとして7階層でも見つからないという情報は確定とあった。
『美食の奇跡』にお願いした12階層を通過していないという偽情報は届いていないようだ。ダンジョン内の情報を掴むのは大変だな。
さっさと戻ろうとしたところで幸丸から攻撃まで出来る偵察機が新たに届いた。Cランクくらいなら単体で撃破可能で、全部で50体。5体で挑めばBランク1体くらいは倒せるそうだ。相性もあるけど、通常の獣タイプの魔物なら問題無いそうだ。
幸丸自体に攻撃性能が無いので、身を守る術としては助かる。あれ?攻撃できないんだったかな?まあ危なくなったらコレクションハウスに逃げれば良いけど、出来ることが増えるのは良いことだ。
ダンジョンに戻って寝ながら進めてもらった。翌日、ダンジョンに入って3日目の朝には17階層へと到着した。
入った瞬間に幸丸からこの階層にいることを報告された。方角は掴めたけれども何があるかは分からない。新型偵察機で漏れが無いように探してもらうことにした。俺自身は先に進まれることの無いように先にボスエリアからおさえる。絶対に逃げられないように追い込んでいくつもりだ。
お読みいただきありがとうございました。




