82もう少し穏やかな理由で来たかったダンジョン都市
翌日には飛翔を使って町の上空で空間把握を意識して人の流れを観察していた。余裕が出てきたら闘気操作も使って空中で演武をして汗を流した。同時発動で自分に負担をかけて過ごすのはそれはそれで楽しい。
そのまた翌日には約束通り冒険者達と手合わせをした。思っていた以上に希望する人が多く、朝から始めて昼休憩は挟んだものの夕方まで続けたので夕食はまた酒場に連れて行ってもらった。
その日は気になっていた近場のダンジョンの話を聞いた。王都から一番近いのはダンジョン都市として有名なジュコトホという都市だそうだ。神獣の白獅子が祀られているという箔大山のふもとにあることでも知られている。近いと言っても移動に普通なら半月ほどかかる距離だ。
ダンジョンについては大きくはどこのダンジョンも変わらない共通点がある。
・ダンジョンは基本的に20階層で成り立っている。
・魔物は出てくる。下に潜るほど、徐々に強くなっていく。
・階層の一番奥には階層ボスがいる。倒すことで次の階に進むことが出来る。
・5階層ごとにの階層ボスを倒した後に転送陣があるので、一度到達すればショートカットできる。
・最終の20階層にはAランク冒険者パーティでも倒すのが厳しい魔物が出現する・
・魔物を倒してから床や壁に触れるとダンジョンがすぐに吸収する。素材が欲しい場合は人工物の上に乗せなくてはならない。
・魔物がダンジョンに吸収された場合、魔石は必ずドロップする。それとは別にドロップアイテムが稀に出現する。出てくるものは魔物によってドロップアイテムは2種類と決まっているが、基本的には素材全てよりも価値は劣る。
・ダンジョンを探索していると、時々宝箱が発見される。ダンジョンが生み出したアイテムは特殊な能力を持っている物が多く、国宝となる場合もある。ダンジョン専門の冒険者もいる。
・罠が仕掛けられているダンジョンもある。ジュコトホには罠は無い。
・20階層には何か秘密があると言われているが、解き明かしたものはいない。また、20階層にはボスがいない。
・ダンジョン出現する魔物は系統が決まっていることが多い。ジュコトホなら獣系の魔物が出現しやすい。
・最後に、命の保証は無い。下手な実力で1階層降りようとすると魔物に殺される。ダンジョンで調子に乗る奴はすぐ死ぬ。
情報としては多かったが、あとは自分で潜って見ろと言われた。お前なら10階層よりも下に行けるとも太鼓判を押された。長時間戦って遠近両方の攻撃手段があるなら、大丈夫とのことだ。
王都にいる冒険者でCランク以上の冒険者ならほとんどがダンジョン経験者だが、彼らを圧倒した俺は入り口近くでは余裕だろうとのことだ。ただ、決して油断しないようにと強く念押しされた。
心配してくれてありがとうと伝えたら、周囲の冒険者から「おっさんを赤面させるとはやり手だな」と笑われた。
そして、翌日。待ちに待った報告が幸丸からあった。対象を見つけたそうだ。
何の因果か、対象は昨晩話に上がったジュコトホにいるそうだ。居場所が分かり次第報告するようにマキシ様には言われていたのですぐに公爵家に行って面会を希望した。
通されたのは内容が内容だったので、屋敷の執務室に通された。セリナ様も同席している。
「ダンジョンでスタンピードを起こすことは可能でしょうか」
「可能やと思いますが、簡単ではありません。ご主人以上にMPがないと難しいはずです」
ジュコトホと聞いて思いついた疑念を打ち明けた俺にヨウキが答える。判断の理由は違うところから返ってきた。
「ダンジョンは何かのシステムで動いてることが分かっているわ。それこそ地上とは別の法則が働いているかのような別世界ね」
「そんなところに別の法則を上書きしようとするには、余程の力でねじ込む必要があるということさ」
セリナ様とマキシ様が質問に答えてくれた。ダンジョンの常識ではあったようだ。
万が一のことがあれば。
「ダンジョンからのスタンピードが過去に起こったことはある。しかし、そのときは国が亡ぶレベルの災害だ」
「万が一を考えて動く方が良いということですね。俺はすぐに向かうことにします。単独の方が速く動けるので」
マキシ様も最悪を想定して動いた方が良いと思ってくれているようだ。今から動くことを伝えて部屋を出ようとする。
「待つんだ、クーロイ君。これからの動きも伝えておくから聞いておけ。王都上層部で情報共有の上で連絡の魔導具や手紙を送ることを同時に行っておく。君がジュコトホに着くのにどれくらいかかる?」
「おそらく早くいけば3~4日くらいです」
「ご主人が寝てる間にワイらも運ぶから、3日以内は確実やで」
俺の返答にヨウキが被せる。一番速いのは俺だが、休憩が必要になるときはみんなに運んでもらうことで短縮を提案してくれた。不眠不休は便利だ。
「ならばまずはジュコトホに着いたら都市の領主か冒険者ギルドに行って動きからの確認をするんだ。3日後までにこちらで検討した内容で連絡を付けておくから協力してもらえ。王都からも手助けか後片付けの部隊を送る」
「分かりました。それでは出発します!」
二人に挨拶をした後、公爵邸の庭からとりあえず王都の門まで飛翔で移動しようとしたとき、俺を呼ぶ声がした。
「先生!」
「ケイト。何か困ったことでもあったか?」
「いえ、そうではなくて。先生はまた危険なことに挑もうとされていませんか」
「向こうが売ってきたケンカを後悔して地獄に叩き落すだけだから。多少は危険かもしれないけど」
ガラの悪いチンピラですよ、と耳元でヨウキが言ってくるが無視した。
「以前先生とヨウキさんのお二方から依頼された回復魔法の術式の分析ですが、絶対に私がやり遂げますから。安全に戻ってきてくださいね」
「あれな。頼むよ。歴史に名が残るくらいの偉業になるだろうからがんばってくれな。頼むわ」
軽い言葉で心配ないことを伝えたつもりでも、心配そうな表情は変わらない。もしかすると話を聞かれていたのかもしれないな。公爵家では探知系のスキルは使わないようにしてたから。
ケイトに触れることはせずに笑顔だけ浮かべて飛翔を使って浮く。そのまま王都の門を目指すことにした。不幸だけをばらまくような奴らは絶対に許さない。
自分自身がこの世界にとって異分子であることは自覚している。でも、あの創造神様や他の神々が苦労して繋いでいる世界だ。せっかくなら命を無駄にはしたくない。
しかし、不幸をばら撒く時点で俺は同じ命ではなく魔物と判断する。ようやく創造神様の言っていた堕ちた魂とやらである確信が持てた。よその世界まで来て暴れまわってるんじゃないと説教をかましてやりたい。
俺の独断と偏見により、害ある命には終わりなき苦痛でもって罰を加える。今回のことを防いだとしてもこれまでに散らされた命がある。ヨウキがその例だ。
決意を胸に秘めて王都を出て、ジュコトホがある南東の方向に向けて一直線に進むことにした。遠回りしなくても済むように飛翔と走るの繰り返しで進んでいった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
結局は2日後の深夜に到着した。寝てる間はプルがベッドの代わりになり、ヨウキがそのまま抱えて飛んでくれた。休憩や補給はコレクションハウス内で幸丸が作ってくれたものを飲み食いしていた。
さすが良く分からない規模の船を作った文明を持っていただけあって、かの有名なスポーツドリンクや栄養補給の友を出された。日中に調合で作ったMP回復のポーションも役に立った。ヨウキと幸丸の合作だそうだ。詳しい作り方は後日聞くことにした。
到着した時間が時間だったので、まずは冒険者ギルドに行くことにした。領主邸に行くわけにもいかない。
受付には男性一人しかいなかった。男性の受付もいるんだなとくだらないことを考えていたら案内してくれた。クーロイと名乗る少年が来たら丁寧に対応するようにと言われていたそうだ。救護室に泊めてくれた。
翌日朝すぐにジュコトホのギルドマスターと面会した。都市の中にもダンジョンにもそう変化はないそうだ。
だが、それを信じるわけにはいかない。俺が王都を出発してすぐに偵察機はダンジョンに入るところを確認しているし、入った瞬間に対象の魔力反応が阻害されたことを幸丸から報告されている。
偵察機ではダンジョン内が探れないため、せめて情報を集めるためにと総動員してジュコトホ内を探すことにした。そうすると、おかしな動きが冒険者を中心に見られたそうだ。食料などを大量に持ち込む割にすぐに出てくるとのことだ。
ダンジョンの中に潜んで、事を起こそうとしているのではないかという予測が簡単に立つ。幸丸は更に詳しく情報を得るために偵察機を強化したバージョンを急ピッチで作成中とのことだ。
今回に間に合わなくてもいつか役立つ、が既に幸丸の口癖になりかけている。
さて、目の前のギルドマスターはアホなのかがイマイチ掴み切れない。
「本当に変化は無いですか?」
「そう聞いています」
「ダンジョンへの出入りが妙に多い冒険者がいるとかは聞いてないですか?」
「いや、特には…」
「分かりました。手がかりがここには無いようなので、別で探ってみます」
当たり障りのない挨拶だけして、冒険者ギルドを後にする。
「幸丸の報告の方が圧倒的に信用できるとしてここのギルドマスターが敵か味方か掴みかねるな」
「とりあえず領主邸に行くのでどうです?」
「そうしようか」
何となく元人間ということで考え事の整理に付き合ってくれるのはヨウキだ。ダンジョンに潜っていると見せかけて別の何かであったときに後手に回ることがあると困る。
決断するにしても、今日の夕方までだ。判断が遅れればそれだけスタンピードが起こる可能性は高くなってしまう。
一般向けの店が動き出す時間になったので、領主邸に行っても問題ないだろう。一番大きい屋敷に向かうことにした。
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