8深夜の保護者会
青スライムのプルが家族として、村の一員として受け入れられた日の晩。大人二人とスライム一匹の保護者会が開かれることになった。
単純に4歳児が寝ているだけとも言うが。
「さて、結局こいつは何だ」
プルプル。
「何といってるか、俺には分からんが」
「クーロイを守ることは確かのようですね」
「…分かるのか」
自分の妻が自分には分からない言葉を理解していることに驚きを示す。
「そうですね。あなたと私の違いですから魔力関連でしょうか。何となくですが分かります。クーロイほどではないでしょうけど」
「なるほど。俺は魔力感知は苦手だからな」
「とりあえずステータスの鑑定をさせてもらいましょう」
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名前:プル 年齢:0
種族: スライム 性別:無し
鑑定不能
スキル
鑑定不能
称号
鑑定不能
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「…!これは」
「何が見えた」
「ほぼ何も見えません。種族もスライムとありますが不自然な空欄があるので、何かあるのでしょう」
「こいつもクーロイと一緒にいた方が良いのだろうな」
「そうですね」
この子は何かあるのではないかという予感はあった。才能が今まで見たことが無いからだ。
気ままってなんだ!?と言いたい。才能の中に性格に関係しそうな言葉が入っているなど聞いたことが無かった。
しかし、聞いたことが無くても実際に持っているものがいる。ならば信じるしかないと考える。
「人族が才能を登録するまでの10歳に自分で選択できるようになってもらわなければならないか」
「どうあれプルちゃんがいてくれれば一人になることはないでしょう」
「あとはクーロイの努力次第か」
何のスキルを身に付けさせるのが良いのかを検討しておきたいところだ。
スキルの習得には3パターンある。
1つ目は先天的に持っているもの。記憶は残っていなくても魂に刻まれた前世からの贈り物とされている。
2つ目は才能関連で身に付けていくもの。才能は神官から祝福されて判明するはず。これも魂に刻まれているという説だが、生まれてすぐに神官に祝福されても発現しない。
ある程度成長してから祝福してもらうものだ。はやくて1歳と言われているが、子どもによって幅がある。庶民では支払いが大変なので大人数で出し合って出張してもらうことが多い。
この村でも5年に一回くらいの割合で来てもらうことになっている。あと半年もすれば来てもらう時期だ。クーロイは理由を付けて先延ばしにするつもりだ。
3つ目が後天的に努力で身に付けるものだ。何でも身に付くわけではないが、何かの作業を繰り返す中で発生することがある。
スキルが無ければ上手くないわけではない。料理スキル5の料理人と持っていない主婦歴40年のご婦人とが対決してご婦人が勝利することだってある。
動きの補正や良くするための直感がはたらく。ただ、最高レベルの10や8~9までいくと数字の低いものでは太刀打ちできない世界となる。
そこまで達しているものと出会うことなどあまり無いが、牙丸は体術と縮地、クロエミは魔力操作と調合のレベル8をそれぞれ持っている。
出会わないことは無い。
どうせ1つ目2つ目にしてもある程度の鍛錬を積むことは必要だ。努力しない者にスキルは使いこなせない。
感覚に合わない力は発揮しきれない。才能がある分無いよりも早く身に付くだけマシというのがこの世界に生きる者の共通認識だ。
普通を考えてみると、4歳で才能が分かっており、聞き分けが良すぎるクーロイは異常である。
二人の考えを汲み取っているように感じる。その割に魔力関連に関しては年相応の反応が返ってくるので惑わされる。
どこまでも素直に鍛錬に励む孫への接し方が分からなくなる。倒れないようにと心配になる。
「その上で私の課題や手伝いも行ってしまいますからね」
「そうだな」
なぜ自分の考えていたことに相槌を打っているのか、と気づいて妻ながら恐ろしいと考えつつも返事をする牙丸。
「私に降りた神託はクーロイを育てることに集約されていたのですね」
「そうなるな。恐らくは神にも目的があるのだろう」
「私たちの持てる技術を可能な限り学ばせることをお望みなのでしょう」
クロエミには神託スキルがある。レベルも低いので10年から20年に一度くらいしか降りてこない。
夫となるものは近くにいること、開拓村のメンバーとして移住することは今の生活に直結していた。
一番最近のものは夫を人族の都市に行かせ、そこで黒髪黒目の赤子を助けて連れて帰ってくることだった。
そうして今の生活がある。ほとんどがは若い女性の声だったが、最後の神託だけ前のものよりも圧力は強いが声は少年の声だった。
あっけらかんとした声で村の少年の声と聞き間違えたかと思ったくらいだ。
推測したところで会話が出来るわけでもないし、神様にもいろいろあるのだろうと結論づけた。
「そうなると、お前さんに期待するのはあの子と共にいることか」
「これからもよろしくお願いしますね」
プルプル。
「いずれはこの村を出ていくのだろうな」
「そうでしょうね」
2人とも1歳のころから育てているのだ。情はとっくにうつっている。子どもの独り立ちとは違う何かがある。
「それなら、もう少し感情をあの子に見せてあげれば良いのでは?」
「そうだが。自分の子どもでも笑ったら泣かれてしまったからな。俺はあまり笑わないように気を付けるのみだ」
「本当に不器用ですね」
コロコロと楽しそうに笑うクロエミを見て、自分の笑顔はクーロイに怖がられないかと心配になる牙丸だった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「被害無しだと」
「申し訳ありません」
「獣どもめ。ずっと同じではおもしろくないからスパイスが欲しかったというのに」
「あまりすぐには動けません。現状で満足しようではないか。壊れては元も子もないからな。また少し下げろ」
「かしこまりました」
牙丸さんが孫好きのコワモテなのを書きたかっただけ
お読みいただきありがとうございました。