79逆らってはいけないもの
「はーっ。生きてて良かった」
「長すぎですて」
「パンダを外見にして良かったです。念のためお伝えしますが、長時間抱きしめなくても魔力の吸収は可能です」
ヨウキからも船からも苦言のような感想を頂く。プルは頭の上でポンポンと跳ねている。プルも久しぶりに抱っこすることになった。
「いや~。ごめんね。前世では触ることも出来なかったけど、大好きな動物だったんだ」
「もうわかってます」
「ヨウキ呆れてる?もしかして怒ってる?」
「なんというか、初めて見かけと同じ行動やったから驚いたのもあるかもしれません」
コメントに困っているようだ。話を変えておこう。
「そういえばさ、この船の名前つけておこうか。前に言ってた名前は、俺で言うと人族であって、クーロイっていう個体名ではないでしょ?」
「肯定します。では頂いてもよろしいでしょうか」
「うん。名前は幸丸。丸がついてると船っぽい印象を与えるし、このパンダの外見は絶対に世界を幸せにするからさ」
「了解しました。個体名を幸丸で登録いたします」
気に入ってもらえたようだ。良かった良かった。祖父の名前も少し頂戴したがまあ大丈夫だろう。
「船の方も幸丸、パンダも幸丸で良いのかな?」
「仰る通りです。現在は全員が集合しているため船からのみの発言にしています。艦の外に出た場合は遠隔機体から会話を行います。しかし、情報と魔力は本体と遠隔で常に繋がっているので、齟齬は起こりませんのでご心配なく。」
「コレクションハウスの中はどうなるんだろうか?」
「試してみましょ」
検討が必要だと幸丸も考えていたので、コレクションハウスの扉を開いて試してみる。結果は不思議なことに問題が無かった。プルとの情報共有も出来るからな。神の不思議としておこう。
幸丸パンダは行動に魔力が必要になるので、移動時は常にコレクションハウス内にいることになった。魔力だけなので、コレクションハウス内での扱いはヨウキと同じようだ。プルがいないと時間が止まっているような感じになる。しかし、本体との接続には問題が無い。ご都合がすぎるが良いとしておこう。
現状はプルと幸丸の意思疎通は出来ていない。もう少し魔力が貯まれば可能になるとの予想だそうだ。プルは幸丸の言うことは分かっている。
「仕切り直さしていただきますね。これからの役割を明確にしたいんです」
「役割?」
「ご主人のどういった部分で補佐するかです」
「そうか。どうぞ」
ヨウキが仕切り出した。プルは見守るスタンスだ。
「まず兄貴は戦闘と諜報に通信関係です。分裂が出来るから、突発的な役割も増えていくことでしょう。場面によってはご主人よりも強い場合もあるんでどんな場面でも任せられます」
プルがものすごく胸を張っているぞ。悪く言えば伸びた餅に見えなくもない。バレたらしばかれるけど。
「次にワイは主には魔法関係の生産担当になります。新しく術式を作るとかも出来るでしょう。一通りの属性魔法も使えるんで戦闘も出来るとは思いますけど、強くなろうとしたことがないんで戦闘は基本パスです」
自分のことはあっさりと話して最後の幸丸の話へ。
「幸丸はんは、希望通りにまずはご主人のお世話係から始めてもらいます。コレクションハウス内にいることが多くなると思うんでワイから色々とお伝えしましょう。船の方が使えるようになったら移動の足にもなりますかね」
「場合にもよりますが、数年は必要になると思います。マスターや皆さんの魔力保持量の増加に頼らざるを得ません。自分自身でも周囲の環境を害することなく調査と吸収を開始しています」
「魔力吸収は難しい部分あるから無理に進めなくて良いよ」
魔力を一気に集めすぎると環境の変化を起こしかねない。もう少し魔力の多いところで行った方が良い。
「了解しました。本体のエネルギーが充填できれば、順次機能回復を実行していきます。そうすればお役に立てる事柄が増えていきますので、ご期待ください」
「移動の手段が手に入るのは良いね。期待してるよ。がんばるのは俺たちか」
「そうですよ。兄貴もがんばりましょね」
整理すると行動目標として
・サンドバ家壊滅
・魔力を集めて幸丸を本調子に戻す
・術式を解析して状態異常体制の魔導具を作る
・嵐竜王に会って、卵について相談する
・魔石を集めてコレクションハウスを発展させる
これが共通する部分かな。
個人的なものはまた今度振り返っておこう。
「マスター。一つ提案があります。先程説明にあった、敵対勢力を探すことに関してですが、お役に立てるかと思われます」
「探すことが出来るの?」
「はい。魔力を参照することで、その源がどこにいるのかある程度示すことが出来ると思われます」
「じゃあ、あのスタンピード魔法陣を調べれば見つけられるかもしれないってことだ」
よし!そうと決まれば、すぐに出発しよう。口にしなくても全員の意思は一致していた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
王都に戻ってエルンハート家を訪ねた俺たちは幸丸の紹介とマキシ様への相談をお願いした。いつもの応接室にいつもの顔ぶれが揃ったところで幸丸がコレクションハウスから姿を現すと皆メロメロになって、話にならなかった。
中でもケイトとセリナ様の取り合いが激しい。マキシ様はそんな二人と見て満足することにしたようだ。俺も名付けの正解を見ているようで嬉しい。
話はズレるが、思いついたので提案だけしておこう。
「マキシ様。この幸丸はパンダという種類の動物を模した、キメラのようなものなのですが」
「この妙に心くすぐられる生物がいるというのか。相変わらずクーロイ君が持ってくるのは面白いものが多いね」
「とんでもないです。で、1つ提案なんですが、このパンダのぬいぐるみを販売しませんか?」
「ほう。ぬいぐるみ」
今の自分の顔が少々悪い顔をしているのは自覚できる。
「中身が綿で詰まっているんですが、動物を模した色付けや毛並みを整えた布で包んだ人形のようなものです。抱きしめればふかふかですし、可愛い感じにデザインすればどんな生物もかわいくなります。対象は女子ですが、大人の女性にも受けるでしょう」
「なるほど。動きはしない幸丸殿ということだろうか」
「例をあげるなら、動かないプルも有りです。デザインさえすれば人を模した形も有りです」
「面白いじゃないか。服飾デザインを任している職人はいるから一つ提案してみよう」
「ありがとうございます。幸丸は無理ですけど、プルならシンプルですぐに作れるので、見本を後ほど作っておきます」
「新たな女性へのプレゼントの定番になりそうだな」
「成功している様子が目の前にありますからね」
落ち着くまでにしばらく待ち時間があったが、全員が着席した状態になるのに1時間ほどかかった。
「お待たせしました」
「お見苦しいものを見せてしまったわね。ごめんね、クーロイ君」
母子揃って、少々顔が赤い。メイドさん達も仕事でなければ飛びついていたような顔をしているし、仕方ないことですよ。
「それで、君がここに来たのは幸丸やぬいぐるみとやらのことだけではないだろう?」
「「ぬいぐるみとは!?」」
「それは後で」
また食いつかれるが、後回しにさせてもらう。見本のプルは3つ用意した方が良さそうだ。
「色々と話すことはあるんですが、国防の点からお話しします」
真面目に話すべきことから表情は硬めにして話す。幸丸には高度な索敵能力があり、魔力の探知から個人の場所を特定できることを伝える。それだけでも驚愕の情報だったようで、それも今後の研究に回すことになりそうだ。マキシ様は一生懸命メモを取っている。ダブスクラブ公爵家に送るのだろう。
指紋のことがあったから俺は深く考えなかったけど、実際はそこまで有名な話でもなかったのか。それについての考察はまた今度にして、話を進めよう。
「スタンピード魔法陣の使用を認めていただきたいんです」
「ふむ。それはまた当主会議が必要な話だが、クーロイ君がいてくれれば問題は無いのだろう?」
「はい。それにまだスタンピード魔法陣を新たに仕掛けることも可能でしょうから、早く見つけた方が良いと思います」
「それもそうだな。では、早速動くとするよ」
そう言ってマキシ様はすぐに部屋から出て行った。
「先生、ぬいぐるみについて話していただけますか?」
「……はい」
睨みを効かせた二人の前で試作品を作ることになった。
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