78ついにお目見え!遠隔用の機体
今日の昼で会話できるようになってから丸二日経過することになった。結局、もう一つの用事である嵐竜王に出会うことはなかった。外の様子は見てないけどおそらく無理だろう。
前回はここで出会ったが、あのときは卵の行方を確かめるためだ。普段の棲み処まで行かないと出会うことは難しいのかもしれない。
どこに行けば話を聞けるのかまで聞いておけば良かったのだが今更だ。王都でどこのあたりにいるか聞いてみるのが良いかもしれない。
さて、今朝は魔力の補充はしていない。あとは遠隔の機体を確かめるために魔力は取っておいてくれと言われた。
昼までの時間はヨウキの研究テーマの今後についての相談だ。
「さて、最初は呪いの魔導具のまま売り出して、耐性スキルになるまで身に付けることを考えていたんだが」
「余程の人でないと耐性スキルは勝手に身に付くことは無いです。それなら現状の呪いを使うのではなく、キチンと耐性スキルを付けた魔導具の開発をした方がエエでしょう」
「それは前は諦めたんだろう?」
前とはヨウキが殺される前の話だ。
「それは確かです。しかし、とりあえず研究日誌を見返したりしてましたが、時間がたって見直して見ると出来そうな糸口が見つかりました」
「マジか!」
「まだ喜ぶには早いです。この前の魔力を注ぐことで光や火や運動エネルギーに変化したことがヒントになりました」
「どのあたりが?」
「耐性スキルに拘る必要が無いということです。状態異常にならなければ良いんですから、普段から流している魔力で状態異常の回復が出来れば良いんです」
俺が無限に鍛錬するときにやっているあれか。生命魔法を纏っているおかげで、魔力が切れるまで疲れ知らずで動けるやつ。
「ご主人のは使い方がめちゃくちゃですけど、同じと言えば同じです。ただ、やはり魔力の一定以上持っている人限定になりますし。状態異常の原因が重いものなら状態異常を遅らせるしか効果が発揮されません」
「今後の課題としては、魔力と術式の効率化ってことだね。魔力を扱うことに慣れていない完全前衛型や、なんなら一般人でも発動して効果が高ければなお良い」
「おまけに、一つで色んな状態異常を防ぐことが出来ればなお良いですね」
「そうなると、高位の回復魔法や聖魔法、ご主人の生命魔法から術式の一般化が第一歩ですかね」
それを聞いて、俺は立ち上がるとゆっくりと魔力を練り始める。
「ならば善は急げだ、俺の生命魔法から見せようか」
「あ、待ってください。出力間違えるとそれらの魔法でワイが消滅します」
練った魔力をそのまま留めると、ヨウキの顔面骸骨と見つめ合う。
「消滅します」
うん。大事なことだもんね…。
「ヨウキは見るのも危ない?」
「見るくらいなら平気ですけど、近すぎると効果くらいますから。魔力込めない状態で術式の解読をするか、ぶっちゃけ違う人に術式だけ見せてもらう方がエエです」
「う~ん。俺は正直感覚で使ってしまってるから、あんまり分かってないんだよな」
「普通はそうです。根気よく意味を解読して使うようなのはクソ真面目としか言いようが無いです」
糸口を掴んだと思ったが、どうしようか。そこまで根気のいる作業はぶっちゃけやりたくない。
既にスペシャリストとして活躍している人をスカウトするか。
「お嬢がいるやないですか」
「え?お嬢ってケイトのこと?」
「はい。あのおうちやったら、もしかしたら解析してるかもしれませんし、お嬢やったらご主人が言ったらやってくれるかもしれませんよ」
「いや。それは、う~ん。貴族として必要な力までは身に付けさせたけど、それ以上に利用するのは何か違うというか…」
たしかもうすぐ10歳の誕生日を迎えるはずだ。可能な限り直接祝うようにしよう。それは置いといて悩んでいるとヨウキが更に畳み込んでくる。
「ちゃんとした仕事を割り振っといた方が良いと思いますよ」
「なんで?」
「お嬢は放っといたらついてくる気がします」
「それは確かに」
「年齢もあるからまだ分かってないことも多いでしょう。だからお嬢にしか出来ない、絶対役に立つ上に時間のかかることで、決め手はあの家にいた方がやりやすいこと!」
こいつ変なところに頭回るな、と納得するような話を聞く。流れに身を任せているだけだろうか。
「それを達成した後は?というか俺の依頼としてはかなりハードルが高くないか?」
「このプロジェクトに参加してるってだけで、結婚相手も引く手数多やろうし、研究員としても働く場所はお嬢が決められるくらいでしょう。ハードルは高いけどお嬢はきっとやってくれますよ。ワイはそう信じます」
「エルンハート家に話を持って行くのは確かに良い案だよな」
「まずはそこがわからんと素材に乗せる術式は決まらないので、まずはそこから始めましょう。ということでそれまでは、ご主人用の呪いの魔導具を作成します」
「うん。そうして。耐性上げたい」
作ってほしいものを改めて共有しあって、会議は終了した。コレクションハウスから以前作ったサンドイッチを取り出して軽めの昼食を取り、予定時刻を迎えた。
☆ ★ ☆ ★ ☆
「終了しました」
「あ、音声が滑らかになってる」
「皆さんの声から様々な音声パターンを入手しました」
船内で色々と話してたからか。高性能AIだなぁ。
「話を逸らしてごめんね」
「とんでもありません。些細な点まで気づいていただき感謝致します」
ものすごい丁寧な口調だ。俺たちだけの言葉だけから学んだのでは無さそうな気がするな。
「では、遠隔機体の完成品をご覧いただきます。入り口をご覧ください」
「なんか雰囲気ありますね」
ヨウキの呟きを聞きながら階段を上がって入り口に近づく。歩く音は微かにするものの、機械音ではない。
そして、扉の陰から姿を現した。
「ほぉ…」
「は……?」
ヨウキは感心したような声をあげている。見たものに衝撃を受けて疑問を浮かべたのは俺だ。震えが止まらない。
「そ、その姿は…」
「はい。遠隔機体を作成中にヨウキ先輩とお話を致しました。自分のしたいことをしても構わない、お聞きしました」
「ご主人には言ってませんでしたけど、たぶんそう言わはるでしょ?」
まあ言うけどね。そう思ったので頷きだけしておく。声は出せない。
「この艦の記録上では万能戦闘艦である以上、かなり大規模な戦闘を行っています。しかし、私のしたいことは生命体を幸せにすることを希望します。よって、遠隔機体の外見は愛される動物の姿にさせてもらいました」
「以前に一回だけご主人に話をしたことがあったん覚えてましてね。ワイは見たことなかったから、プルの兄貴の記憶を辿ってもらったんです。ご主人がご家族に聞いてた動物の話を確認して、この船の記録から探したんですよ」
「艦には様々な記録が保存されています。データのある生物で良かったです。マスター、この遠隔機体はいかがでしょうか」
俺は話を耳にしつつ、ふらつきながら近づいていく。
「さわっても……いいの?」
「問題ありません。動物の様にほんのり温かく発熱するように設定していますし、毛並みも本当の動物に近づけています」
「めっちゃすごい技術や。嫉妬してまうで」
「恐縮です」
もうほとんど話は聞いておらず、膝をついてぎゅうっと抱きしめる。
「あったかい…」
「気に入っていただけたようで何よりです。なお、抱きしめたときに許可を頂ければ魔力を少々頂戴するようにしています。魔力持ちの友好的な生物にはどんどん抱きしめて頂けると、本艦の復帰が早まります」
「めっちゃあざとい仕掛けやん」
ヨウキはいろんな村で抱っこされた陰で、不敵に笑う顔を思い浮かべていることを想像する。苦い顔をするしかない。
「それでもいい…」
「ご主人メロメロですやん」
「ちなみに二足歩行が可能で、マスターの身の回りのお世話が可能です。戦闘機能も組み込みましたが、最終手段とお考え下さい」
「たぶん、何も聞いてないから後でもう一回言うた方がエエで」
「了解です」
遠隔機体が何の動物かって?
体長1メートルくらいのパンダ。おなかのモフモフ具合最高…。
お読みいただきありがとうございました。
ずっとパンダに顔をうずめるために小説書いてました。もう悔いはありません。まだ続けますけども。




